線の記憶①
気温は元に戻り、気温差による空気の層も消えていた。少女は獲物がいると推測した場所に辿り着いた。
「やっぱりフロストデーモンでしたか。大きさ1.8mぐらいでツノが1本、武器は無し…… 偵察のお仕事だったのかもですね」
腹部が真二つに寸断され、徐々に断面から炭化の始まっているそれに向かい、とても冷ややかにつぶやいた。
「また潜る前に、一旦家に戻りましょうか。あの子たちのことも気になりますし……」
少女は5分ほど南へ歩くと、2階建てのログハウスへ辿り着いた。入り口付近には小さな畑、畑と家を囲うように腰の高さ程のウッドフェンスがあり、表札に『時翠 友理 その他3匹』と書かれていた。
「ただいま、みんな居る?」
少女は玄関から呼びかけた。するとほぼ真下から甲高い元気な声が聞こえた。
「友理さんおかえりなさい! 今回はどうでしたか!? ちなみに友理さんのいない間に他の2匹は逝ってしまいました!」
と聞こえ終わるとほぼ同時に、奥の部屋から少し違う甲高い元気な声が聞こえた。
「コラ! チョケ田! 私を勝手に殺すんじゃないよ!」
「あれ? チョケ本ちゃん、生きてたんだ! 可愛すぎて気づかなかった! ゴメンゴメン!」
奥の部屋から体長30cm程で、オレンジ色をした可愛らしいペンギンが、プンスカしながら出てきた。
「友理さんお久しぶりです! チョケ田がいつもチョケててごめんなさい。チョケ川ちゃんが今出かけていて、後数日は帰ってこないみたいです」
「チョケ本ちゃん、ありがとう。チョケ田ちゃんもいつも通りのおちょけっぷり、ありがとね。とても和むよ」
友理は目線を下に向け、チョケ本と同じく体長30cm程で、色は青色をしたペンギンのチョケ田を視認した。
「チョケ本ちゃん、悪いんだけどいつもの持ってきてくれる?」
「わかりました!」
チョケ本はそう答えると、かけ足で2階へ登って行った。それを見計らったかのように、チョケ田が友理へ棘のある質問をした。
「友理さん、いい歳して若作りするって大変じゃないですか?」
「チョケ田ちゃん、私が返しに困ること言わないの」
そういうと、140cmだった友理の身長は156cmまで徐々に伸び、セミロングの黒髪は金髪のロングに色と長さを変えた。身長の伸びで元々来ていた白のロングワンピースの裾が膝下まで上がったところで、今度は胸の膨らみが始まり、気づけば裾は膝上まで上がっていた。
「何回見ても飽きませんな! ロリがヤンキー姉ちゃんに変身するのは! あっ、さっきの若作りじゃなくてロリ作りの間違いでしたわ!」
チョケ田はハイテンションで友理の変身をいじった。
「品のないおじさんみたいなこと言わないの。私なりの意味がある変身なの」
最後に両耳の形が尖り、変身が完了したところでチョケ本が戻ってきた。
「友理さん、お待たせしました! いつ見ても美しいお姿です! エルフは元々美しいと本に書いてましたが、友理さんは友理さんだから美しいのだと思います!」
「ありがとう、チョケ本ちゃん。素直に嬉しいよ」
友理は嬉しいと感じているものの、どこか心ここに在らずな表情で返答していた。
友理は変身の終わったサイズにあった黒色のロングワンピースに着替え、さらにその上に灰色のローブを羽織った。
「友理さん、少し聞いてもいいですか?」
「どうしたの? チョケ本ちゃん」
「友理さんのいない間に、こんな本を見つけてしまいまして……」
その本の表紙には『7つの厄災と終焉』と書かれていた。
「隠しておいたつもりだったんだけど、見つかっちゃったかぁ……」
「ごめんなさい! ダイニングテーブルの上に置いてあったので、つい誰が見てもいいものだと思ってしまいました……」
「あれ、私の部屋の本棚の隅にしまっておいたはずだったんだけどな……?」
そう言い終わる前に、チョケ田は全力で外へ逃走していた。
「前に私が第4の厄災って事を話したのは覚えてる?」
「はい、覚えています。正直友理さんがそんな恐ろしい人だとは今でも信じられませんが……」
「チョケ本ちゃんは優しいね、ありがとう。でも、前話したことは事実で、ここに書いてあることも概ね本当のことなの」
「ということは、私たち3姉妹のお父さんはやっぱり悪者だったんですね……」
「それだけは違うよ! チョケちゃんたちのお父さんは今も世界を救おうと頑張ってる! だから、私がなんとかするまでもう少し時間を頂戴……」
「もちろんです! 私たちにとって友理さんはお母さんのような方で、お父さんがいなくてもとっても幸せですから! だから、この本に書いてあるような無理はしないでくださいね……」
チョケ本はそう言うと、大粒の涙を流していた。