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点の世界②


 チョケ本と青年は長らく歩いた。花畑から森林を抜け、開けた土地に景色は変わっていた。


「長いこと歩かせてしまってごめん。あれが僕の家だよ!」


 青年が指差す方へチョケ本が視線を向けると、どこか見覚えのある建物がそこにはあった。


 2階建てのログハウス、入り口付近には小さな畑。畑と家を囲うように腰の高さ程のウッドフェンスがあった。


 チョケ本はその外観もあるが、直感で友理や自分たちが住む家と似ている、むしろそれそのものとわかった。


 しかし慣れない空腹は、その程度の違和感をすぐにかき消した。




 二人は我が家へ戻るそれと同じく、自然な形でダイニングへたどり着いた。


「よし! お茶なんだけど、和風か洋風好みはあるかい?」


 今のチョケ本にとって、正直どうでも良い2択だった。


しかし、ここで選択をミスすると何かダメな気がしたため、残り少ない体力を振り絞ってでも正解を求めることにした。


「どちらも好きなのですが、おすすめはありますか?」


「おっ! おすすめって言われたら、とっておきを出すしかないね! すぐ出すからちょっと待ってて」


 青年がキッチンでお湯を沸かし始め数分、その間チョケ本は椅子に座りながら眠りに落ちていた。


わずか数分のはずだった。


しかしそこで初めて見た夢は、その時間の何倍、何十、何百倍も圧縮されたような、取り留めのない膨大な情報が脳内を駆け巡り、ありもしない映像が瞼の裏に投影されたものだった。


 お湯が沸いたことで、やかんの甲高い音が鳴り響き、チョケ本は慌てて目を覚ました。


今見ていたはずの夢の記憶が、まるで思い出せない。


そもそも思い出そうとしても、その夢には形が存在していないと直感で悟った。


 以前に似た経験をしていたからである。


それは初めて魔法を使えるようになった時、一瞬意識が飛びかけ、その間によく分からない情報が脳内を駆け回った。


意識が正常に戻り、そのよく分からない情報が何だったのかを思い出そうとしても、チョケ本の知るどんな言語や歴史とも合致しない。


それどころかその情報を言葉に変換、文字や絵に転写をしようとしても、形がアウトプットできない。


この時、この情報には形がないと悟った瞬間であった。


その後、友理に話してわかったのが、系統魔法を使えるようになる時に経験するものということだった。




「お待たせ! だいぶお疲れだったんだね……。

だから、とっておきのお茶はまた今度にして、まずこの温かい白湯を飲むと良いよ! 飲み終わったらこのクッキーを、よく噛んで食べてみて!」


 チョケ本はお茶の質問をされた際、適当にどちらかを選択しなくて良かったと実感した。


おそらくこの空腹で変わったお茶、それもカフェインなどの刺激が強いものを出された際には胃腸が荒れ、せっかく食べたクッキーの消化吸収に影響を及ぼす。


効率を求めるチョケ本にとって、無意識のうちにここまでの展開は本能で察していた。


しかしそれをさらに察したかの如く、きっと出したくてしょうがないのであろうお茶を諦め、温かい白湯を出してくれた青年に対し、今まで感じたことのない胸を締め付けるような想いを感じた。


 だがそれらの感情を全て上書きする出来事に直面する。


「えっ……。これって……。いや、今は気にしてはきっといけない」


 あまりの驚きで心の声が小声で漏れてしまったが、意を決して青年に向かって声をかけた。


「お気遣いありがとうございます。お言葉に甘えていただきます」





 昔、チョケ本はチョケ田とふざけて、ペンギンごっこをしたことがあった。


本で読んだ動物園の本。


そこに書かれていたペンギンへの餌やりをチョケ田に話したところ、チョケ田は迷わず家の地下室から原初の世界より残る、魚の缶詰を持ち出した。


「チョケ本ちゃん、口開けてみ!」


「えっ、こう?」


 チョケ本が何の疑いも持たず口を開けると、缶詰から取り出した魚を放り投げた。


チョケ本は本能が働いたかのように、それを一口で丸呑みにした。


「おぉ、ウチらってやっぱペンギンなんやね」


 チョケ田はそう感心し、チョケ本はそれはそうだと思い、お互いに缶詰の残りを交互に放り投げ合い、当たり前のように丸呑みし合ったのであった。





 青年に話しかける直前、ペンギンごっこを不意に思い出し、今ばかりはそれは絶対にダメだと思い、上品な物言いと食べ方を心がけるのであった。






「クッキーの味、どうかな……? 口に合うと良いのだけれど……」


 チョケ本は衝撃を受けていた。空腹こそ元の世界では感じないものの、味覚は存在していた。


しかしこのクッキーを一口食べた時の味は、味覚で感じられる範囲を大きく超えていた。


「幸せな味……。 です!」


 美味しいと言えば良いだけのはずだった、しかし美味しいを遥かに超えていたための感想だった。


「本当に! すごく嬉しいな! 美味しいって言ってくれるよりも、なんだかもっと嬉しい!」


 青年は心の底から喜んでいた。


「クッキーまだ沢山あるから、好きなだけ食べて! 僕ちょっと嬉しすぎて……。少し落ち着くために外の空気吸ってくるから、ゆっくりしててね!」


 青年は込み上げてくる感情が抑えられず、チョケ本は置いて外へ飛び出した。




 一方チョケ本は目の前のクッキーに夢中で、青年が嬉しさのあまり涙を堪えていることには気づいていなかった。






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