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点の世界①


 チョケ本は恐怖の最中、ある景色が目の前に広がった。それはとても広大だが、それであって小さい。目の前には大きな山、左後ろには太陽。



 その景色はいつのまにかチョケ本を飲み込んでいた。同時に抱いていた恐怖も飲み込み、チョケ本はそれにより我を取り戻した。



「なに……。これ……」



 しかし同時に飲み込まれた恐怖の中には、友理によるもの以外も含まれていた。



 一切の恐怖が無い、それは有ることよりも恐ろしい。チョケ本の思考は今、回っているようで止まっている状態だった。



「私行かなきゃ、あの山へ」



 チョケ本は無心で目の前にある大きな山に向かって歩いていた。理由は無く、考える訳でもなく、まるで本能であるかのように歩みを止めない。





 チョケ田もチョケ本と同じ状況にあった。しかし違うのは歩みを止めていたことと、焦りのような感情により、急激な思考加速が繰り返されていることだった。



「なんや……。これ……」



 手足を動かそうとしてもほとんど感覚がない。瞬きですら思うようにいかない。ただ焦りだけが募り、次第に何に焦っているかもわからずとなった。






 時は流れた。しかしそれを把握するすべをチョケ本もチョケ田も持ち合わせない。しかし時が流れたとわかるものが一つだけある。自身の飢えである。



 実際に飢えを感じたわけではなく、自身の身体が痩せ細る姿を目にしたことで、本来感じるはずのない飢えを新たに覚えたのである。



 彼女たちのいる世界には食事の概念が存在しない。第1の厄災が発生するよりも前、原初の世界と呼ばれる頃には存在していたと、チョケ本が以前読んだ本には記されており、チョケ田はそのことをチョケ本から聞いていた。





 さらに時は流れた。今度は飢えの時と違い、安らかに意識が遠のいていく感覚によるものだった。これは睡魔であると気づくまでにそう時間はかからなかった。



 飢えの時と同じく、睡眠の概念が現在この世界には存在しない。



 原初の世界には人間と呼ばれる種族が多数存在しており、現在の世界において歴史を知る術である本はその人間が書いたものとなる。



 人間は1日の約3割を睡眠に使用していたが、現在の世界で睡眠をとる者はいない。それは人間が絶滅したこと、並びに原初の世界に存在していた人間以外の生物は第一の厄災の影響を受けているためである。





 チョケ本とチョケ田は睡魔に飲み込まれた。




 チョケ本の目の前には見渡す限りの花畑が広がっていた。

「ここはどこ……? あれ、私何をしていたんだろう」



 チョケ本の思考は正常に戻った。しかし眼下に広がる景色に対し理解が追いつかず少しの間動けずにいた。



 すると後ろから男が呼びかけてきた。

「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」



 チョケ本が振り返ると、どこかで見覚えのある青年が心配そうにしていた。



「はい……。大丈夫です。お気遣いありがとうございます。あの、すみません。変なことを聞くようで大変申し訳ありませんが、ここはどこでしょうか……?」



 通常見知らぬ土地でいきなり声をかけられた場合、警戒並びに虚勢を張ることをするよう、友理からは教わっていた。しかし見覚えのある青年を前に、つい友理からの教えを破る形で質問をしてしまった。



「ここは『点の世界』と呼ばれる場所だよ」



 チョケ本は原初の世界から現在の世界に現存する書物の大半には目を通していると自負していた。書物の場所は観測魔法で日頃からマーキングし、魔物が多く自分では取りに行けない地域の書物は、友理に無理を言って護衛してもらい採集。友理に頼むことができない魔王城の書物は、チョケ川にこっそり借りてきてもらい、読み終わったら返却をしていた。



 そんなチョケ本が全く知らない世界の名前を青年は口にしたのである。



「すみません、聞いておきながら大変申し訳ございませんが、『点の世界』と言うのは聞いたことが無く、他に名前があったりしませんでしょうか?」



「そうか! 君はあっちの世界から来たんだね!」



 青年は目を輝かせ、チョケ本へ向けていた心配の感情が瞬時に期待へと変わった。



「ごめん、ついテンションが上がってしまって質問の答えになっていなかったね。答えとしては他に名前は無いのだけれど、諸々説明すると長くなりそうだから、家に来てお茶を飲みながら話そう! 簡単だけど茶菓子もあるから、もしお腹が空いているならぜひ味わって欲しい!」



 側から見たら子供を誘拐するような光景そのものだった。しかし青年の顔に見覚えがあったことと、覚えたばかりの空腹には逆らえず、快く青年からの提案に乗ったのだった。



 家までの道中、テンションの上がっている青年は鼻歌を、チョケ本は空腹のためか可能な限り無心となり、エネルギー消費量を抑えていた。時折青年はチョケ本を気遣い声をかけるも、慣れない空腹で次第に頷きだけで返すようになっていた。



「ごめんね……。 もうあと少しだから! 実はね、今日の茶菓子はいちごクッキーなんだ! ずっと育てていたいちごの木が最近ようやく実をつけて、少し前にちょうど収穫したんだ! 思いの外量が多くて、採れたてをいくつか味わったあとは保存用でいちごジャムとドライいちごを作って置いたんだ! クッキーにはドライいちごを細かくすりつぶして混ぜていて、イチゴの風味をそれだけでしっかり味わえのだけど、味変でいちごジャムと一緒に食べるとこれがもう最高なの!」



 レシピや味は原初の世界時代に書かれた料理本で知っていたが、空腹時にこう言ったことを言われると余計にお腹が空くという感覚は書かれていなかった。普段のチョケ本であれば書物に書かれていない発見をした際は目を輝かせ喜ぶのだが、今はそれどころではなく、ただ無心を貫こうと必死だった。





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