魔王四天王襲撃 第6の厄災攻防戦④
友理が雷帝の杖を解放する少し前。
「チョケ本ちゃん、第6の厄災は今どないなってるん?」
「これは……。なんて言ったらいいのかが難しい……」
地上に落ちた第6の厄災に対し、魔物がびっしりと包囲し様々な攻撃を放っていたのである。しかしその攻撃は天秤に当たる寸前で全て消滅していた。
魔法攻撃は当たる寸前に消滅し、体術による攻撃は当たる寸前で攻撃動作前の状態に一瞬で戻ってしまっていた。
「多分なのだけど、概念系統魔法で魔物の攻撃が無かったことにされているのかもしれない」
「なんやそれ? チートやん」
「でもものすごい勢いで第6の厄災さんの魔力は減っているみたいだから、長引けばどうなるかは……」
チョケ本の観測は的を得ていた。第6の厄災最大の弱点は魔力枯渇。完全天秤は力を発揮する際、魔力と均衡を保つ心が必要となる。
均衡を保つ心に関しては第6の厄災が肉体を捨て、一体化したことで実質的に弱点では無くなった。
しかしその反面、肉体を失った事で魔力を自力で供給できない大きな弱点を残す形となっていたからである。
「というか、魔物に対して攻撃はしてへんの?」
「今のところしていないみたい。そもそも攻撃できるか怪しいかも」
「どういうことや?」
「これは推測なのだけれど、天秤自体に攻撃をする力が備わっていないと思う。天秤本来の力が発揮されるのは2つの条件間で偏りが生じた際に限るのだと思う。
現状その2つの条件は攻撃している魔物と防御している第6の厄災さん。攻撃と防御が拮抗する今の状態では、それ以上天秤からアクションを起こす事ができないはずなの」
チョケ本の推測は概ね当たっていた。魔物たちの力はさほど強いものでは無い。故に世界の均衡を揺るがすような状態ではなく、今あるのは魔物と天秤の間にある攻防拮抗の状態のみ。
もしそこにガランが攻撃を加えている場合、話は変わっていた。四天王クラスが第6の厄災に対し攻撃を行うということは、第2の厄災 魔王の力を増す行為に直結するためである。
ガランは高みの見物をしていた。魔王からの指示は、水晶を使い天秤を地上に落とし、地上に集めた魔物で総攻撃を行わせること。
そして魔力切れになったところで天秤を回収しろというものだった。
「てことは、友理さんが助けに行かんとマズいってことか?」
「そうね……」
チョケ本とチョケ田はもどかしい気持ちに襲われていた。自分たちに戦える力が有ればと。
第6の厄災は考えていた。今まで一度もこのような襲撃は無かったのに、このタイミングで四天王クラスを一人、正確には友理の元にもう一人大きな魔力を持った何かがいることは感知していたので二人も動員されたことに。
「魔王が最優先で狙っているのは第1の厄災 時の竜だったはず。それをワシに変えるというのは、それなりの理由があると見るのが妥当じゃろう。
しかし、ワシを狙うということは時の竜と違ってリスクがあるのになんでじゃ」
魔王にとってリスクというのは友理のことを指す。第6の厄災と友理の間には、実質的な同盟関係が存在している。ただそれは同盟関係というよりも、共生関係と呼ぶ方が適切と言えるものだったりする。
友理は魔王を滅ぼすため、魔王軍を根絶やしにするため日々動いている。
第6の厄災は完全天秤の影響で、魔王に対し常に弱体化の概念を上書きし続けている。
友理が魔王を滅ぼすためにはその弱体化が必要不可欠なのである。しかしながら、その弱体化があっても友理は魔王に勝てるレベルでは無い。それに加え魔王の圧倒的な力は、第6の厄災の力を持ってしても完全に弱体化させることが出来ていないのが実情だった。
友理にとって第6の厄災の魔王弱体化は必須であり、第6の厄災にとって友理は魔力供給源として必要という関係性が現在成り立っていた。
「それに、ワシの力は時の竜に対しても現在作用しておる。じゃから狙いを変えたところで、時の竜攻略にはならんはず……。やはり今回の襲撃はリスクしかないように見える」
どれだけ考えてもそれらしい答えを見つけることができないでいた。そんな時、一つだけ些細な違和感を思い出した。
「あやつ、上で魔力の圧を相殺した際に杖を使っとったか……?
いや、おそらく高位の武具を身につけておったんじゃろう。
だから杖なしでも魔力を扱えたと見るべきか。
だってのぉ、あやつはあぁ見えてもエルフのはず。
ワシとてガランという名を聞いて、わからん程老いぼれてはおらんからのぉ」
魔力を放つこと、それ自体に魔法名は存在しない。しかし魔法であることには変わりなく、それらは無系統魔法として呼ばれる。
系統魔法は魔力の『変換』が大きく影響する。雷系統魔法を使う際、この世界に漂っている無系統の魔力を雷の性質へ変換する必要がある。
ゆえに全ての系統魔法というのは、無系統の魔力から生み出されるものであり、『変換』の能力が高くなければその効果を最大限発揮する事ができない。
裏を返すと、無系統魔法が強い者というのはそれだけで脅威になり得るということ。
友理がガランに対する純粋な武力に敬意を払う理由の一つに、無系統魔法の強さも含まれていた。