魔王四天王襲撃 第6の厄災攻防戦②
「『風系統中級魔法 フライト』!『無系統中級魔法 フィジカルアップ』!」
友理は物理攻撃に対し、最低限の対策として二つの魔法を自身にかけた。
通常時の友理は体術ランクはCであり、これは最低ランクとなる。それを『フィジカルアップ』でBランクへ強制的に上げ、さらに『フライト』により回避能力を伸ばす事で魔法使いとしての戦術幅を最低限保てると踏んでのチョイスだった。
『フライト』により空中を自由に飛び回れるため、ヨハネの元まではすぐに辿り着いた。
「お別れの挨拶は済まされましたか?」
「相変わらずベラベラと喋るわね。私そういうの嫌いなのよ」
「わぁ、怖い。でもそういう所、嫌いじゃないですよ?」
その言葉に友理の我慢は限界を迎え、手に持っていたBランクの杖を後ろへ放り投げ、チョケ田に手渡された杖を1本ローブから取り出した。
「私、黙れって意味を込めて嫌いって言ったつもりなんだけど。勝手に貴様の中で変な解釈するんじゃないわよ!
『雷帝の杖』解放!」
その瞬間、30cm程だった木の杖は5本の大槍へ変化、分裂をした。それと同時に周囲一体に激しい雷が大槍から無数に放たれた。
「なんですか? 私にその程度の雷魔法は効かないのは知っているではありませんか」
ヨハネはそう言いながら、正面から来る雷を避けずに受けた。
「過信も程々にしなさいよ。貴様が軽減できるのは魔力そのもの。この雷は系統魔法とは異なる、私の元居た世界の力そのもの」
ヨハネはその場に跪き、身体中から白煙が上がっていた。それはダメージが通ったことに他ならなかった。
「なんだ! その力は! 聞いてないぞ!」
ヨハネは激昂していた。魔王からこの杖のことを聞いておらず、友理からの説明に対して理解が追いつかないことも怒りの原因となった。
「あらぁ、さっきよりも威勢がいいわね。何かいいことでもありまして?」
友理は最高に嫌味な言い方をして見せた。
とりあえずそれにより、頭に登った血も下り冷静な判断ができるまでに回復したのだった。
「悪いけれど、私第6のところ行くからそこで大人しくしていなさいな」
その言葉をかけながら、先ほど投げ捨てた杖を拾いに後ろを向いた時だった。
「図になるなよ。『空間系統上級魔法(改) ブラックボックス』!」
ヨハネが聞きなれない系統魔法を放った。正確には(改)と付かない『ブラックボックス』は存在しており、もちろん友理も使うことができる。
「あんた今なんて言った? 空間系統上級魔法(改)って言ったわよね? それも杖なしで」
「あぁ、言ったさ。これは普通の『ブラックボックス』とは違う、対時翠さん用に魔王様が用意してくださった魔法ですよ。
そしてこの100㎥程度の空間に私と時翠さんの二人きり。勘のいいあなたならそろそろわかるのではないですか?」
「あー! 気持ち悪い! せっかく頭が冷えたと思ったのに、全部台無しだわ。
もう終わりにしましょう。
貴様は塵すら残さない、そしてこの程度の箱は速攻で壊して出る! 以上!!
『雷帝の杖雷混合系統 最上位魔法 新生発雷」
友理の頭上で5本の大槍が五角形状に繋がり、その上に圧縮された雷球が瞬時に現れ、その刹那、雷球は急な膨張を起こし「ブラックボックス」内を雷、いや無数の雷槍でしばらくの間突き刺し続けた。
チョケ本は家の中から観測魔法を使い続けていた。リアルタイムで使う観測魔法の場合、かなり魔力と集中力を使うことになるが、映像と音声を脳内で受信することができる。
「チョケ本ちゃん、今どんな感じなん?」
「チョケ田が渡した杖、あれ何!? あんな杖というか槍? を私見たことないんだけど」
「あぁ、あれか。雷帝の杖の方やろね。チョケ本ちゃんは友理さんが永遠の杖以外で杖を名前を呼んでるところ見たことある?」
「いや、無いけど?」
「名前のある杖、それはSランク以上を指すんよ。
そして雷帝の杖はSSランクやね」
「Sランクよりも上のSSランク……。私初めて見る。SSランクっていったら封印指定武具と同等出力を誇ると言われているじゃない。
そもそもあれは杖なの?」
「そうやね、雷帝の杖は別名『雷槍』とも呼ばれる魔法と物理を兼ね備えた攻撃特化の武具で、友理さんの元いた世界で最上位武具の一つだったらしいわ」
「元いた世界……。それって向こうから持ってきたって事なの?」
「うちもそこまでは知らん。ただ言えるのは、この杖を使うってことは友理さんが相当苦戦してるってことや」
「どういうこと?」
「永遠の杖を使わず、あえて別の杖を使ってる時点でだいぶマズい状況ってことや」
「確かに。なんで他の杖を使っているんだろう……?」
「詳しくはわからんが、魔王絡みやから使わんのやと思う」
「それって封印指定武具に対して魔王が対策をしてるってこと?」
「うちに全部答えさせてどないするん! こういう考える系はチョケ本ちゃんの役割やろに。 しっかりせぇや!」
「なんだかごめん……」
「どアホ! うちに謝ってどないすんねん!」
チョケ本は遠征先で友理のことを全然知らないとネガティブになっていたことを今になって改めて痛感してしまっていた。
チョケ田が自分の知らない杖のことを詳しく知っていたこと。選んだ杖を友理が褒めていたこと。これらが本来参謀に近い役割を普段担っているチョケ本の思考を鈍らせ、気持ちも弱々しくさせていたのだった。