第6話:シスターになったら?
「これって最悪。」
歩行者の足音に恵まれ、公園のベンチからかすかなつぶやきがルーシーの口から響いた。
「道、分からない。」
汗だらけの頭から麦わら帽子を脱いだ。
靴紐を再結ぼうと手を伸ばしたルーシーは、人ごみの中で助けてくれそうな人を探した。
それは簡単なこと!はずだった。
今までの人生なら、どんな人にでも声をかけて道を尋ねるのはもちろんだったが、ここでは.....
ここは地元じゃない。
靴紐を下ろし、汗ばんだ手のひらを顎の下に当てた。
ルーシーは自分の緊張感を飲み込んで探し続けた。
目は右を向いた。
彼女はどうかな?いや、子供で忙しそう。
目は左を向いた。
彼?もう!今までジーと見られてたのに今は目まったく合わしてくれない!
一体なぜいつもひとりでこの用事をしないと行けないのか!?
「いい練習になるよ!」
優子とアルフレッドおじさんはいつも玄関で声を揃えて言った。
一人がルーシーの手に買い物リストを押し付け、もう一人がルーシーを新世界の市場の方へ放り出した。
どちらかと言えば、彼女の叔父は下手な日本語を上達させるためにこのような用事をするべきだとルーシーが思ったが、もうしかしておじさんは引きこもり!?
指を膝の上で心配そうに叩きながら、ルーシー2秒以上自分の方を見てくれる人がいないか探し続けた。
ない。
頭を下げて自分の手を見つめた。
彼女は一瞬、弟が二人とも眠れない夜に指先に描いた石炭の顔や、夜遅くまで続いたままごと遊びを思い出した。
「今度はルーシーがカウボーイになって、私がシェリフだよ!」
弟の声を思いながら、ルーシーは指を膝に差し込んで、太ももを傷つけそうになった。
「ママ、僕疲れたよ!座りた〜い!!」
突然、疲れ切った幼児の泣き声がルーシーの耳に届いた。
その小さな男の子は、裸足で草履を持ち、着物は土と草のシミで汚れていた。
母はルーシーとおそらく同じ年齢、24歳か、高くても26歳くらいだった。
「母としての喜び」とか「子供を産める栄光」とか、スーフォールズの教会の変人たちが言ったようなこと、ルーシーはまだ理解できなかった。
数年前、助産師が弟を出産するのを手伝ったとき、ルーシーが「母になる喜び」を一切も感じなかったし、今にもこのかわいそうな女を見ると、産んでみたいとまったく思わなかった。
結婚よりシスターになろうかな。
「はい、はい。疲れているだね。あっ。」
あの二人はよろよろとルーシーの隣のベンチに向かったが、母はいやな顔をし、息子を後ろに引っ張った。
「うんち!鳥がここにウンチしたんだ!」
男の子は母の腰につかまって舌を出し、泣き声が急に笑いに変わった。
男の子(そしてルーシー自身も)は、馬鹿馬鹿しい笑い話だと思ったが、男の子の母親はもう限界のようだった。
母親はハッとして、チクッと言いながら、ルーシーのベンチの方を向いた。
スカートを掴んで肘掛けの方に滑り、ルーシーは母に座るよう手を振った。
「お願い?」
彼女はぎくりとした。なぜ質問のように聞いたの!?
バカ!!
その若い母は、ルーシーの頭が3つあるかのように見つめ、緊張して息子の肩を手で掴んでいた。
「あ...あ...」
彼女が何か言葉を探しているのはルーシーがそれぐらいわかったが…母の口から何も出てこなかった。
数秒後、母は口に手を当て、息子を引きずりながらベンチを通り過ぎ、ルーシーを通り過ぎ、近くの通りへ向かった。
「あ、あの...」
ルーシーは必死にもう一度注意を引こうとした。
男の子は、まだ裸足で、ルーシーの方へちらっとのぞいたら、母親に首を捻られた。
叱っている。
ルーシーは手がしびれるのを感じた。
空気。
変わり者。
母親が息子の顔へ指を振るのをみながら、そう。ルーシーがまるでそうだった。
変わり者、そして何人かにとっては、無気味な存在なのだ。
しびれが腕に広がった。
こんな生き方が永遠に続く?
彼女は手を組み、汚れたベンチに目を下げた。
おそらく、シスターになるのはこれより楽だろう?