猫かぶり
意気地なしな俺は早口に捲し立て、結局核心に触れることもできず、彼女をちらちら見つめる変態に成り下がってしまった。
絶対変な奴だって思われた。
俺があまりにも見つめるから、途中から気づかれて、意識的に目が合わないようにされていた。
違うんだ、いや違わないけど、俺が見てるのはネコ耳が見えてるからだって言いたい。
「頭抱えて何してんの?」
中学からの友人でクラスメイトでもある佐久間が、弁当が足りずに売店で買ってきたであろうパンを手に歩いてくる。
「瑞樹さん今日なんか雰囲気違わない?」
念のため佐久間にも聞いてみておくかと思い訪ねたが、「そうかぁ?」と気の抜けた返事が返ってくるだけだった。
結局放課後まで話しかけることができなっかった俺は、誰もいなくなった教室でひとりため息をついた。
「矢野君…、ちょっといい?」
振り返ると、廊下から覗くように立っていた彼女が、少し微笑みながら近づいてくる。
「矢野君って部活とか入ってなかったよね?こんな時間まで教室で何してたの?」
俺は焦っていた。
彼女からこんなに話しかけられるのは初めてだし、今日は1日彼女を目で追っていたから気持ちわるがられていた自身しかない。
今ネコ耳のことを切り出すべきなのか、もしただの俺の幻覚だったら頭が沸いてるやつだと思われてしまう。
「まぁ、いいや。とりあえずさ、見えてるよねこれ」
彼女はネコ耳を指しながらそう言って俺を見つめた。
「……はい。」
うなずいた瞬間彼女は「やっぱり!」というと俺の手を取りぎゅっと握った。
「お願い。一緒に原因を探して!ていうか探してくれないなら矢野君にストーカーされたってみんなにいいふらすから!!」
なんてことだ。
優しくて、清楚で、可愛い彼女から、こんな言葉が出てくるなんて。
大人しくて、控えめな彼女が俺の手を握るなんて。
俺が混乱している間にも彼女はペラペラと何か話していた。
そうか、彼女は、ネコを被っていたのか。