事案5(2) クロノカタマリ征伐
今回は台詞がカタカナのキャラが出ます。
つまり読みにくくなります。
ここは日本のとある町。
ある男が歩道を歩いている。
すると。
「ん?何だ、あれ?」
橋桁の下に、黒くうごめく何かを見つけた。
近づくと、それはぴょんっと飛び上がった。
「うわっ!」
そして男の頭に飛びつき体をポンプのように動かした。
少しして、ぽとっと落ちた。
しかし先ほどと違い、小さな口があった。
これがクロノカタマリである。
人間の感情は色々な所に溜まる。
それが集まってできるのがこの妖怪だ。
この橋でも人々の感情が溜まっていた。
川を見たときにできた、大人の哀愁、子どもの好奇心、何となく湧くやるせない気持ち。
それらが固まってできたのが奴だ。
そのクロノカタマリは家々を回り、感情を食べていく。
感情は色々な形や味や食感があって美味しい。
温度もバラバラだ。
怒りは熱く辛い、悲しみは冷たく爽やかな液体だ。
悩みは気体で苦く、憎しみは粘着質で深い甘さがある。
頭からかぶりついて吸い込むように喰らう。
様々な感情が混ざったのが一番美味しい。
そして食べれば食べるほど体が大きくなる。
ムクムクと大きくなる。
「ア?アァ?アー。オー。ウーン」
人間が使っている“言葉”を話せるようになった。
だが、まだ単語のレベルではない。
まだまだ足りないようだ。
また町を回り、感情を食べ続ける。
▲ ▲ ▲ ◆ ▲ ▲ ▲
あれから、どれくらい経っただろうか。
体はかなり大きくなった。
腕は移動するのに便利だから生やした。
足は流暢に話せるようになってからでいい。
それで後回しにした。
「ウン、ケッコウ喋レルヨウ二ナッタナ。デモ、マダ諦メナイゾ」
ここまで成長できたのだ。
まだできるはずだ。自分には可能性がある。
振り返ると潰れた家々が見えた。
町はもう元の姿も形もなかった。
ここにはもう感情のある人間はいないようだ。
隣の町へ移るとしよう。
クロノカタマリは線路を辿って隣町へ向かう。
ここが人間の使う”電車“の通り道だと知っているからだ。
線路を通りながら考えていた。
自分はこんなにも大きく成長できた。
一方で人間は?
先ほど見た町の光景を思い浮かべる。
やつらは簡単に感情を食べられ奪われた。
それだけじゃない。住む家も大切な町も失った。
所詮人間など、弱く脆く、下等な存在だ。
自分に感情を食べられるべき存在だ。
「へへへ。オイ人間ドモ。オレガ、オマエラノ感情ヲ喰イツクシテヤルカラナ。ハハハハ!」
高々と宣言する。
もしかしたらこの世界を支配することだって―――?
「随分と体も気も大きくなったようですね」
誰だ?
見上げると電柱の上に人間が―――いや妖怪だ。
女のようだ。初めて見る、灰色の髪。
この女は自分とは違い一つの感情だけでできている。
「何ダ、オマエ。オレト違ウナ」
「ええ。あなたのような者をクロノカタマリ、私のような者は権化と言います」
こいつは、20年ほど溜めた憎しみの塊だ。
なんと美味そうな奴だろう!
あの甘さがぎゅっと濃縮されているのだ。
こいつを食べられたらと考えると、胸が躍る。
それにこいつを喰らえばもっとずっと強くなる。
これこそ一石二鳥というやつだろう。
「オマエ、名前ハ何テイウンダ?」
「私は駄目オーガスト。オグと呼ばれています」
「へー。オグカ、オグ・・・・・・」
こいつには固有の名前があるのか。
自分にはまだない。
「ヒハハハ!ヒャッハハハ!!」
気が狂ったように笑い転げる。
「ついに頭の情報が詰まりまくってパンクしましたか」
「違ウゼェ、オグ!オレハオマエヲ喰ラッテ、モット強クナル!ソレカラ名前ヲ名乗ル!オマエヲ倒スコトガ、オレノ伝説ノ第一歩ダ!」
自分以外に感情でできた妖怪などいらない。
自分が唯一であり、頂点であるべきだ!
それがこのクロノカタマリの考えだ。
「なるほど。負ける訳にはいきませんね」
「余裕ブレルノモ今ノウチダ―――ウガッ」
襲いかかろうとした、その瞬間。
体が動きにくい。
見下ろすと、体が凍りついているのが見える。
「何ダ?誰ダ、オレヲ凍ラセタノハ」
「おれはナルだよ。オグさんの仲間」
また人間に似た妖怪だ。しかし権化ではない。
頭に氷が生えた、変な男だ。
顔の前で両手を振っているのがムカつく。
「ケッ。邪魔スンナヨ。―――ウォ」
次は木が飛んできた。
先ほど倒した木々のうちの一つ。
見下ろすとまた人間に似た妖怪。
茶髪で革ジャン。ヤンチャな印象だ。
「コンナンデオレ二勝テル訳ネェダロ」
「分かってんだよ!オレだって一生懸命―――」
「オキミ集中!感情食べられるよ!」
ナルが横から注意する。
「だああ!クッソ!」
もうヤケになっている。
オグの方を見ると、もういなかった。
「ドコダ。アイツドコ二」
周りを見渡すも見つからない。
しかし、そんな中でも、次々に氷と木、瓦礫なんやらが飛んでくる。
「全く。オグさんもケンカ売る場所考えてよ。駅でもない、こんな微妙な場所で戦闘開始されても」
「フェンスが無いだけマシかもな」
二人はぶつぶつ小言を言いながら攻撃する。
手を緩めることもなく厄介な攻撃が続く。
「アアアア!モウ、イイ!」
もう我慢の限界だ。
前屈みになる。
「ヤバ!おれらの感情食べる気だよ」
「クソッ!」
すると二人はなぜか空を見上げた。
「ハ?」
釣られるように見上げる。
手に何かを持って、落ちてくるオグの姿が見えた。
(何ダ?何ヲ持ッテル)
太陽が邪魔でよく見えない。
だがこのまま落ちてくれるのは都合がいい。
口を大きく開け、入るのを待つ。
「オグさん!」
「喰われるぞ!」
すると―――。
オグは空中で体を伸ばし、回転した。
そうすると彼女の落ちる位置が変わる。
「アァ?」
クロノカタマリは違和感を感じた。
しかし、もう遅い。
そして―――奴の体を、持っていた物で縦に裂く。
「ウギァァァ!!」
オグが持っていたのはナタだ。
彼女の足元から黒い手のようなものが伸び、奴を抑える。
ここで手を抜くことはしない。
体をさらに縦に横に、斜めに裂く。
奴の体から様々な感情が出ていく。
そして持ち主の元へ還っていく。
地を辿り、空を舞い、それぞれの場所へ。
▲ ▲ ▲ ◆ ▲ ▲ ▲
三人は隣町にいた。
「お疲れ様です!」
公園で待っていたひなとも合流し、社員が揃った。
「終わったよー」
「疲れたぜ・・・・・・」
オキミはベンチにどっと座り込んだ。
「活動内容を聞かせてください」
ひなとはタブレットを取り出し、記録を始める。
「オグさん、すごかったね!あのナタと手も体の一部なんでしょ?」
ナルが興奮気味に聞いた。
「まぁそうですね」
また足元の影が変化し、盛り上がる。
噴水のようにドロドロした黒いものが出てきた。
「この“憎しみ”の一割ほどが私、オーガスト。そして残りの九割は影にカモフラージュしています」
「それでナタと手をつくったんだね」
「ええ。でも何でもつくれる訳じゃありません。私の宿主、彼の人生に関するものしか」
オグは「けほっ」と軽く咳をした。
顔を三人から背ける。
「長くなりますし、続きはまた今度」
「終わりましたよ!メールも送りました」
ちょうど記録が終わった。
「妖怪政府の援助が来る前に作業に取りかかる?」
「そうだな」
「じゃあ行きましょうか」
破壊された町の復興作業の手伝いをして、一日が終わった。
妖怪政府の力もあって3週間ほどで完全に復活した。
幸いにも死者はゼロ。
2ヶ月後その町で毎年恒例の夏祭りが開催された。
いかがだったでしょうか。
初めての二話構成の話でした。