事案2 ある親子の物語
半年以上も空けて、申し訳ありません・・・・・・。
色々ありましたが、ボマーなんとか復帰しました。
それと、今回はひらがなが多くて読みづらいです。
住宅街のある一軒家。そこから母娘が出てきた。
これから買い物に行くようだ。
しかし家からほんの3mくらいで娘が止まった。
「飾莉ちゃん、どうしたの?」
母が問うと、娘は今着ている緑色のシャツを引っ張りながら、不満げに言った。
「このおようふく、おとといもきたもん」
それを聞くと母は困ったように、ため息をつく。
「飾莉ちゃん。このお洋服、おとなりのおばちゃんがくれたでしょ?いつも言ってるじゃない。人からもらったものは大切にしなきゃって」
そう返された飾莉は頬をぷくーっと膨らませる。
「でーもー!これ、あんまりかわいくない!」
「確かに、飾莉ちゃんの好きなお洋服じゃないかもね。でも、せっかくもらったんだから、着てあげないと、お洋服が可哀想でしょ?」
「・・・・・・」
ママがそう言うと、どういってもきいてくれない。
飾莉はそれを知っている。だからもう反論しない。
―――ママとのひさしぶりのお出かけにこんな服をきていきたくはなかったのに。
▲ ▲ ▲ ◆ ▲ ▲ ▲
飾莉は今、5歳。あと少ししたら6歳になるし、『しょうがっこう』に行く。
この頃、彼女は『ふぁっしょん』を楽しみたいと思っている。
彼女が着ているものは、ほとんど貰い物の服だ。
そんなにデザインが変わらないから飽きてきた。
それなのに、ママにいくら欲しいといっても、買ってはくれない。
いつも「ごめんね。お金ないの」で終わる。
パパにお願いすることはできない。
ママがいうには、「パパは長い長い『たび』(おかいものよりもすごくながい、おでかけらしい)に出てしまった」ということだ。
飾莉が覚えている限り、パパを見たことはない。
そんなにもまえから『たび』に出ているのだ。
「パパったら!たび?にでてるなんて!わたしいまたいへんなんだから、はやくかえってきてよ!」
飾莉は写真の父にそんな不満をぶつけていた。
▲ ▲ ▲ ◆ ▲ ▲ ▲
そして、飾莉の誕生日がやってきた。
ママは『おしごと』がたいへんなはずのに、おたんじょうびはちゃんといてくれる。
「今日は飾莉ちゃんが絶対喜ぶプレゼント、用意してるからね!楽しみにしててね!」
なんだか今日のママはおかしい。
げんきいっぱい―――なんだろうか?
飾莉はこういう状態を『自信満々』と言うのを知らない。
その日、ママはいろんなものを買ってくれた。
とはいえ、それらは飾莉が欲しかった物ではなく、『しょうがっこう』に行くために必要なものだ。
飾莉が不満をもらすと
「これは飾莉ちゃんの、これからに役立つものなんだよ。だから、これ、鉛筆だって・・・・・この、ノートだって、立派なプレゼントになるんだよ」
とママは実物を見せながら説明した。
飾莉はいまいち分からなかった。
お昼すぎ。
昼食を終えた母娘は帰宅する。
すると、リビングに一人、だれかいた。
その人はこちらに気づくと笑顔で
「はじめまして。おれはエスピトラの社員で、ナル・アイシスっていいます。よろしくね、飾莉ちゃん」
そう言い、手をのばしてきた。握手したいようだ。
飾莉は警戒して、母の後ろに隠れる。
「だれ!?」
「まぁそうなるよね」
ナルと名乗った男は少し困ったように笑う。
「大丈夫よ。飾莉ちゃん。悪い人じゃないから」
母がそう諭すも、飾莉の警戒はとけない。
じっと見つめて観察した男は、青っぽい髪色で、頭に何か薄い水色のものがついていた。
服は黒いシャツに白いズボンといった感じだ。
「・・・・・・へんなひと」
「うーんと。人、ではないんだけど。妖人っていっても分かんないよね」
どうやらナルは『ようじん』らしい。
「なにしにきたの?」
「フフフ。実はねぇ、飾莉ちゃん。君のお母さんに頼まれて君に・・・っと・・・服をプレゼントしにきたんだよ」
ナルはテーブルの下に紙袋を置いていたようで、それを上に置いた。
「おいで、飾莉ちゃん」
ナルがこちらに手招きして誘う。
「・・・・・・」
飾莉の警戒はとけていない。
「ほら、いってみて。なるお兄さん、素敵なプレゼントを用意してくれたのよ」
母にそう背中を押され、飾莉はナルに近づく。
飾莉がテーブルに手をおけるほど、近づいたとき。
「じゃじゃーん!!」
そんな効果音をつけてナルは紙袋から何か取り出した。
それは、たくさんのリボンがついたワンピースだった。
「わぁぁぁぁ・・・・・・!」
飾莉は、その可愛いお洋服に目を輝かせる。
「他にもいっぱいあるよ」
ナルは次々に服を出していく。
「すごい、すごぉぉぉい!!」
飾莉は大興奮だ。
ミント色でフリルがついたカーディガンや、シンプルだけどなんかカッコイイ黒いパーカーなど、他にもたくさんあった。
「気に入ってくれたかな?」
「うん!ありがとう、なるおにいさん!」
笑顔で飾莉はこたえた。
飾莉は早速、ワンピースを着てみた。
リボンは大きさや色、模様が違って個性豊かだ。
飾莉はモデルのように、色々ポーズをとってみた。
ママもなるおにいさんもかわいいとほめてくれた。
なんだかモデルになってランウェイを歩いているような気分になった。
みんなが、スポットライトに照らされド真ん中を堂々と歩く自分を見ている。
飾莉にはそんな景色が見えた。
それが楽しくて、キラキラ輝いていて、夢のようだった―――。
その後、出かけたこともあってか疲れて寝てしまった。
▲ ▲ ▲ ◆ ▲ ▲ ▲
「本当にありがとうございます。こんなに素敵なお洋服用意してくださって」
飾莉の母はナルに深々と礼をした。
「いえいえ天優さん。これが仕事ですから」
ナルは顔の前で「違う違う」と手を振った。
「それにおれは、いつでも誰かの心のより所でいたいと思っているんですよ」
ウインクを決めてみせた。
「あははっ。よりどころ、ですか」
飾莉の母―――天優は顔をうつむける。
「・・・・・・あの人もそんなこと言ってたっけ。『君が耐えられなくなる前に相談して。俺は君の心のより所でいたいんだ』だとか何とか。ハハッ」
力なく彼女は笑った。
「何言ってんのよ。あなたは大病を患って、あなたの方が耐えられなかったはずなのに・・・・・」
声が少し震えていた。
ナルは何も言わずに紅茶をもってきた。
「え?ありがとう、ございます・・・・・」
「どうぞ。おれの先輩が気に入ってるやつですけど。すごく美味しいんですよ、これ」
とりあえず一口飲んでみる。
ほのかな香りが広がりレモンの甘い風味を感じる。
ありきたりだけど、温かい。
・・・・・・ただのレモンティーのはずだ。
それなのになぜか・・・・・・
ナルは何も言わずに家を去っていった。
天優は一人、部屋で紅茶を飲んでいた。
▲ ▲ ▲ ◆ ▲ ▲ ▲
「ただいまー」
ナルが事務所に戻ってきた。
「ああ、ナルくん。おかえりなさい」
オグが返事する。
「二人は?」
「ひなとくんは買い物に、オキミくんは仕事ですよ」
「ふーん・・・・・・」
この会社には、オグとナルの他にもう一人、社員がいる。
『オキミ』という男だ。
それと、社長の都合により居候している『鷹田ひなと』という少年がいる。
この会社は、ある妖怪の管理下にあり社長はその者だ。
ナルはオキミのことがちょっと気に入らなかった。
あいつは深く考えず軽率な行動をするし、頭は悪いし、基本的なマナーもなっていない・・・・・・
まぁ。だからと言って嫌いというわけでもないが。
それよりも眠い・・・・・・。
ナルはふわぁと、大きなあくびをしてソファに転がる。
「徹夜で服作ってたから眠いんだよね〜。おやすみ〜。」
「お金は?」
・・・・・・・・・
「あ・・・・・・」
完全に忘れていた。
「オグさんごめん!ほんっとごめん!!」
「すぐに金庫に入れなかったから、そうだと思ってましたけど」
オグはため息をついた。
そしてナルを見つめ、こんなことを聞いた。
「あのレモンティー持っていったのでしょう?天優さんは喜んでくれましたか?」
(あ、オグさん怒ってはないみたい)
とりあえずナルは安心し、答えた。
「喜んでくれたっていうか、そんなこと確認する雰囲気じゃなかったよ」
「そうですか・・・・・・。天優さん、早く立ち直れるといいですね」
「それに、飾莉ちゃんもすくすく元気に育ってほしいね」
二人は窓を見つめ、親子の幸せを心の中で願う。
▲ ▲ ▲ ◆ ▲ ▲ ▲
「かざりちゃんの服かわいー!どこで買ったの?」
「なるお兄さんにもらったんだ〜」
あれから数ヶ月、飾莉は小学生になった。
服の話から発展し、友達が3人ほどできた。
飾莉は『おべんきょう』をする、『しょうがっこう』にいいイメージがなかった。
けれど、入学すると、前の友達とも新しい友達とも
とても仲良くなった。
それに飾莉にとって新しいことを学ぶことは、楽しいことに感じた。
今、飾莉は新しい生活を満喫している。
そして、母の天優は愛する娘を心の支えにして、仕事や家事に励んでいる。
次話投稿は、いつになるか分からないです。