事案1 いじめはやめよう
今回はかなり、文字数が多くなりました。
どうして・・・・・どうして、僕ばっかり・・・・・・・
そう考えながら優生は、ぐっしょりと濡れた靴で家路を歩いていた。
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優生がクラスメートからいじめを受けるようになったのは、入学してから1ヶ月と少し経ってからだ。
はじめはそこまでひどい被害はなかった。
しかし、徐々に行為はエスカレートしていった。
今や学校を辞めるか否か―――そんなことを考えるところまできていた。
『親に相談する』というのが普通だろうが、彼はそんなことが出来ない状況にいる。
実は優生は一人暮らしで、母とは離れて暮らしている。
母には持病がありいつも寝込んでいて、優生の世話は大体おばがやってくれていた。
・・・・・・本当は家に近い学校に通って母の世話や家のことをしたかった。
けれど、家に近い第一志望校には落ち、隣町の第二志望校に入学することとなってしまった。
結局、母の世話や家のことはおばに任せっきりだ。
そんな状況で母とおばに相談するなど、できる訳がなかろう。
そして今日もいじめられる。
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優生の学校の近くの公園にて。
(全く。何でこんなことされなきゃいけないんだよ・・・・・・)
ベンチに座り、怒り混じりのため息をつく。
相手の身勝手な行為のために、悲しみと怒りと辛さで蝕まれていく日々に、いよいよ疲れてきた。
明日もまた学校に行けば、奴らにいじめられる――――
そんな日々はできれば、もう送りたくないのだが・・・・・・
疲れのあまりベンチで横になる。
眠ってしまおうかと目をつむるも、どうも寝る気にはなれない。仕方なく目を開く。
すると、灰髪の女性の顔が目の前にあった。
「!?うわっ!!」
飛び起き、頭がぶつかりそうになるも、相手はすっと自然によける。
灰髪のギブソンタックに、黒いスーツを着て、これまた黒いひし形の耳飾りをつけている。
「なっ......なんなんですかぁ、あなた......」
相手は「まぁまぁ、まずは深呼吸」と優星を落ち着かせる。
彼女に言われたとおり、深呼吸をしてみる。そして状況を思い出し、理解しようと試みた。
・・・・・・いや、分かるわけがない
「ほんと、なんですか?あなたは」
そう言われた女は、スーツの胸ポケットから小さな紙を取り出し、こちらに差し出す。
そして笑顔で
「初めまして。私、エスピトラという会社の社員で、駄目オーガストと申します」
と、自己紹介をした。
彼女、オーガストから差し出されたものは名刺だった。
名刺を受け取り、まじまじと見つめる。
「あ。そうそう、オーガストが長いようなら、オグでも構いませんよ」
優生は名刺をカバンに入れ、オグに向きなおる。
「それで、何ですか?エスピトラって。何の用があって、僕に話しかけたんですか?」
そう問うと、オグはコホンとせき払いをした。
「私たち社員は日々、人々の幸せを叶えるために働くのがお仕事です。そして今回!」
オグはこちらに指をさしてきた。
「優生さんの幸せのために、いじめを終わらせようと、はるばるやって来たのです!」
「ん?ちょっと待ってくださいよ。なんで僕がいじめられてるって知ってるんですか!?」
そんなこと、彼女に出会ってから一言も言ってないのに、なぜ知っているのか
正直、めちゃくちゃ怖い。
オグは、あぁ〜とわかりきった反応をして、左手の指を鳴らした。すると一羽のカラスが肩にとまった。
カラスを誘導し手の上に乗せ、頭をぐっと掴んだ。
すると、カラスの頭がもいでしまった。
「ひぃっ・・・・・・!」
動物が惨く殺されるところを目撃して、血の気が引いた。
が、その後さらに衝撃的なことが起こった。
カラスの頭の中から小さなディスクが出てきたのだ。
「はひぃ!?どうなってんのぉ・・・・・・」
いよいよ混乱してきた。
オグはそんなこと気にも留めず、ディスクを取り出しガラケーみたいな機械に入れた。
軽く操作をしたあと、優生に画面を向ける。
それに目をむけると優星がいじめられている現場が映っていた。
「これは、《観察者》という道具でしてね。このように、動物の姿をしていて、目の中のレンズで録ったデータを頭のディスクに保存する道具なのですよ」
ぽかーんと説明を聞いていた。
もう、全然分からない。
オグはその様子を見て苦笑いを浮かべた。
「まぁ、とりあえず、これであなたの情報を得ました。それでどうします?私に依頼しますか?」
あ、この仕事って依頼制なんだ。
かろうじてそれは理解した。あまり考えずに優生はうなずいた。
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翌日。優生は通学路にいた。
昨日、依頼した後にオグに提案されたアイディアがあった。
それは優生がいつもどおり過ごし、その中でいじめを受ける場面でオグが未前に防ぐ、というものだった。
一応、朝に校庭のクスノキの辺りで待ちあわせている。
正門を通り、そっと待ちあわせ場所に向かう。
そこにオグはちゃんといた。
「おはようございます。優生さん」
「あ、おはようございます」
オグはう〜んと背伸びをした。
「さてと、作戦に取りかかるとしましょう」
オグは優生の近くまで歩いてきた。すると彼女の足元に黒い沼のようなものが現れた。オグの体がずぶずぶと沈む。
かなり現実離れした状況だが、優生が騒ぐことはない。
―――というか昨日いろいろありすぎて騒ぐ気力さえもなかった。
オグは少しだけ顔を出す。
「では、私のことは気にせずに、いつもどーりお過ごしください」
いや、そう言われても気になってしまうのだが・・・・・・。
とにかく気にしないようにして1日を過ごそう。
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教室の中で。
オグの入った沼は優生の影にカモフラージュしている。
席に座ろうとしたとき足を掴まれた。
「うわっ!」
驚いて足元を見る。
すると優生の足を掴む白い手が影から伸びているのが見えた。
それに注目している間、オグは彼の椅子にべったりとつけられた絵の具を雑巾で拭き取った。
椅子に絵の具や水滴が残っていないかを確認し、優生の足から手を離した。
チャイムがなり何の変哲もない一日の始まりを告げた。
その他にも色々なことがあった。
廊下を歩いているときに、いつもわざとぶつかってくるやつが近づいてきた。
やつが下を見ていないことを確認し、オグが沼から手で足を掴む。
そうすると当然やつは転んだ。驚いて周囲を見わたしている。
優生は、何か言われるんじゃないかとビクビクしながら、そいつの横を早足で通っていった。
昼食時には、いつも「昼飯代貸してー」と言ってきて、累計17,000円貸したやつが近づいてきた。
もちろん返してもらってない。
バサッ…
音のした方に顔を向けると、数学の教科書が落ちていた。
優生が拾おうとしている間に、オグはそいつの口にむかって肉まんを放りこむ。
肉まんは見事やつの口にはまり、本人は混乱しているようだった。
掃除のときは、こちらが雑巾係であるのを利用し、わざとバケツをこぼすやつがやってきた。
しかし、心配はいらない。
実は事前にオグはやつがやってそうな悪事を先生にリークしていた。
そのため、やつは先生の呼び出しを受けた。
「は?いや、俺なんもしてませんけど?」とか言いながら連行されていった。
本当に今日一日、平和に過ごせた......!
優生にとってこれはもはや奇跡である。
その『奇跡』は放課後まで続いた。
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優生が下駄箱の所に行くと、手紙があった。
これは、どう考えてもラブレター、じゃない。
彼はいつも、モテない自分がラブレターをもらうなんて天と地が逆転してもない、と考えている。
中身を見てみると、いじめっ子たちからの手紙だった。
内容としては放課後に一人で校舎裏に来い、とのことだ。
こいつらは、いつも優生を校舎裏に呼んでは殴ったり蹴ったりする。
こんな風に手紙で召集されたのは4月以来だ。なぜだろう?
優生が考えている間にオグが手紙をとりあげた。
「おや?お手紙ですか。なになに、小述へ今日もあそぼうぜ!・・・・・・なぜ手紙で?」
「あっ!オグさんなに勝手に読んでるんですか!」
「すみませんね。気になることがあるとジッとしていられなくて。優生さんのお友達は陰キャ?というやつですか?」
「違います。それはいじめてくるやつらからの手紙で、翻訳すると『放課後にお前のこと殴るから校舎裏に来い』ってことですよ」
優生は呆れぎみに言った。いつものことだ。
「呆れましたね。全く、相手がどれだけ苦しいか想像もしないで・・・・・・こんなこと続けてたら、地獄に堕ちてしまうのに」
オグはぶつぶつと一人ごとをしゃべっていた。
なんだか、不満げな様子で言っている。
(近づきにくいな・・・・・・)
結局オグをおいて一人で校舎裏に向かった。
そこに着くといじめっ子どもが5、6人ほどいた。
「よう!小述、今日もあそぼーぜ!」
リーダー格である佐出が優星の肩に右腕を回した。
今日はこんな絡みから入るようだ。
白々しい笑顔を向けてきた。優生は顔を背ける。
「ん?んだよー、なんで無視すっかなぁ?シカトはいじめだぞっ―――」
そういいながら、腹に向かって左ひざをぶつける。
「ごはぁっ!!」
まずい。気づくのが遅かった。ヘッドロックをかけられ、攻撃が不可避になった。
「ごふっ・・・うぐっ、・・・はぁ、はぁ、はぁ、がはっ」
優生の苦しそうにむせているさまを見た佐出は、加虐心に火がついたようだ。
続けて腹に向かって、左ひざを何度もぶつけられる。
ごふっ、 がはぁっ、 ぐふっ、 げっほ―――
優生きの苦しそうな声が周囲に響きわたる。
周りのいじめっ子たちは、ニヤニヤ笑いながらスマホを向け、動画を撮影している。
だれも助けてくれない。だれも止めようとしない。
自分に味方なんていない―――。
そんなことを感じさせられるような時間だ―――。
「いい加減にやめたらどうです?そんなこと」
その場にいた全員が驚いて声のした方を見る。
そこにはオグがいた。
「はぁ?なんだよ。あんたには関係ねぇだろ!」
佐出が声を荒らげる。が、オグは動じない。
「いいえ、ありますよ。彼は私が受けもっているお客様、ですから。守る義務があります」
佐出が瞬きをして一瞬。オグは目の前にいた。
「はっ?」
理解できず変な声を出したときには、腹に痛みがある状態で地面に倒れていた。
目の前が暗くなり、意識を失った。
「え・・・・・・?は?」
「え?え、え?」
あまりの速さに周りのいじめっ子どもは理解できていない。
そいつらにふり返り、オグは笑顔で拳を握った。
「次はあなたたち、ですかねぇ」
「ヒィッッ!!」
いじめっ子たちは逃げ出そうとした。
が、時すでに遅し。
次々にバタバタと倒れていく。
全員が倒れた後、オグは優生のもとへ来た。
「大丈夫ですか?まだ痛みますか?」
「はい・・・・・・でも、なんとか立ててます」
「そうですか」
するとオグは急に何か、香水のようなものをかけ始めた。
「うわっ!わっ、急になにするんですか?!」
「あ・・・すいません」
一度手を止めた。
「これは特別な香水で、かけた人のことを愛おしく感じるのです。」
「え・・・・・・そ、そんなことしたら、僕、こいつらに恋心を抱かれたり・・・・・・」
「大丈夫ですよ!ほんの4プッシュですから!」
(いや、それでも何か、なんか心配なんだよなあ)
心配は残ったが、とりあえずこれで良しとした。
「では、報酬をいただきましょうか」
「あ。そうですよね・・・・・・いくらですか?」
「今回の優生さんの件。我々が定めたレベルの中では、レベル2に部類されます。そのため、報酬は650円ですかね」
「え!?」
驚いた。そんなに安く済むものなのか。
「いいんですか?そんなに安くして」
「ええ。レベル2は報酬が元々、500円から1000円と決まってます。それに、優生さんは学生なので学割が効いて、この価格となるのですよ」
「そうなんですか。・・・・・・どうも、ありがとうございました」
財布から小銭を取り出し、支払った。
「確かに650円頂きました。またのご利用お待ちしております。」
オグはそう言い残すとその場を去っていった。
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優生は今、忙しいながらも楽しい学生生活を送っている。
何か問題があったら指摘していただきたいです。