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事案9(2) 彼は何処に

地上祭で紅玉に依頼された『ナナシ捜索』。


社員達は一日でも早く解決するべく、翌日から聞き込みを始めた。


しかし―――


「全っ然、集まらないね。彼の情報」


「バイト先にも聞いたけどなぁ。地下の方は協力的じゃねぇし、地上の方は覚えてすらないって」


「同級生なんか、名前聞くだけで嫌そうな顔をしました。内容は主観で話す悪口でしたよ全部」


と、散々な結果だ。



地上祭も明日で終わり・・・・・・



このまま何も分からぬまま終わるのか―――


皆が諦めかけた、そのとき。



「みなさん、これ見てください!」

ひなとがパソコンの画面を見せてきた。



それを見ると―――


「ほら!去年の12月に、ナナシさんがコンビニ裏で缶コーヒーを飲む姿が、カメラに映ってます!」


確かに、彼と同じ特徴を持つ者が映っている。


「ここって転送ポートの近くだよね?」



転送ポートとは、テルビーエから人間社会に行くときに、手続きを行う場所だ。


手続きを行った後は、目的の場所の近辺に、【転送の術】で送ってもらえる。


いわば空港のような場所である。



「何か映っている可能性を考えて、ぼくが映像を貸してくれるよう、頼んだんです」


「え?ひなとくん、すっご―――」

気づかぬ間に、用意していたようだ。


映像の中で、ナナシはコーヒーを飲み終えると、カメラの死角となる店の左側に向かった。


「直後の店の前の映像もあります」


用意周到だ。すごすぎる―――。


その映像では、三人の妖怪が左側から出る瞬間が映っていた。

三人はその後、店に入り10分くらいして出てきた。


豚と鷺と猿の、三人の妖怪だ。



つまり―――その中にナナシの姿はなかった、という訳だ。



「聞いたら、左側はよく喫煙する妖怪達がいるそうで。その中に交じって出てきたと思われます」


「そっか。えらいぞー!ひなとくーん!」

「わぁぁ!」


わしゃわしゃとひなとの頭を撫でる。


「さてと」

切り替えて、彼の行動の意味を考える。


「彼は天邪鬼だから、幻術で自身を他の妖怪に見せることもできる。この時、全然違う妖怪に化けて出てきたんだね。でもそうするのってさ―――」



「ナナシさんには何か事情があるということですね」



鬼族が人間社会に行くのは珍しいことだが、別に悪いことではない。

わざわざ化ける必要などあるのだろうか。


それに、彼が映っているコンビニ裏は、狭い上に並木と面していて、周りから見えにくい。

裏にあるのは空き家だ。

これなら誰にも見つからないだろう。


ここまでの彼の行動を振り返ると。

どこでもコソコソとしているのが分かる。


オグの言う通り、彼に何かあったのかもしれない。


自分を偽らなければならないほどのことが―――。

それが善か悪かというのは、今はどうでもいいことだ。


「とにかく彼を見つけないとね」



  ▲  ▲  ▲  ◆  ▲  ▲  ▲



現在の時刻は午後3時。


祭の最終日である今日、地下域の門は午後5時に閉じられる。


紅玉が忙しく、この2時間しかとれなかった。

限られた時間の中で、報告と質問を遂行しなければならない。


社員達は帝邸の門前にいた。


門を開け庭に入ると、鬼がこちらに近づいて来た。


「何者だ。何の用で来た」

護衛のようだが、細い。


鬼族は体を鍛えるのが難しいから、仕方ないか。


「紅玉様に頼まれたことがありまして。今日はその報告と質問を」

代表としてオグが答える。


「お嬢様が?お前達に?」


ジロジロと見てくる。

信じられないようだ。



守助(まもすけ)!その人達が言っていることは事実です!通してください」



奥から紅玉が走って来て、説明してくれた。


「あ。へへっ・・・・・・お嬢様が言うなら、そうですよねー。引っ込みまーす」

ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら、下がっていった。


「どうぞ。うちの守助がすみません」

丁寧にお辞儀をして、社員達を招き入れた。


「ムカつくなあいつ」

「手、出さないでよ。面倒なことになるから」


どうやら守助の変わりようが気に食わないようだ。

ナルは念のため、拳を固めたオキミに言っておく。



この邸宅、外側は閑かな雰囲気だった。

玄関横には大きな松の木が植えられ、地面には枯山水。

木製であり、砂利の中、静かに佇んでいた。


しかし中に入ると―――


まず、大きなアメジストの原石が出迎えた。

その他にも、大きな龍の木像や、黄金に輝く屏風なんかもあった。


外は閑かな"わび"。中は豪華絢爛な"さび"。


「中と外で、わびさびが分かれてる―――」


珍妙な家の様子に思わず引いてしまった。


「な、なんでこんなことに?」

失礼な質問だと思ったのは、言った後だ。


「父はわびの文化が好きで、母は見栄っ張りなんです。それで、よく家の様相のことでケンカして。二人とも頑固だから譲らないんですよ。今の家の形になって、二人ともようやく納得したんです」


紅玉は文句も言わず、答えてくれた。


「ああ・・・・・・。そうなんだ・・・・・・」


その話にちょっと引いた。

家のことではなく、紅玉の母のことだ。


いくら自分の意見を貫きたいからとはいえ。

(鬼族最強の夫に盾つくなんて―――)


彼女の頑固さは常軌を逸している。

そこに引いたのである。


質問しておいて引くなど、とても失礼だが。


心の中で、今ここにいない二人に『ごめんなさい』と謝る。



すると。



「あ!駄目さーん!駄目オーガストさーん!」


「はい?」

誰かがオグのことを呼んだ。


呼んだのはメイドの一人だ。


「あのー。よければ、荷物運ぶの手伝ってもらえませんか?重くて持ち上がらなくて」


「ええ、いいですよ。皆は報告、お願いします」


「りょーかい」

「おう」

「了解しました!」

オグは手伝いに行き、三人は居間に向かった。



「ちょっと待っててくださいね」

紅玉は居間から出ていった。


その間に周りを見渡す。


襖に描かれた龍は迫力がある。今にも襲ってきそう。

床の間に飾られた生け花も豪華なものだ。

掛け軸には力強そうな大鬼が描かれている。

ここもすごい部屋だと、改めて思う。



「お待たせしました。どうぞ。手作りですが」


紅玉が持ってきたのは、緑茶と鬼まんじゅうだ。


美味しそうなお菓子の登場に、テンションが上がる。

「わぁぁ!ありがとう!それじゃあ早速―――」


「「「いただきまーす!」」」

三人同じタイミングで口に入れる。


口に広がったのは―――。



吐き気を催すほどの、不味さ―――



苦いとか、酸っぱいとか、渋いとか。

そういう属性別の不味さじゃない。


ただただ不味い。その一言に尽きる。


(うええええ!!まっっっず!!)


市販品の方が1万倍は美味いのではないか。

本気でそう思うくらいだ。


思わず口から出そうなのを、必死で抑え込む。


慌てて緑茶を含む。が―――


(こっちは渋すぎる!)


もう逃げ場がない。


横を見ると、二人も耐えているようだ。


「皆さん、大丈夫ですか?もしかして美味しくないとか―――?」

遠慮がちに聞く紅玉。


彼女の瞳は少し潤んでいた。


しかし、()()()は気を遣えない。

「何だよこれ!いくらなんでも、まず」

「あー!ちょっとすみませんね!紅玉ちゃん!」

すんでのところでナルが止める。


オキミの首根っこを掴み、部屋の隅に連れていく。


小声で伝える。

「ちょっとオキミ。沈黙は金って言葉知らないの?言わない方がいいよ」


「でも不味すぎんだよ、これ」


「相手は身も心も繊細な女の子だよ?一生懸命作ったお菓子を不味いって言われたら、ショック受けて立ち直れないと思うよ?」


「はぁ・・・・・・分かった」


二人は笑顔で席に戻ってきた。


「あのぅ・・・・・・不味い、ですか?」


「いえいえ!そんなことは全く!ねぇ!?」

「お、おう!上手いぜ、これ!千個でもイケる!」

ひなとは激しく頷いた。子どもながら気を遣うようだ。


「本当ですか!良かった」


胸に手を当て、ほっとした様子の彼女。


「美味しくできるか心配だったの?」


「はい。亡くなった祖母のレシピで作ってみたんです。大好きだった祖母の鬼まんじゅうを、皆さんにも食べてもらいたくて。おばあちゃん、喜んでもらえたよ―――」


遠くを見つめる紅玉を見て、三人は思う。


(これは正直に言えないな・・・・・・)


嘘を貫き通すことを密かに誓った。



「あ。そういえば。今日は報告と、質問があるみたいですが―――?」


「はい。ナナシさんが最後にテルビーエで確認できた映像を見せます」

ひなとはパソコンの画面を紅玉に向け、例の映像を見せた。


「なるほど。彼はここに―――」


終わった後も、画面を穴が開くほど見ている。



「ねぇ、紅玉ちゃん。ナナシくん、地下で何かあったの?」



「え―――?」


「彼は他の種族の妖怪に変装して行ったんだ。これは異常だよ。何か事情があるとしか思えない」


「はい―――確かに」


「だから教えてほしいんだ。彼に何があったのか」


紅玉はすぐには答えなかった。

少し開かれた障子の外―――庭を見つめている。




「彼は」



少しして口を開いた。

「混血であるが故に、周りから虐められていました」


こちらを向かず、話を続ける。


「親を幼い頃に亡くし、孤児院に引き取られました。でも、そこの先生や周りの生徒は酷い人達で。火傷をさせたのは先生だそうです」


彼女は写真を取り出し、見つめた。


「実はナナシというのは、孤児院の先生が付けた名前で、本当の名前は別みたいです。私には教えてくれませんでしたが」


次第に彼女の声が震え出す。


「彼は・・・・・・学校でも、バイト先でも、道行く先でも、冷たく扱われてきました」


彼女の言葉に嗚咽が交じり始める。


「私、ぐっ・・・うう。彼の苦しみを知っていたのに。ひぐぅ、何もしてあげられなくて。私が倒れたとき、けほっ・・・・・・彼はた、助けてくれた、のに。辛いとき相談にだって、うぅ・・・・・・」


すっと紅玉は立ち上がった。


「申し訳ありません。ちょっと、ぐっ・・・・・・外に出て、落ち着いてきます・・・・・・うぅ」


そう言うと、背中を震わせながら、居間を出ていった。



紅玉のいなくなった居間は静寂に包まれた。


何者も音を一つも出さない。いや、出せなかった。


誰も崩せない、冷たい静寂が続く―――



しかし。

その静寂は突然破られた。



この静寂の訳を知らない()()によって。



「すいません、皆さん!今から私、外れることになりました!」


そう言って、襖を開いたのはオグだ。

かなり慌てている様子。


「え?何?外れるって?」

少ししてナルが聞いた。

あまりに突然で、頭に情報が届くのに時間がかかった。


「知り合いの研究所に変なゴロツキが来たらしく、私を呼べと要求しているそうです」


「今すぐ行かなきゃダメなのかよ」


「奴ら、もう既に立てこもったそうです」


「研究員達だけで、どうにかならないの?」


「あそこの研究員は二人だけなんです。一人は変人すぎて話が永遠にかみ合いませんし、もう一人はまともでも、戦闘能力ゼロです」


「あー。確かにそれは放っておけないかも。呼んでるのはオグさんだけ?」


「はい。私だけ連れて来い、他の社員は連れて来るなと言っているそうです」


「そっか・・・・・・」


この案件は、依頼者も内容もビッグものである。


正直、ベテランのオグがいなくなってしまうのは心配だ。


しかし、研究所の方も放っておくわけにはいかない。


妖怪の道具を造る研究所は、とても危険だからだ。

もちろん人間社会の研究所と同じ、薬品や装置が危ない、という理由もある。


だが、妖怪のものとなると次元が違う。



頭に思い浮かべた、過去の瞬間に戻れる板チョコ《リプレイシアターチョコレート》とだか。


近くの扉に張り付けるだけで、どこからでも観光名所に行けるチケット《どこでも名所チケット》だとか。


死んだ者の一部と魂、あるいは架空の存在の情報を入力した専用メモリを入れるだけで、それを再現する粘土《再現粘土》だとか



時や空間、自然の理さえも普通に超えていく―――

そんな超常的な道具を開発する場所だ。


もし事故なんて起きたら、何が起きるのか計り知れない。


ここは自分達だけで対応し、彼女には研究所に行ってもらおう。


「分かった。こっちのことはオレらに任せろ」

「何かあったら、逐次連絡します」

「ゴロツキ達、ボッコボコにしちゃってね!」


「心強いですね。じゃあ、後はおまかせします!」

オグは件の研究所へ向かっていった。




「落ち着きました。先ほどはすみません」

オグが去ってから少しして、紅玉が戻ってきた。


「気にしないで。もう大丈夫なの?」

ナルが近づき、背中をさすろうとした。


「大丈夫です」

しかし、すっと自然にかわされてしまった。


「ナナシさんの話は・・・・・・止めますか?」

ひなとがおずおずと聞く。


「え。でも―――」

「紅玉ちゃん」


ナルが横から紅玉の言葉を遮る。

「辛いなら無理しなくていいよ。おれ達だって君を苦しめてまで、聞こうとは思ってないから」


ニコっと笑顔で、彼女を安心しようとする。


「皆さん―――」

立ち上がり一礼する。

「お気遣い、ありがとうございます。でも」


顔を上げる。

それには固い決意が表れていた。

「でも、まだ伝えたいことがあります。辛くなっても頑張りますから、話させてください」



そして再び聞き込みが始まった。



「伝えたいことって、どんなこと?」


「彼は才能ある鬼だということです」


それを聞いた瞬間、オキミは眉をピクリと動かした。

それにどこか不機嫌のようだ。


けれど、そのことに二人はあえて触れない。

彼の悩みに触れるような言葉なのは分かっていた。


気にせず続ける。


「才能ある鬼?どういうこと?」


「実は彼とは、彼がいじめっ子にある命令をされたことがきっかけで、出会ったんです」


「ある命令?」


「はい。『紅玉様の読んでる本を取り上げて、破り捨てろ』って命令だったみたいで」


「えー!何それ、ひどすぎる!」


「それで彼は幻術を使って、彼が私から本を取り上げて破り捨てた()()()()()()んです。それだけじゃなくて。その後、私の護衛に暴行されるところまで幻で見せて―――」


「へー!すげーな、そいつ!ほんとにな!!」

オキミがぶっきらぼうに声を張り上げて言った。


才能ある者の話が気に入らないのだ。

自分にとって嫌な物を排除する、幼稚な行動だ。


「オキミさん・・・・・・?」


「気にしないで。ただの嫉妬だよ」


「は、はあ・・・・・・ええっとそれで」

まだ少し困惑しているようだが続ける。


「かなりの範囲にリアルな幻を見せるなんて―――今思い返しても、すごいと思います。それも9歳のときですし」


「へえ。なるほど」

メモを取る。


「何でメモ取ってんだよ。そこから何か、有力な情報あるのかよ」

まだ機嫌が悪い。

それも気にしない。言ってもどうにもならない。


「そんなことができるってことは、かなり妖力を持ってるってことだよ。例え変装してても、妖力を感じ取れるかもしれない」


「確かに。これは重要な情報ですね!」


「ふーん・・・・・・」

何だかつまらなそうな反応だ。


「で、他には何かある?」


「そうですね・・・・・・あとはカレーが好きだとか、読書と筋トレが趣味だとか、成績優秀だったとか、真面目でお人好しだとか、それくらいしか」


「ふむふむ、なるほどね」


「うーん。両親と6年くらい人間社会で暮らしていて、東京の郊外の方と言ってたような・・・・・」


「おお!ありがとう」

これはとても良い情報だ。

彼の居場所に繋がるかもしれない。



「あ!!」



急に紅玉が声を張り上げた。


「うおっ!?何だよ!?」


「もう時間が・・・・・・」


彼女が指さす先を見る。


そこにあるのは壁時計。

針は4時45分を指している。


「え!?もうこんな時間!?ヤバい帰らないと」

バタバタと急いで帰り支度をする。


「短い時間だったけど、ありがとね!」

「じゃあまたな!辛いかもしれねぇけど、あんまり気落ちすんなよ」


「あ。・・・・・・あの」

ひなとがまだ何か聞きたそうにしていたが―――。


「いつまでいるつもりだ!早く帰れ!」

守助、再来。

三人を門の外まで押し出した。



  ▲  ▲  ▲  ◆  ▲  ▲  ▲



「むー。今回の収穫はそこそこあったかな」


すぐに見つけられるほどではないが、以前より格段、見つけやすくなっただろう。


三人は地上に戻って来ていた。


だが、ひなとは浮かない顔をしていた。


「ひなとくん、どうかした?」


「まだ聞きたいことがあったんですけど―――」


「もう十分じゃね。他に何かあるか?」



「ナナシさんが変装する必要があった理由がぁ・・・・・・」

力なく言うと、うなだれてしまった。



「「あ・・・・・・」」



すっかり忘れてた。


彼が、変装する、自分を偽る必要があった大事な理由。


―――聞きそびれてしまった。


しかし、地下域の門はもう閉じている。

「うわー。どうしよう、来年聞くしかないかなぁ」

「うっかりしてたぜ・・・・・・」


「あー!やっぱり忘れてたんですね!」

ひなとは頬をぷくーっと膨らませる。


子どもらしい仕草。

思わず笑みが浮かぶ。


「なに二人とも笑ってるんですか!」


「だってひなとくん可愛いんだもん」


「全くもう・・・・・・」

呆れられたようだ。大きなため息をついた。



「皆さーん!」

大声を出し、こちらに向かって来るのはオグだ。


「あ、オグさーん。こっちは終わったけど、そっちはどう?」


「全員ボッコボコにして警察に突き出してやりました」

ニコニコ笑顔で拳を見せてくるオグ。


どうやら研究所の方も解決したらしい。

―――暴力を行使してしまったようだが


しかし疑問が残る。

「にしても。奴らはなんでそんな要求したのかな」


「どうやら依頼されたようです」


「依頼って誰に?」


「それが彼らも分からないようで。馬タイプの《観察者》が依頼の書かれた紙と、70万円の札束が入った包みを運んできたそうです」


「《観察者》使ったのかぁ・・・・・。製造番号から購入者辿れないかな?」



《観察者》はそう簡単に入手できる道具ではない。

自ら工場に出向かわなければならないし、安価な物でもない。


犬や猫などの街中にいる小型タイプは15万円程度。

ハトやカラスなど飛ぶ機能を持った物は20万円程度。


馬などの大型な動物なんて、50万円以上するだろう。



そんな高価な品物を、壊すかもしれないゴロツキ共の所に行かせるだなんて―――


「相当な金持ちだな。その依頼主」


「それなら結構絞れてくると思うけどなぁ。オグさん、今その《観察者》、どこにあるか分かる?」


オグは困ったような表情を見せた。

「それが―――その《観察者》、拠点から400mほど先で爆発したそうで」


「ええ!?」

爆発・・・・・・!?

時限爆弾を仕掛けていた、ということか。


「依頼受けてなきゃ拠点、吹っ飛んでたろうな」


「恐ろしいですね、その依頼主・・・・・・」

子どものひなとも顔を引きつらせる。


「じゃあ、今その《観察者》は―――」


「真っ黒コゲの炭の塊、でしょうね」


「うわあああ・・・・・」

手がかりは消滅してしまったようだ。



「この件は警察に任せましょうか」


「そうだね。おれらがやれるレベルの事じゃないし。それと、ナナシ君のことはこれから普段の業務と、同時進行で頑張ろうか」


「だな。とりあえず今日は帰るか」

四人はそれで終わりにして帰ろうとした。



「―――なぁ、オグ」

しかし、そのとき。急にオキミが声をかける。


「はい。何ですか」


「その二人の研究者に会わせてくれねぇかなぁ」

あまりにも急すぎる頼み事だった。


「どうしてそんなことを」

オグは怪訝そうな顔で聞き返す。


「いや、別に。ただ興味あって。・・・・・・ダメか?」

再度、手を合わせて頼んでくる。


「おれも会ってみたい!ねぇねぇ、ダメかなぁ」

ナルも幼子同然の頼み方をする。


「ダメです」


即答だった。

速く、毅然とした態度で答えられたために、なんだか気まずい雰囲気になった。


「ええっと、ダメなの―――?」


「お二人と会っても何も得られません。ただ変人の話を延々と聞かされるだけですし、二人ともあまり現代の常識が身についてなくて、ただただつまらない、さらには引いてしまうような時間を過ごすだけですよ。もしかしたら実験に協力してほしいと言われて、リスクの計り知れない実験の実験体にされるかもしれません。そんな恐ろしいリスクを負ってまで会いたいと願いますか?命を大事に思うなら会うべきではないと思いますが、そこら辺お二人はどういうお考えで?」


一気にかなりの早口で言われた。


今言われたことを整理するのが大変だ。

速すぎて言葉として入ってないところもある。


「ええっと・・・・・・つまり、どゆこと?」


「早口すぎて分かんねぇよ」


「オグさんは何が何でも会わせたくないんですよ」

ひなとが横から耳打ちした。


「え?何でだろ」


「それはぼくにも分かりません。きっと何か事情があるんでしょうけど」


「会わないのならもう帰りましょう」

少し経って返答が無いため、『会いたくないという意思表示』だと判断された。


怒っているのか、オグはツカツカと先に早足で行ってしまった。


(何でそんなに会わせたくないんだろう)

疑問は残ったが、置いて行かれまいと残る三人も家路を急いだ。





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