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鬼の形相

 カルラと別れてから直ぐにベッドへ上がり邪魔にならない所で就寝したのだが、目覚めた今は何故かリリーが抱き着いて眠っていた。


「抱き枕じゃないんだがな」


 離れようかとも思ったが余りにも気持ち良さそうに眠っている為、そのまましばらく過ごした。うつらうつらとしていると、扉が叩かれカルラの声が聞こえた。それに反応したリリーも目覚めたので、離れて変身し迎え入れた。


「二人共おはよ。昨日は眠れた?」

「気持ち良く眠れた。主にリリーが」

「ふふ、それなら良かった。朝ご飯の用意が出来たから、顔を洗って来なさい」

「分かった」


 俺が異世界人だと話したからか、カルラの表情は昨日よりも和らいで居る様に思える。眠気眼で今にも眠りそうなリリーを抱え、顔を洗いに向かった。井戸から組み上げた水は冷たく目覚めもスッキリする程だった。リリーも冷たさに驚き、その勢いで水を全身に浴び更に声を上げて居たが、即座に魔法で服も髪も乾かした。


「魔法は何でも有りなのか」

「んー……。我は特別じゃからの。じゃが、お主にも出来るかもしれないの」


 温風を起こし乾かすというイメージをして魔法を発動させるらしい。試しに袖を水で濡らしてから、魔法を発動させた。リリーの様に直ぐには無理だが、徐々に袖は乾いて行き元通りになった。


「うむ。やはりお主は筋が良いの!」

「まぁ、魔法が無い代わりに便利な物が有る世界に居たからな。それを想像する時に利用してるだけだ」

「ほう? お主の世界もなかなかに楽しそうじゃの」

「悪い世界では無かったな」


 顔を洗い終えた俺達はカルラの家へ向かい食事を取った。朝食は固めのパンと野菜や肉の入ったスープだった。パンは塩気が強めだが優しい味わいのスープには丁度よく、スープに浸して食べると最高に美味しい。何気無くカルラを見ると笑顔で俺達を見詰めていた。


「何か付いてるか?」

「いや、お前達は美味しそうに食べてくれるなぁって思ってたんだよ」

「実際、料理は凄く美味しいからな。店を出したら良いと思う」

「何言ってんのさ! そんな腕前何て私には無いよ! お代わり有るけど食べるかい?」

「頼む」

「我も!」


 口いっぱいに頬張りながらお代わりを強請るリリーの姿に、思わずカルラと共に笑った。お代わりを貰い食事を進めて居ると、乱暴に扉が開かれ男が現れた。咄嗟にリリーの前に出たが、男はこちらに目もくれず、カルラへ駆け寄った。


「カルラ! 大変だ!!」

「ちょっと!! 扉を叩く位はしなさい!」

「そんなのどうだって良い!! ホルガーがヤバい!!」

「ホルガーが? 一体何が……」

「来てくれ! 話は後だ!!」


 慌てて出て行く男に、眉を寄せたカルラは俺達にゆっくりして居てくれと笑顔を向け出て行った。


「ゆっくりして行けと言われてもな」

「ふむ。ホルガーとやらに何かあった様じゃの」

「……食事は止めないんだな」

「出された物は残してはならぬのだぞ!」

「そうだな。じゃあ、早めに済ませて俺達も向かおうか。ホルガーには恩があるからな」


 味わいつつも朝食を済ませ、食器も片付けた後カルラの家を出た。どこに向かえば良いかと悩んだが、騒ぎが起きている為迷わずに迎えそうだった。人が集まって居る家へ向かうと、中からカルラの怒鳴り声がしていた。


「五月蝿い! 私が行く! 他は来るんじゃない!」

「駄目だカルラ! お前までホルガーの様にされちまう! お前はここの長代理だろ! カルラが居なくなったらここの集落は誰がまとめるんだ!!」

「そうだ、私は長代理だ。だからこそホルガーが受けた仮は私がきっちり返しに行くんだ。私は、許さない。絶対に」


 家に入る訳にも行かず、他の住人と外で様子を伺っていると扉が強く開かれ中からカルラが鬼の形相で出て来た。部屋の中に居る男が手を引き止めるも聞く耳持たずだった。外に居た住人が声を掛ける事を躊躇する中、リリーがカルラの前に出た。


「リリー、すまないが退けてくれないか? 私はこれから行かなければならない所が有るんだ」

「……ふむ。カルラよ、一旦眠るのじゃ」

「え、何を言って……」


 リリーがカルラの顔の前に掌を広げそこから魔力が出ると、カルラの瞼は閉じられ眠りについた。部屋に居た男が抱えた為地面に倒れる事は無かった。


「カルラ!? お、お前らカルラに何をした!!」

「少々冷静さを失って居たからの。眠って貰ったのじゃ。安心すると良い。直ぐに目は覚めるじゃろ。……して、一体何があったのじゃ。ホルガーは我らの恩人でもある。彼に何かあったのならば我等も手を貸したい」

「……さっきカルラの家に居た奴らだよな。取り敢えず中に入ってくれ」


 カルラを背負い中へ入った男に次いで俺達も入った。カルラを長椅子へ下ろした男が別の部屋に着いて来てくれと言うので行くと、ベッドにホルガーが横たわっていた。ただ寝ている訳では無く、左腕が欠損、顔は目の辺りに酷い火傷、脚も切傷だらけな上に左脚は皮一枚で繋がって居る様な酷い有様だった。


「……カルラから聞いた話だとホルガーは妹を連れ戻しに行ったはずだが、これはどういう事だ?」

「連れ戻しに行ったけど、そこで襲われて……金も奪われたみたいだ。近くの森までどうにか逃げて来たみたいだが、力尽きて倒れて居る所を発見されたんだ。息は有るがいつ目を覚ますか分からない」

「妹は」

「多分まだ貴族の元に居るはずだ。生死は、分からない……」


 この有様を見てカルラは激怒していたのだろう。逆に良くあれだけの激怒で済んだなと思っていると、突然男が怯え始めた。何に怯えて居るのか解らなかったが、リリーが服の袖を引っ張り原因は俺だと教えた。どうやら怒りによって殺気として魔力が辺りに漏れていたらしい。深呼吸をし気持ちを静めると、男の顔色は戻って行った。


「悪かった」

「い、いや……」


 それから暫くしてカルラが目を覚ました。リリーが眠らせた事情を説明すると、落ち着きを取り戻したカルラは礼を述べた。


「すまなかった。流石に冷静では無かったね」

「礼等要らぬ。カルラが死に急いでは困るからの」

「……はぁ、子供に諭されるとはね。でも、私があの糞貴族の所へ行く事は決定事項だ」

「ならば我等も同行するのじゃ。良いなワルディリィ」

「それで良い」


 男もカルラも、何を言って居るのかと食って掛かった。


「なんじゃ。我等が付いて行ったら何か不都合な事でも有るのかの?」

「ホルガーがこれだけ傷付けられたのよ!? そんな所に子供を連れて行く訳にはいかない。それにお前達には会ったばかりだ。巻込む訳にはいかないよ」

「じゃと言って居るがどうするかの?」


 確かにカルラの言い分は当然だ。俺は異世界人だと知っているからまだ良いかもしれないが、リリーが異世界人だとは知らない。言うつもりも無いが、だからと言ってホルガーがこの状態にされて黙って居る事は、人間として、命ある者としては許せない。


「子供でも俺よりは強いから大丈夫だ。問題にはならない」

「何言ってるの!!」

「……だったら、勝手に付いて行くだけだから気にするな。それで良いだろ」

「でも……危険過ぎる」


 首を縦に振らないカルラにリリーは暫く考えた後、ホルガーの元へ行き何かをし始めた。


「何してるんだ?」

「カルラが我儘じゃから、少し我の力を見せようと思っての。……余り手を出さない方が良いと思ったのじゃが仕方あるまい」


 両手を突き出し瞼を閉じた。掌から光の粒子が出始めるとホルガーの身体へと吸い込まれて行き、顔の火傷や両足の傷が治って行った。


「……こんな物かの。千切れた腕が有れば付けられたが、無い物は治せぬ」

「治癒魔法……それも高等なものだな……凄い」

「この世界の者は、ここまでの事は中々出来ぬ様じゃの。カルラよ、これで納得したかの?」


 様子を伺っていたカルラと男は驚き言葉を失っていた。


「リリー、貴女何者なの?」

「我はリリーじゃ。それ以外でも何でも無い」

「……そう。リリーに力が有る事は理解したわ。……最悪死ぬけれど、覚悟はある?」

「ワルディリィは死なぬ。我が守るからの」

「いや……本当に、お前達は不思議な奴等だよ」


 諦めた様に笑ったカルラ。どうやら同行を許してくれたらしい。ホルガーはこのまま男に任せ、俺達三人は準備の為カルラの家へと向かった。出発だが、今直ぐ発てば夕方頃に着くと言っていた。その為向こうには一泊しなければいけなくなるとも述べた。


「俺が向こうの領地に滞在して居ても問題は無いのか?」

「ん? ああ、成程ねぇ。バレる危険性は有る。ワルディリィの人化は高度だから一般人には見破られないだろう。でも、高位の魔法使いや剣聖に出会ったら不味い事になるな。あいつらは魔族を完全なる悪と見なし、少しでも気配が有れば排除する。……滞在は危険だな」

「そうか。……リリー、犬の俺を巨大化する事は出来るか?」

「可能じゃが、教えるとなると少し時間が居るぞ?」

「いや、今は時間が惜しい。教えて貰うのは今度だ。巨大化が出来るなら二人が俺に乗れば少しは早く着くと思うが」

「ほう、成程のう。それならば滞在時間も短く済ませられるやもしれぬ」


 カルラの準備が済み家を出るとあの男が待っていた。


「本当に行くのか」

「ああ。ホルガーの妹も心配だからな。大丈夫だ、この二人も助けてくれる。ライマー、ホルガーを頼むね」

「……必ず戻って来いよ」

「勿論さ。私の居場所はここだからね! じゃあ行って来るよ」


 不安な表情をする男、ライマーに見送られ、貴族の元へとカルラに次いで歩き出した。

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