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料理が上手い人に悪い人は居ないと思って居る

 ホルガーは薬草を換金し妹を迎えに行くと出掛けて行き、その後カルラに部屋を手配して貰った俺達はその部屋で休憩をする事にした。


「まさかお主が我の仇を取ると考えて居るとは思わなかったぞ」

「美味い飯を食うついでだ。それにお前が生きていると向こうが知れば、何か仕掛けて来る可能性が有る。そうなったら安心して飯が食えないだろ?」

「ふふ。お主は食事が第一優先じゃの」

「犬の俺にはそれしか楽しみが無いだろうからな」


 人化を解き犬の姿でくつろいで居ると、部屋の扉が叩かれた。念の為人化し迎え入れるとカルラだった。


「聞くのを忘れていたのだけど、貴女達はお金を持っているの?」

「持って居ない。魔獣と捨て子だぞ?」

「だろうな。ここの宿代は私が立て替える。金が出来たら払って貰うからそのつもりでね」

「了解だ、ありがとう」

「後食事だが……私の手料理で良ければ金が掛からないがどうする?」


 リリーに視線を送ると嫌がる素振りを見せない為、頼むと答えた。


「分かった。食事の時は呼びに来るから。……まぁ大した物は出せないけど。じゃ、また後でね」


 笑顔を見せたカルラはそのまま部屋から出て行った。見た目的には不味い飯は作らないだろう。ただ、この世界の料理が自分の口に合うかどうかだけが心配だ。


「のう、ワルディリィ。我の仇について、話さねばならぬ事が有る」

「ん? 何だ?」

「我は……この国の、王の娘なのじゃ」


 その瞬間思考が止まり、勝手に人化の魔法も解けてしまった。


「本当にか?」

「お主が仇を取るって言ったのに、それに対して我が嘘を吐くと思うのかの?」

「いや……悪い。ちょっと驚いただけだ。あ、だからさっき国がとか言い掛けてたのか」

「そうじゃ。仇を取るという事はこの国の王を敵に回すと言う事。つまり国を相手にするという事じゃ。……じゃからの、ワルディリィ。仇を取るのは止めて欲しいのじゃ。わざわざ危険な事をする必要は無いのじゃぞ」


 ベッドに上がりくつろぐ体制になると話を続けた。


「俺はこの世界に転生して間も無い。早い話が怖いもの知らずだな。相手が誰であろうが関係無い。自分の子供を身勝手な理由であんな扱いをする奴は、王であれ許される訳が無いんだよ。他が何を言おうが俺の考えは変わらない」

「お主は損をするタイプじゃの」

「そうか? 至極真っ当な考えだと思うが」


 寝そべる俺に身体を預け深呼吸をしたリリー。何か言うのかと思ったが何も言わず、そのまま寝息を立て眠り始めた。


「動けないんだが……」


 仕方なくこのまま食事の時間まで過ごす事になった。金が有れば買い物も出来るのだが失念していた。金の調達が急務だ。


 いつの間にか眠っていたのか、扉を叩く音で意識は戻った。リリーはまだ気持ち良さそうに眠って居るが、身体をゆっくりと起こし離れ、人化し迎え入れた。


「食事の用意が出来たけど……寝てるみたいね」

「こいつにとって久し振りにまともな寝床だったからな。でも食事が出来たんだから起こす」

「いや、別に無理して起こさなくても」

「いいや。折角用意してくれたんだから、出来たてを頂くべきだ。起きろリリー、食事だぞ」


 声を掛けるが一向に起きる素振りを見せない。隷属の魔法が発動する様念を込め起きろと言うと、身体が先に起き上がり、それからリリーの意識も戻って行った。


「何じゃ……嫌がらせかの」

「起きないからだろ。カルラが食事を用意してくれた。行くぞ」

「うむ。それは早く行かねばじゃ」


 欠伸をしたリリーはベッドから降り、未だに眠そうな目を擦った。


「後でも良いのよ?」

「駄目じゃ。我も温かい手料理食べたいのじゃ」

「……ふふ。じゃあ行きましょうか」


 カルラに次いで部屋を出て、長の家へと向かった。扉を開ける前だと言うのに、食欲をそそる様な良い匂いがしている。


「ここに掛けて居て。今スープを持って来るから」


 席へと案内され腰を下ろした。目の前のテーブルには、全体的にバランスの取れた料理が用意されていた。シンプルに肉を焼いた物、蒸した芋、野菜と木の実らしき物を混ぜたサラダ。


「お待たせ」


 そして、カルラがよそって持って来た大きい肉の塊がごろっと入ったスープ。どれも見ためも匂いも美味しそうだ。


「召し上がれ」

「頂きます」


 スープをすくい口に運ぶと、味わった事の無い香辛料の風味があるものの嫌な物では無く、肉の臭みを消して居る様に感じた。大きな肉は力を入れずとも切れ、口の中に入れると柔らかさがより際立ち溶ける様に解れた。


「美味い。肉の臭みも無いし、何よりこの肉は凄く柔らかい。変わった風味も良いアクセントになっている」

「そう? 口に合って良かったよ」


 他の料理にも箸、では無くフォークを伸ばす。シンプルに焼いただけの肉も、すんなりと刺さった。味は若干の獣臭さが有るが、ジビエが好きな方なので気にはならない。サラダは新鮮さが余り無い様に感じるが気にはならない程度で、木の実の歯応えや香ばしさが口に広がる。蒸した芋もじゃがいも程では無いがホクホクとし居て美味しい。米の代わりだろうか。この世界の食べ物が自分の口に合う事が判明して大いに安心した。


 リリーは黙々と食べているが、どうやらカルラの手料理を気に入ったらしい。その姿を見たカルラも嬉しそうにしている。しばらく食事を楽しみ食後のティータイムを過ごして居る時に、カルラがこれからどうするのかと問い掛けた。


「金が無い。先ずは金を稼ごうと思う」

「成程ねぇ。私が斡旋する事も出来るけど……お前達、ギルドには登録していないのよね?」


 頷きリリーを見ると同様の答えだった。顎に手を当て考えたカルラはニヤリと意味有りげに口角を上げた。


「ギルドを通さない仕事の斡旋は本来行ってはいけない決まりなの。まぁ国が報酬からお金を天引きして稼ぐ為なんだけれど、でも、バレなければ丸儲け。危険は伴うし装備の補償も無いけど、やる?」


 やると即答仕掛けたが、リリーの反応を見てから答える事にした。当面の戦力はリリーなのだから、俺が勝手に決めて良い問題では無い。


「我は何でも構わぬぞ。仮に人種と争う事になろうとも、我は躊躇う事は無いしの」

「……まぁ、そうよね……人種に対して良い印象は無いわよね」

「じゃが、カルラのご飯は美味しいから好きじゃ!」

「リリー……!」


 カルラは勢い良く立上りリリーを抱き締めた。不思議そうにしていたが、リリーも頬を緩め久し振りの人間の温かさを堪能している。


「そういえば、ホルガーはいつ戻るんだ?」

「明日には戻るはずだよ。妹さんとここで暫く暮らして金貯めて、それから人種領の町に行って暮らすって言ってたな」

「ここは魔族領なんだろ? 妹を連れて来たら危険じゃないのか?」

「確かに魔獣も出るけど、この辺りは比較的弱い魔獣が多いし、ここの集落には腕に自信のある奴らが居るから大丈夫さ。それに知らない奴ばかりの町にすぐ行くより、暫くは見知った顔ばかりの集落の方が落ち着けると思うんだよ」

「成程な」


 カルラの腕の中に居るリリーが静かだと思い顔を覗き見ると寝落ちていた。


「おや、寝ちゃったね」

「はぁ……悪い。すぐ退かすから」

「いや……もう少しこのまま寝かせて上げよう。こんなに気持ち良さそうに寝てくれてるんだから」


 邪魔な素振りは見せず、逆に微笑ましそうにリリーを見詰めていた。


「そういやこの子の事情は聞いたけど、お前の……名前何だっけ」

「ワルディリィだ」

「そう。ワルディりィの事情は? お前みたいな上位ならこんな所彷徨かないだろうに」

「俺は……」


 自分の事情を話しても良いのかと言葉が詰まった。話してもどうせ信じては貰えないだろうと。それでもカルラからは悪意だとかの匂いは感じられない。


「俺は、こことは違う世界から転生して来た元人間だ。元の世界は魔法なんて存在し無い世界だった。俺はその世界で事故で死んで、今日来たばかりなんだよ。歩いてたらリリーを見付けて、話してたらこいつが隷属して、名前も付け合って今に至る。信じるかどうかはお前次第だ」


 話を聞いたカルラだが、特に表情の変化も無く驚いても居なかった。


「そうか……異世界人か」

「何で驚かないんだ?」

「この世界には異世界人召喚儀式が存在するんだよ。大きな戦争の前に行って、召喚した者は戦力として戦わせる。……実に身勝手な儀式さ。だからワルディリィが異世界人と聞いても、そこまで驚きはしない」

「……魔法がある世界ってのは嫌な世界だな」

「同感だよ。魔法が無けりゃあ戦争なんて無駄な争いは起きないのにね」


 そう言ってカルラは腕の中で眠るリリーの頭を撫でた。魔法が無くとも戦争は起きる、と言いかけたが、それはカルラが知らなくても良い事実だろうと飲み込んだ。


「今俺が言った事は誰にも言わないでくれ」

「勿論。長代理カルラの名において約束しよう。それにお前が異世界人の魔獣だなんて知られたら大変な事になるだろうからね」

「想像もしたく無いな。……それじゃあそろそろ部屋へ戻るか」


 リリーを起こして連れて行こうとしたが、カルラが部屋まで運んでくれると言うのでお願いした。部屋に着き、ベッドへ下ろしたカルラは毛布を掛けた。


「すまない。面倒かけたな」

「何言ってるんだい。こんなの面倒の内に入らないって。じゃあワルディリィも疲れただろう。ゆっくり休んでくれ」

「そうさせて貰う。色々とありがとう、カルラ。助かった」

「……良いって。迎え入れるって言ったんだから責任取らないと長代理の名に泥を掛けるからね。じゃあおやすみ」

「おやすみ」


 変身を解きカルラの傍に行くと、一瞬躊躇ったものの頭を一撫でして部屋から出て行った。ふと自分の尻尾へ頭を向けると、機嫌が良さそうに揺れていた。

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