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契約の方法に不満しか無い

 天井から落ちる水の音に意識は戻って行った。目が覚めると俺は人間……という夢落ちは無く、変わらず犬だった。少女は俺のふわふわで暖かい毛並みを楽しむ様に顔を埋め、気持ち良さそうに眠っている。


(……裸の女がこんな無防備な姿で居るのに、何とも思わ無いとは……)


 ため息を吐き、人であれば恋愛も結婚も子供も出来たのにと目を細め遠くを眺めた。


「……どうしたのじゃ。この世の終わりみたいな顔をして」

「起きたのか。……犬でも幸せになれると思うか?」

「それは分からぬ。お主がどう有りたいのかで変化が起こるからの。……なんじゃ、お主……さては人の伴侶を得て子宝に恵まれて、という幸せに憧れて居るのか」


 背伸びをし俺の頭を撫でた少女は微笑ましそうに見詰めた。身震いをしてついでに手を振り払うと、少女は楽しそうに笑い抱き着いた。


「はぁ……初めてじゃ。こんなに笑ったのは」

「笑いの沸点低いな」

「一眠りしてスッキリした。そして我は決めた。お主に隷属する」


 一瞬時が止まったかの様な静けさが辺りを包み込む。


「……隷属って何?」

「ああ、知らぬのか。奴隷という言葉は解るかの?」

「いや、そういう意味じゃなくて。何で犬に人間が隷属するのかっていう話だ。普通逆じゃないのか?」

「まぁそうじゃな。しかし、お主はこちらに来たばかりじゃろうて。ならばお主の旅路に我が着いて行く方が楽しそうだ」

「うーん……まぁお前がそれで良いなら。とは言え隷属って言っても言葉だけだろ? 今となんら変わりないだろ」

「いや、契約をするのじゃ。そうすればお主との繋がりが出来、我はお主に危害を加える事は出来ぬ。その方がお主も安心じゃろ?」

「まぁ……」


 正直既に危害を加えられるとは思っては居ない。だが何時何が起きるかは分からない。俺自身も犬になったとはいえまだ生きて居たい。


「分かった。ならお前は俺に隷属するって事で。何をすれば良い?」

「我にお主の体液を分け与えよ。その後我の体液をお主に与える。それで契約完了じゃ」

「……いや、ええ?」


 真顔で体液交換と口にする少女に情報過多で頭が追いつかない。


(体液って……あれ、か? いやいやまさか! 俺犬だぞ)


 ちらりと視線を向けると女は不思議そうに見つめ返した。


「どうしたのじゃ」

「た、体液って?」

「ふむ。性行為でも構わぬぞ」

「せっ!? 俺犬だからな!?」

「何の問題が有るのじゃ?」

「ええ……? 俺がおかしいのか……?」


 悩んで居ると少女は吹き出し俺の頭を撫でた。


「まぁ性行為でも出来るが、体液は唾液でも血液でも構わぬ。その対象者の物なら何でもな」

「せ……アレは省くとしてだ。唾液も血液もハードルが高いな」


 他人の唾液を飲むなんて無理な事だ。ならば選択肢は血液しか無い。


「お主は純情なんじゃな」

「な、何言って!!」

「ふふ。まぁ良い。血液で契約を交わそう」

「そう、だな……」


 手順はどこかに傷を付け血を出し先に俺が飲ませ、その後少女の血液を俺が飲むという事だった。アレと唾液よりはまだマシというだけで、抵抗感は拭えない。


 少女がどこからか出したナイフを俺の前足に軽く当てた。注射よりも痛みは小さいがそれでも痛い。


「では頂くかの」

「ど、どうぞ……」


 足を持ち上げた女は顔を近づけ一舐めした。その瞬間少女の身体が光に包まれ直ぐに収まった。そしてナイフを手の甲に滑らせ、傷口からじわりと漏れ出す血液を舐める様に催促した。意を決して舐めると鉄の様な味が広がると同時に、内から何か熱い物が混み上がり身体から光を発し収まった。


「これで契約成立じゃ」

「……」

「どうした?」

「何か身体が熱いんだが……」

「ふむ。それは魔力じゃな。我の血液を摂取し契約したからの」

「魔力……」

「今なら人間の姿に成れるやもしれぬぞ?」

「そんな魔法みたいな事出来るわけが……有るのか?」


 俺の問い掛けに女は口角を上げ得意気に説明をし始めた。契約で得た少女の魔力を使えば一時的に人型になれるらしい。維持をするには慣れるまで時間が掛かる為何度も練習をする必要が有る。


「お主は元は人間なのじゃろ? ならば慣れるまでそう時間は掛からぬかもしれぬ」

「だと良いんだがな。せめて食事位は人間の姿でしたい」

「ふふ。我はそのままの姿でも十分可愛いと思うがの」

「人間だったのに急に犬になる気持ちなんて、誰にも解らないだろうな……」


 人間へ擬態する魔法の言葉を聞き、何度か試すがうんともすんとも行かない。少女は初めて変身をするのだから想像が明確に出来て居ないだけだ、気にするなと慰めついでに頭を撫でた。


「ほれ、諦めずにやってみるのじゃ。内にある魔力を全身に巡らせ、人間に成ると強く念じるのじゃ」

「魔力を……全身に……」


 何度かためし漸く全身に暖かい魔力が行き渡り、そして人間になれと強く願った。


「人間になれ……人間の姿で食事をするんだ……」

「……おや」


 身体の内から熱が放出され、一瞬気が遠くなる様な感覚の後目を開けると笑顔の女が居た。


「おめでとう、成功じゃ」

「お、おう……」


 少女を見下ろしている事から身長も伸びている。手を上へと上げ指を動かしたが、問題無く動かせている。髪は腰辺りまで有る白髪だ。毛色が関係しているのだろう。四足歩行から二足歩行へともどった足を見る為に下を向いた時だった。驚愕の事実を目の当たりにしてしまった。


「……真っ裸!!」

「ん? 我も服は着ておらぬぞ?」

「着ろ!! 女なんだから恥じらいを持て!!」

「服を身にまとった所で、ここでは見る者など居らぬ」

「服は隠す為に着る物だろうが! とにかく、何か服をくれないだろうか」

「……お主……純潔か?」

「……それ以上口を開くな」


 その言葉の後少女の身体から光が僅かに盛れ、口を一文字に閉ざした。


「ん、んん? んんんんんんん」

「……? 何をしているんだ?」

「ん? んんんん、んんんんんんん、んんんんんんん」

「馬鹿にしてるのか? いや、これは……魔法か?」

「んん!」

「成程……隷属した事による魔法の適用か。面白いな。口を開け」


 少女の口が緩み嬉しそうに目を輝かせた。


「凄いぞ! 既に隷属魔法を物にするとは流石我が同胞よの!」

「喜ぶのか……」


 少女が作り出した服は中世の貴族が着る様なロングコートをメインとした黒い服だった。確実に前世の自分が着たら失笑物だろう。


「ふむ。白銀の髪がより際立って良いのう」

「別に目立た無くて良いんだが……うっ」


 突然頭痛に襲われたと思った次の瞬間には、犬の姿に戻っていた。着ていた服も消えている。


「ま、初めてでここまで長く化けたのじゃ。誇るが良いぞ」

「せめて一日は持たせたいな」


 とはいえ、何故か犬の姿の方が落ち着く。やはり犬としてこの世界に産まれたからだろうか。その後、少女にも服を着る様命令し無事裸祭りは終了した。次に変身する時にまた裸かと思ったが、しっかり服を着用していて安心した。

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