カルラの思惑
カルラに案内され向かった先は、薄暗い路地裏に有る古びた店だった。
「ここなのか? 見るからにヤバそうな雰囲気しか無いが」
「まぁその……見た目に関しては言い返せないが……大丈夫だから入ろう」
一抹の不安を抱えながら今にも潰れそうな建物へと足を踏み入れた。その中は案の定廃れていた。廃墟にしては新しいという印象だ。客なのか壁に貼られた紙を見ている者や、店員と話している者も居るので営業をしている事は確かだろう。それでも不安は拭えない。
新たに奥から出たて来た店員がカルラの顔を見て驚きの表情を浮かべた。
「マスター! お久し振りです!」
「コリンナ……何度言ったら理解するんだい? 私はもうマスターじゃないんだよ」
「申し訳ございません……。でも私にとってカルラさんはいつまでもマスターですし。所で、そのお連れの方々は……」
不思議そうに見詰める店員のコリンナに対し、カルラが軽く事情を説明した。人数も多い為、奥の部屋でギルドへの登録手続きをしようと提案され、コリンナの案内に付いて行った。
「只今準備をして参りますので少々お待ち下さい」
コリンナは部屋へ案内した後、手続きの準備をしに出て行った。カルラへマスターとは何か問い掛けると、躊躇いがちに口を開いた。
「マスターとはギルドマスターの事でな。要するにここの責任者だ。まぁその……あれだ。私は元はここのギルドマスターをしていたんだ」
「へぇ。カルラは凄いんだな」
「えっ……す、凄い?」
「責任者だろ? 見た目は潰れそうだし営業出来てんのかも分からないし、ギルドマスターの仕事内容も知らないが、それでも責任者をやって居た事は凄いと思う。店を経営出来る程の能力を持ってるって事だからな」
カルラは何故か目を丸くさせ驚いた後、顔を手で覆った。隠されて居ない耳は次第に赤く染まって行く。
「照れてるのか?」
「う、うるさい! 見るんじゃない! 馬鹿者が!」
「俺普通に褒めただけなんだが……何で罵られてんの?」
隣に座るリリーが子供をあやす様に俺の頭を撫でて居る。別に凹んだ訳では無いのだが、リリー本人は嬉しそうにしている為、そのまま好きな様にやらせた。その後、飲み物を持って来たコリンナは配り終えると、懐から巻かれている紙を四本取り出しそれぞれの前に置いた。
「ギルドに登録するにあたって魔力測定が必要事項となります。魔力が無い方にお勧め出来ない依頼も有りますのでご了承下さい。それではまず紙を拡げて下さい」
指示に従い紐を解き紙を拡げた。何か書いてある訳でも無く、まっさらな白紙だった。
「では次に紙の中央へご自身の血液を垂らして下さい」
「は? 何でだ?」
「血液にはその方の様々な情報が含まれて居ります。魔力を流すだけでも判るのですが、より詳しくとなると血液の方が良いのです。他のギルドは魔力を流すだけですが、当ギルド、ゴルトレーゲンにおいては血液とさせて頂いております」
「……痛いのは嫌なんだがな」
各々指を見詰め躊躇う中、リリーだけは何食わぬ顔で指に切り傷を付け血液を垂らした。紙に染み込み血液の染みは広がり徐々に文字が浮かび上がった。
「何をして居るのじゃ。お主らも早うするのじゃぞ」
覚悟を決め購入した短剣の先に指を軽く当てると、滑らせる前に指に切れ込みが入った。
「斬れ味最高かよ……」
予想よりも深いのか溢れ出る血液を紙へ垂らし、止血しようと懐からハンカチを出したが、その前にリリーが指を咥えた。
「お前……何してんの?」
「ん……」
「……離せ」
まさかの行動に一瞬考えが止まったが、即座に抜き去った。
「傷の手当てをしたのじゃが、治って居るかの?」
「傷の手当て? ……あ、消えてる」
「それは良かったのじゃ」
傷があった場所には何も残っては居なかった。ハンカチで拭いつつも手当てをする為に指を咥える必要は無かったのではと、問い質そうとした時、俺の血液を垂らした紙は黒く染まった。
「真っ黒なんだが、不良品か?」
コリンナに問い掛けたが目線の先にあったのは剣先だった。いつの間にか武器を俺に向けて構えていた。
「……どういう事か説明して貰えるだろうか」
「説明をして頂きたいのはこちらなのですが。……カルラさんに取り入って何を企んで居る。この魔族め」
魔族という言葉を聞いたレイアとエルマは驚きそして体を強ばらせた。リリーは呑気に飲み物を口にし、カルラは口元を歪ませた。
「ああ……そうか、最初からそういう事だったのか」
「何を納得して居る。理由を話せ。さも無くばこの場で殺す」
この状況で何を言っても信じては貰えないだろう。まさかこんなに早くリリーと別れる事になると誰が思っただろうか。裏切られたカルラに任せるのは些か不安では有るが、リリーは人間だから邪険に扱われないと信じたい。




