欲張り過ぎた者の末路と新たな仲間
貴族の待つ部屋へと案内するメイドに黙って付いて行き、二階の扉の前で止まった。
「……旦那様、宜しいでしょうか」
「ああ。もう片付いたのか、入りなさい」
「失礼致します」
ドアノブを強く握り締めたメイドは扉を開けて中へと入った。
「早く先程の女子を……なっ!? 何でお前らが居る!!」
後に次いで中へと入って来た俺達の姿に、男は酷く動揺して居る。それもそのはずだ。殺せと命じてそうなるであろうと信じて疑わなかったのだから。
「レイア!! これはどういう事だ!!」
「ひっ……」
カルラは怯えるメイド、レイアを庇う様に後ろへ追いやった。
「先の話の続きをしようか。ホルガーの妹を返して貰おう」
「ふん! 知らないと言っただろう!! 糞……あいつらしくじったのか……」
「早くしろ」
「うるさい黙れ!! 平民風情が貴族に口を出すな!!」
拳を握り締め耐えていたカルラだが、我慢の限界だったのか男に殴り掛かろうと一歩前に出た。だが、長代理が手を出すと後々問題になるかもしれない。服を掴みそれを制すと代わりに自分が前に出た。
「何だ貴様は」
「ただの……平民だ」
「だったら黙っていろ」
「そうもいかないんだよ。早く、ホルガーの妹を返せ」
「だから知らんと」
「本当に知らないのか?」
「な、何だ……来るな!!」
魔力の抑えを止めて男へ近付き壁まで追い詰めると首元の服を掴み持ち上げた。多少重くは感じるが身体強化をして居なくても、持ち上げられない程では無い。
「ぐっ……は、離せぇ!!」
「妹を返せば離してやろう」
「し、知らん!!」
「……面倒臭いな。解った、離してやる。この窓の外にな」
「ひぃ!! や、止めてくれぇ!!」
窓を開け上半身を外へ出すと男は泣き始めた。そして更に押し出そうとすると漸く男は妹の存在と身柄の引渡しを認めた為、中へと戻し手を離した。
「妹はどこに居る?」
「ち、地下牢に……」
「俺達を連れて行け」
「分かった」
念の為腕を後に縛り案内をさせた。地下牢には数人の女が入れられて居た。服はボロボロで、劣悪な環境だとしか言えない場所だった。女達は男の姿を見て怯え奥の壁まで下がって行く。鍵を受け取って居たカルラが開けるともう大丈夫と声を掛けたが、それでも怯えたまま動かない女達に、カルラはホルガーの名前を出した。すると一人の女が反応し立ち上がった。
「お、お兄ちゃんの知り合い……?」
「そうだ。お前がホルガーの妹かい?」
「うん」
「迎えに来たよ、もう大丈夫だから安心して良い」
妹は震えながらもカルラに抱き付き泣いた。他の女はどうするのかと問い掛けると、剣聖団に任せると言った。剣聖団と聞いた女達の目に輝きが戻り、助かったのだと実感したのか泣き出した。一旦この場はカルラに任せ、男と共に先程の部屋へ戻り第二の目的に移行した。
「ま、まだ何か有るのか!」
「金を出せ。裕福な暮らしをして居るんだから有るだろ? ホルガーが持って来た分もきっちり返して貰うからな」
「糞が……」
「……手脚を失っても人間は生きていけるよな」
「ひぃ!! わ、解ったから!! そこの棚に金が入っているから持って行け!!」
「ホルガーの分も有るんだろうな?」
「入ってる!!」
「そうか」
棚を開けると何かが大量に買って入って居る袋があった。持ち上げると硬貨の様なぶつかり合う音がした。念の為袋を開けリリーに確認させる。
「うむ。この世界の通貨じゃ。この量じゃと……この屋敷を買える位は有るじゃろ」
「へぇ。じゃあ有難く貰って行こう」
「何で……こんな事に……」
「は? お前が自分で撒いた種が育った結果だろ」
カルラが戻って来ると、これから剣聖団を呼びに行くと言った。俺がここに居ると討伐され兼ねない。離れる事を考えるがそうなると誰も居なくなり、男が逃げ出す可能性が有る。
その上、手脚が切られた男達の説明も大変だろう。かなりの危険は伴うが、カルラが戻るまでここに留まる事にした。直ぐに戻ると走って行ったカルラを見送り、男にこの世界の貴族について問い掛けた。
「お前の貴族としての地位はどの程度なんだ? 階級とか有るのか?」
「……俺は下級貴族だ。これでも元は平民だったんだ。やっとここまで来たのに……」
「平民でも貴族になれるのか。下級なら中級上級と有ってその上が王族か? 公爵とか男爵とか有るんだろうか……」
「こんな事を聞いて何をするつもりだ」
「別に。気になっただけだ。っていうか、悪い事しないで普通にしていれば捕まる事も無かったんじゃないのか。せっかく平民から貴族になったのに、なにやってんだよ」
「黙れ!! 貴様らの顔は絶対に忘れないからな……いつか必ず復讐してやるからな!!」
男はそれ切り口を開かなかった。カルラがいつ戻って来ても良い様に、なるべく人間と思わせる為に魔力を出来る限り押さえ付けるイメージをした。それから間も無くしてカルラが剣聖団という連中を連れて戻って来た。普通の鎧を身にまとった連中に混じり、一人だけ赤い色の鎧を身に付けた男が居た。カルラはその男に事情を説明していたが、それが終わった途端に男はこちらへと向かって来た。
「お前達があの四人をやったのか?」
「そうだ」
リリーがやったと言わずに肯定すると、男は何か思考しその後頷いた。
「そうか。良く無事だったな。奴らはこの辺りでも名の知れた武闘集団なのに。……あ、自己紹介がまだだったな。私は剣聖団所属、赤連隊隊長ゲレオンだ」
「俺はワルディリィ。こいつはリリーだ」
「ワルディリィにリリーか。宜しくな」
ゲレオンが手を差し出したが、迂闊に触れると魔獣だとバレる可能性が有る。するとそれを察知したのかリリーが手を握った。
「宜しく頼むのじゃ」
「……ああ。所でお前達はどこから来たんだ? 見た目的には貴族位に見えるが」
「俺達は平民だ。そこのカルラとホルガーに世話になった。だから今回手を貸しただけだ」
「ふむ。その手に持って居る金は?」
「これはホルガーが妹を連れ戻す為に用意した金だ。それを返して貰ったんだ」
「成程……理解した。お前達が奴らにした事は正当防衛に当たる。よって、今回の騒動について罪に問われる事は無い」
「……そうか、良かった」
やはり罪に問われる事も有るのかと一瞬冷や汗を流したが、罪に問われないと聞き一息吐いた。ゲレオンは頬を緩ませリリーの頭を撫でた。
「しかし、こんな危険な場所に小さな子を連れて来るのは関心しない。今後は控える様にな」
「精進しよう」
「じゃあ私は仕事が有る。また何か有れば剣聖団に頼ってくれ」
ゲレオンは部下に貴族の男の身柄を拘束させ、他の図体の大きい男達と保護した女達を連れて屋敷を出て行った。残されたのは、俺達とカルラ、ホルガーの妹とメイドのレイアだけとなった。
「レイア。確認の為に聞くけれど、剣聖団に保護を求めなかったって事は、私達と一緒に行くって事で良いんだね?」
「……はい。私なんかでお役に立てるとは思いませんが……」
「大丈夫さ! 野郎が多いからお前みたいに可愛い子が居れば、少しは明るくなるってもんさ!」
レイアは可愛いと言われた事に対し物凄く否定し恥ずかしがっている。それを楽しそうにカルラは頭を撫でた。その間俺は帰りの事を考えていた。人数が増えた事で犬になって移動する事は難しくなってしまった。だが幸い、ここの主は連行された。しかしメイドは残って居る為、一晩泊めて貰い早朝出立しようとカルラに提案した。犬になっての移動については口に出さなかったが、カルラは理解してくれた様でこの提案を受けた。
「お泊まりの準備と食事のご用意をして参ります」
「すまないね、レイア。頼むよ。ああでもこの子を風呂に入れてあげたいから、先に案内して貰えるかな」
「かしこまりました」
レイアの後に続き、カルラと妹は部屋を出て行った。二人だけとなった瞬間に俺の変身は解けた。
「疲れた」
「ふふ。お主にしては頑張ったの。褒めてやるぞ」
リリーに頭を撫でられると身体の疲れが取れて行く様な、不思議な気持ちになる。
「リリーも疲れただろ。一緒に風呂に入れば良かったのに」
「我はお主と入るから良い!」
「……は?」
頭だけでは飽き足らず身体を撫で始めたリリー。振り払おうとしたが、撫で回させるという約束を思い出し好きにさせる事にした。自分では解らないが尻尾も振って居るので、多分満更でも無いのだろう。暫くして満足したリリーは離れ長椅子に腰掛けた。俺もとその隣に上がり座る。
「なぁ」
「なんじゃ?」
「辛くないか?」
「それは……あの男等にした事かの」
「そうだ」
「……我には、もう痛める心は無い様じゃ。お主が居なければ、普通に首を狙って居ったじゃろうな」
「……まだ子供なのに」
「見た目は子供じゃが、中身は立派な大人じゃぞ?」
「何歳なんだ?」
「15じゃ!」
「まだ子供じゃないか」
「お主の世界では知らぬが、我の世界では12で成人となるのじゃ!」
「12歳で成人って……とんでもない世界だな」
レイアが戻るまでの間犬の姿で休み、人の気配を感じた所で人化になった。大分スムーズに変身が出来る様になっては居るが、気が緩むと元に戻ってしまう事がある為気を付けなければならない。




