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「ベアトリーチェ! お前との婚約を白紙に戻し、私はこの愛するアリアとの結婚を……って。えぇ……最後まで言わせて下さい父上。王族男児で1回は言ってみたい悪役な王子のセリフNo.1ですよ?」
「うん、もう少し声を抑えなさいか馬鹿息子よ。あまりやり過ぎると私とお前の首が物理的に危ない。……お前は廃嫡とする! 離宮にて謹慎ののち追って沙汰を出す! ……ほら、次のセリフ」
「そんなっ!? 父上あんまりデス!」(棒)
ところどころ親子2人小声で話しながら、壇上で三文芝居を繰り広げている方々。王太子殿下はセリフの途中で騎士に拘束されたな。
今日は卒業パーティーだ。そう、俺が旅に出てから早2年。ベアトリーチェお嬢様は学園卒業である。
少し見ない内にやはり女神にお育ちになったベアトリーチェお嬢様。
今日は卒業パーティーという事で真っ赤なマーメードラインのちょっと大人な感じが妖艶さを醸し出している。
アレは人目に触れては駄目だろう。
胸のたわわは一応は仕舞い込まれているが、キュッとしたまろみのあるお尻が布の上からとは言え何とも目のやり場に困る代物だ。
アップにされた髪にうなじを曝け出して……駄目だ。オッサンは思考を放棄した。こんなところで鼻血は出したくない。
ベアトリーチェお嬢様は悪役令嬢ポジションらしいが、同級生より抜きん出た大人の魅力満載のグラマラスさ。令嬢と言うより女王様と思わず呼びたくなるオーラを醸し出している。
今は手に持った扇を広げて神々しいお顔が見えないが、様になっているな。今からアレでは先は末恐ろしい。
果たして俺はベアトリーチェお嬢様を嫁にして、毎日無事に生きていけるだろうか? 血圧が上がりっぱなしで天寿を全う出来ない気がする。
国王陛下の謝罪もそこそこに「後は楽しんでくれ」と、言う言葉を皮切りに楽団による音楽が流れ始めた。
後は国王陛下がちょっと良い酒を後で差し入れるとの事で、多少ザワつきながらも、卒業パーティーは予定通り行われる手筈になる。
ベアトリーチェお嬢様は残念ながらここでご退出らしい。俺も出るか。
隠し通路から身を翻そうとしたら、なぜか退出途中のベアトリーチェお嬢様と目が合った気がした。気のせいじゃないな。ウィンクされた。
グサッ
あ、キューピッドの矢じゃなくて、もはやブっとい槍を深々と心臓に打たれた気持ちだ。
コレは抜いたら死ぬ。抜かなくても死ぬ気がするのは気のせいじゃないな。
戦場のデンジャラスなドキドキとは別に動悸息切れがしそうになったが、何とか耐え忍んでその場を後にした。
アレかな。歳かもしれない。それか、コレが俺なりのトキメキと言うヤツだろうか? 多分違うな。違うと思いたい。
こんなトキメキなど毎度食らっていたら、俺の命が幾つあっても足りない気がする。
今すぐに宰相家の屋敷に帰りたい気持ちに蓋をして、俺は他国の使節団と合流。
次の日には正装して王宮の授与式に出席した。
この国の騎士団長を輩出する家系のどっかの家の出として、周辺諸国の戦乱を収めた立役者として褒賞授与をされるためだ。
「褒美は玉座で良いだろうか?」
「ははは。お戯れを国王陛下」
あれ? 何か台本と違う事言われたけど、気のせいだな。
軽くスルーしてから、次に変な事言ったら殺すと思いながら笑顔をたたえていると流石に押し黙ってしまった。
玉座もいいかも知れないが、そんな物を欲しがる性格ではない。欲しかったら暗部の誰かがとっくになっていただろう。
表立って動くのが嫌だから、綺麗な見た目の王侯貴族を矢面に立たせて影で暗躍してるんだ。
「こちらで用意した爵位や領地に金銭と勲章に。他に望みはあるだろうか?」
しかし、このセリフを言ったら俺も晴れて表舞台に出なくてはな。派手に動いたんで今更だが。
「どなたか良い嫁を国王陛下からご紹介していただきたい。この歳まで独り身でしたので、人選はお任せします」
「ふむ。では、後日何人か釣り書を送ろう。此度は大義であったな」
「ご配慮感謝します。御前失礼致します」
後日釣り書が送られて来たが……おいおいおい。思ったよりも多いな? さて、ベアトリーチェ様はどこだ?
「コレは酷い。」
「側室のお産みになった6歳の姫様ですか。カイル様、コッチに3歳児が……コレもですね。プクプクで可愛らしいですよ」
完全にロリコンだと思われてるな。冗談で送って来るにしても量が多い。
色んな国々で引き抜いて来た側近達と手分けしながら釣り書を漁っていると、最後の方でベアトリーチェお嬢様の釣り書を発見した。
「ヤベェ……マジ天使。いや、でもコレは……」
「へぇー。噂に違わず本当にお可愛らしいデスネ。お相手お幾つなんですか?」
「18歳のはずだが……。これは6歳時の肖像画の模写だな? 何で?」
「もしかして、次のコッチじゃないですか? プロフィールの名前は一緒ですよ」
「??? 本当だ。うわぁ、女神だ神々しい目がつぶれそう。額縁に飾って崇めたい」
「その様に手配しときます」
「冗談だが、保管はしといてくれ。他は処分して……早速、婚約の打診を──」
婚約しませんか? と、言う手紙を書き終わり、夕飯を食べて寝室に戻ったら、なぜか釣り書の絵が額縁に入れて飾られていた。しかも2つ。ポカーンとしてる間に風呂に入れられて就寝準備。
寝酒と軽いツマミをテーブルにおかれておやすみないと言われてしまったな。
「大きくなられたなぁ。清楚なドレスもやはりいいな」
べアトリーチェお嬢様は小さな時は妖精や天使を思わせる可愛らしさ溢れてる子どもだが、今は綺麗系だ。淡雪のような色味も儚い感じで似合う。きっとウエディングドレスも似合うだろうな。
それにしても、不安分子の隣接した3国を三つ巴の戦のどさくさに紛れて我が国に属国紛いで吸収して国王陛下に献上したが、果たしてここまでしてベアトリーチェお嬢様に婚約打診を断られたらどうしてくれようか?
4つ目は内部からジワジワと責めて自然降伏を狙っている最中だ。緩めの経済封鎖であと1ヶ月したら誘発した内乱になる。そこからは現地にいる部下や側近が平和同盟と言う名の植民地計画書にお偉い方にサインを書かせればOKだ。
コレで隣接する国は全てを手中に収める事になる。我が国が包囲されているように囲まれているが、他の国々とワンクッション置いた形になるので、緊急時は1国分が壁になって時間稼ぎをしてる間に何とかなるだろう。
前にも増して安全性を確保した我が国はスパイではなく堂々と隣接諸国に人員(勿論暗部由来)を派遣出来て監視もしやすい。
これくらいしないと、ベアトリーチェお嬢様との平和ライフを満喫出来ないからな。
コレで安心して近隣を気にせず嫁を愛でる計画が実行出来る。一度表側になると、顔が割れているんで中々秘密裏に自分で動くとか難しくなるからな。
控えめだとこれくらいしか出来ない俺だが、果たしてベアトリーチェお嬢様に手ぬるいと幻滅されないか不安で仕方ない。
後日、カイルママに自重しなけりゃドコまで手を伸ばした? と、聞かれて「大陸制覇? いやでも人員足りないかな……行けるか?」と疑問系で答えた息子の顔を見て「あ、その顔は世界征服まで行きそうね」と内心思ったが、軽く返事だけしてその場は濁した。
約2年で実質の国面積を7倍近く増やした国に、近隣の国はいつ自国が吸収されるかビクつきながら過ごす羽目になった。