ウェデングドレスをこの手で13
「婚約なんてまどろっこしいから、そこは結婚でしょ?カイル、私と結婚してちょうだい」
先手必勝、挨拶も無しに自信たっぷりのお顔と見せかけて、内心『こんなこと言って大丈夫かな?』と思って強がってるベアトリーチェたんいただきましたぁぁあぁぁぁぁぁベアトリーチェたぁあぁん!あんまりカイルを刺激しないでって言ったのに、やっぱり理解は無理だったかぁあぁ!!?仕込みが足りない。
カイルの笑顔が崩れて、頭を抑えたフリして目元を隠している。顔の維持が出来ないくらいで、かなりの攻撃力だったらしい。カイルプロポーズ受けるの3回目だけど、毎度威力が増してるよね。ドンマイカイル。
「え?まさか嫌なの?」
「いえ、決して嫌ではないんですが…」
いや、それにしても悪役令嬢演技指導のおかげなのかベアトリーチェたんが堂々としてて可愛い。見せかけだけだけど。有る胸を張っては行けません!カイルの目が釘付けになっちゃうから。
「嫌って言われても今更逃がさないけどね私?」
こらーーーー!ベアトリーチェたん無自覚煽りが……うっわ。片手で隠しているので、正面のベアトリーチェたんからは見えないが、横から見ると『無』の表情のカイルが目をギラギラさせて…コレはあかーん。
思わず私はカイルの頭を引っ叩いた。なんでやねん!くらいで。目を覚ませカイル!お前のどっかに無くした理性を掻き集めるんだ!
やっぱりヘタレカイルは幻だったのか?いや、言動は引き気味でヘタレてるけど、一体心理状態がどんななのか…………もしかして、落としたいとかもあるけど、普通に襲ってしまいたいだけ?それはますます良くない状況。
その色香が溢れんばかりの顔を仕舞えカイル。ベアトリーチェたんに見せて良いものでは無い。
カイルに気を取られていたら、ベアトリーチェたんが泣き出してしまった。
「ヒック……ぐずっ……」
え…ベアトリーチェ泣いてる………可愛い。違う、そうじゃ無い。カイルを蹴り上げようとして、回避されてから本人は走って逃げてしまった。カイルが後をすかさず追いかける…………私も追いかけなきゃ。混乱してる場合じゃ無い。
カイルは付かず離れずの距離で……これは自室に向かってるね。
ベアトリーチェたんが立て篭った自室の前でドアを開けようか開けまいか悩んでるカイル。結局は辞めて、ドア横の壁に座り込んでいる。
ヘタレなのか?今はヘタレてるのか?ドア蹴破るくらいしそうだったけど……良く分からないカイル。
入室許可を求めて部屋に入る。部屋の外でションボリしてる猛獣に会話が聞こえる様にワザとドアは少し開けておく。
カイルは私と一緒に部屋に入って来ようとはしたが、ハンドサインで待機命令を出した。
ベアトリーチェたん優先だ。何で翡翠の目から涙を流しているのか、先に確認しなければならない。カイルの相手をしてる場合では無い。
まさかの理由が嫉妬。私とカイルと仲良く見えるだと?
いや、そうだよね。彼氏彼女?の目の前で仕事仲間的な立ち位置の私が彼氏の頭いきなり引っ叩いたら、彼女と言う名のベアトリーチェたん嫌な気持ちになるよね。でも、コレだけは言わせて下さい。
「いえ、仲良しではありません。アレと仲が良いと思われてるのが心外です」
貴女を推してるのであって、カイルの事はこれっぽっちも、ミジンコ程も好きでは無いし普段決して仲良くもない。
同僚でありベアトリーチェたんの好いてる相手であるから存在を少しは尊重しようとしてるが、本当アレと仲良しだとはマジで思われたく無い。
何なら前世は最終的に殺意しか湧かない相手だった。前世カイル推しの方誠にすいません。
今世はまだマシだけども。ごめん、カイル。こんな同僚で。
カイルママンに婿に勧められた時に『カイルと結婚するなら死んだほうがマシ』だと率直に頭に浮かんだくらい。
コレが本当に当主同士の取り決めで進められてたら、私に拒否権は無かったが。そんなもんだ暗部の結婚も。当事者の私に聞いてくれたカイルママンが変わってるだけで。
でも、それは私の心情であって、ベアトリーチェたんからしたら嫌な気持ちになるだろう。
幾ら私が『仲良くない』と否定したところで、ベアトリーチェたんには嫉妬の対象になり得るならば、極力出来る範囲で私はカイルと距離を取らねばならない。
ベアトリーチェたんが命の危機に晒されない程度に。今まで我慢させててごめん、ベアトリーチェたん。
カイルが1回「盗み聴きしてた」と謝罪しながら部屋に入って来た。
ベアトリーチェたんはカイルが口数が少ないのと、もっと心情を話してくれと吐露した…いや、それは私の責任でもあるね。
今は分別ついてるベアトリーチェたんだが、昔は何でもカイルの真似をしたがってたしその真似っこは口調も含まれてたから。
ブロッコリーに向かって『食っちまいたい』と言った時は思わずホッコリしたけど、絶対そのセリフはカイルが言ったなと思って宰相家にお知らせして関節的にカイルに注意してもらったな。
育児書は軽く読んだ後で仕事中は気をつけてたらしいが、まさかベアトリーチェたんがプライベートの時までドカドカ土足で入られると思わなかったらしい。
カイルの中では休日とは、寛いでひとりでゆっくり過ごす時間だからね。
後は考えてから喋らないと、カイル若くは見えるがオジサンだから。
無自覚にセクハラ紛いなこと言ったりするので、ちゃんと考えてから言わないと後で後悔するぞと。
私が仕事着をスカートからズボンに変更した時に「いいケツだな」と言ったのは忘れない。
本人は誉めたつもりらしいが、完全にアウトだろう。カイルは脚とお尻大好きだし。
ベアトリーチェたんに被害が行くと行けないので、私は不快だと思ったらその場で訂正もしくは説明するが。中々カイルの理解が得られない時あるのから辛い。
そんなこんなでカイルは口数が少ない。
そして今は、前にも増して喋れなくなっているんだろう。脳内がピンク色過ぎて。
素直に喋って良いの?のカイルのアイコンタクトに『ヤメテ』の意味を込めて首を横に振る。
そしてまたベアトリーチェたんの嫉妬が向けられて………やり辛いから場所変えよう。
カイルに厨房に行って貰ってお茶の準備などしてる間に私はベアトリーチェたんとお話しだ。
「お嬢様、実は黙ってた事があります」
「何?」
「カイルさんの優秀さはお嬢様もご存じでしょうが、普段は手を抜いております」
「あれで?」
「そうです。そして、それを踏まえてカイルの愛は重い物だと認識して下さい」
「うん?」
「冗談抜きで、お嬢様が『世界の全てが欲しい』と言ったら喜んで持って来る様な事が冗談抜きで出来る人です。住む所選んでいい位は言うでしょうきっと。充分注意して、良く考えてから発言して下さい。行動力のあり過ぎる方ですから」
流石のベアトリーチェたんも、ちょっと顔を引き攣らせた。