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ウェデングドレスをこの手で12


 カイルが戻って来た。卒業パーティー1週間前の夜中に私の所に来た。窓から。

 灯りが見えたから、まだ起きてると思ったらしい。その通りです。




「留守番お疲れさま」



「カイルさんおかえりな………」



「ただいま。どした?」



「何か、前より身体付きが…」




 筋肉が増してるだと?「最近弛んでたからな」なんて言ってるけど、前でも充分ですから。


 良く食べるカイルはあの筋肉を作る為に、どんだけ肉と言う名のタンパク質を消費したんだろう。そして、どれ程運動(殺戮)して来たのか怖くて聞けない。



 ベアトリーチェたんに今すぐ逃げろと叫びたい。体力作りメニュー増量したけど、もしかして足りない?鍛え足りない?まだ足りない???誰か嘘だと言ってくれ。




「相談があるんだが…」



「はい?カイルさんが私に相談ですか?」



「ああ。実は婚約式をしてドレスと指輪をベアトリーチェお嬢様に贈りたいんだが…アドバイスが欲しくて…」



 婚約式?ちょい待てカイルよ。こちとら結婚式の準備してるのに今更婚約式?訳が分からないよ。



「カイルさん、何でまた婚約式なんて…今更必要ですかね?」



「あ…ぃや…まぁ。そうだよな……実は、侍女長の書いた貴族の婚約式にちょっと憧れがあって…だな…。ほら、男側が準備してもいいだろアレ?」



 著者が私だとバレてる!そしてかなり歯切れが悪い言い方。

 しかし、婚約式に憧れって。この人意外とロマンチスト…無いな。カイルに限ってそれはない。



「お嬢様に、カイルさんが用意したドレスをお召しになって貰いたいと?」



「話しが早くて助かる。端的に言えばそうだ。結婚したら俺の誕生月の色しか身に付けさせないから。最後にお嬢様の誕生月の色で着飾った姿をこの目で見たいんだ」



 欲望に忠実だな、オイ。



「頼むから、その独占欲少し抑えて下さい。しかし、そうなるとピンク色のドレスですか…」



「何か問題有りか?やっぱ駄目か?」




 私はカイルの方を見た。自信なさげでまるで捨てられた猛獣の様だ。そこは子犬や子猫じゃないのかよとのツッコミはしないで。


 ヘタレたカイルでも、決して可愛い生き物にはなり得ないよ。だってカイルだし。



 けど、この人が感情に任せて自分の意見を私に言うのは何だか新鮮だな。


 仕事中とか、どちらかと言うと受け身な姿勢が今まで多かったし。

 私の育児書に忠実に従う姿勢とか。色気仕舞えとか散々言って来たっけね。



 同僚の頼みだ。叶えてあげる場を設けるチャンス位はあげてもいいだろう。


 まぁ、ぶっちゃけると時間稼ぎでもある。お嬢様に基礎体力向上の時間を作る為の時間が、今は1分1秒でも多く欲しい。



「カイルさん、お嬢様に了承を取るのはご自分でお願いします。場は設けますが……ハッキリ申しますと、殿方に贈られたドレスを女性側が喜んで着るかは分かりませんよ」



「ん?うん」



 あ、この人プレゼントした物が喜ばれないなんて経験今まで無かったのかも知れない。



「実際、婚約を申し込む過程で男性側がドレスを用意して女性側が『一緒に選びたかった』と落胆したとか、ドレスのデザインが気に入らなくて仲が悪くなったとか…色々耳にした事ございますでしょう?」



「あー…うん。だから、侍女長にデザインのアドバイスが欲しくて…」



「カイルさん。一生に一度の事ですから、そこはご自分の好きな様に出来るよう、お嬢様に打ち明けてご準備なされば済む事です。内緒で推し進めようとするから喧嘩になるんですよ。試着段階で揉めるくらいなら、始めから曝け出せば良いのです」



「なるほど…」



「でも、実際にドレスをお召しになるのはお嬢様ですからね。仮縫い、試着段階で『ここは絶対変えて欲しい』と譲られないところは、お嬢様やデザイナーの意見に耳を傾けるくらいはして下さい。カイルさん説得は得意でしょう?聞くフリくらいはしてあげて下さい。飾りが大き過ぎて、邪魔な位置にあるとか動き辛いとかはあるでしょうし。最初っから『絶対コレ』とガチガチに構想を固めないで、コンセプトだけ決めて臨機応変にしても楽しいですよ。お嬢様はお心の広い方ですから、ご説明すれば大抵の事は受け入れて下さると思いますし」



「『美少女の落とし方』の本も書いて欲しいな…」



 バレてーら。おかしい。何故分かった?



「もう既に落ちてしまってるので、カイルさんには不必要でしょうが『美女の取り扱い説明書』位はご準備します。頼むから、結婚式終わるまでは手を出さないで下さいよ」



「はいはい」



 生返事のカイル。私は釘を刺しても抜かれるし、縫い付けてもスルリと抜け出しそうな人だけど忠告はしておく。




「カイルさん、今の貴方が手加減なしでお嬢様に手を出されたらアッと言う間に壊してしまいますから。もう少しだけ我慢して下さい」




「気をつけるよ。気をつけたいけど………それもいいなと思ってしまう自分が嫌になるよね」




「何かあっても、私はカイルさんよりお嬢様を優先させますから。それと、卒業パーティーは時間で入れ替え制です。カイルさん用に良い場所は確保してますから。こちらチケットに地図がーーー」




 見学人数多過ぎて苦肉の策で入れ替えである。

 ベアトリーチェたんと王太子は途中退場されるしね。2人とも人気なので、場所取りで揉めない様に最初からチケット制にしたのだ。


 粗雑なイザコザの所為で、ベアトリーチェたんの悪役令嬢お披露目を邪魔されちゃ困るもんね。持ってて良かった裏の権力。












 卒業式当日、ベアトリーチェたんは真紅のドレスに身を包み…これでもかとボンキュッキュッなわがままボディを強調したマーメイドラインのドレスは一歩間違えれば服に着られてる感が出るが、そこはベアトリーチェたんクオリティ。気品漂う佇まいで、見事に着こなしされている。流石ウチの子、何着せても似合う。



 カイル妹直伝のバストアップ体操で順調に育ち過ぎたお胸は流石に仕舞ったけども。谷間はマズイ。レースにしてもエロスが増して駄目だっので、布で防御しました。


 隠れてると暴きたくなる人には通用しないが。特に魔王とか、夜の帝王とかカイルとか…全部同一人物ですね。






 私は卒業パーティー中、ベアトリーチェたんの横に鎮座している。侍女だから。


 職権濫用じゃないよ。もう一回言う侍女だからね。ヒャフー!!渾身の悪役令嬢を1番近くで堪能出来ます。ありがとうございます

 特等席っ!!!プレミアチケットも霞む程だわ!ふはははは。




 ずーーーーーっと悪役令嬢ベアトリーチェたんを眺めてたので、王族の寸劇を見損ねた。音声は拾ってたんだけどね


 さて、ご退出の前にベアトリーチェたんに耳打ち。『カイルが所定の位置にいるのでウィンクして下さい』と。




「お願いします」




「よろしくってよ」




(悪役令嬢ベアトリーチェお嬢様から『よろしくってよ』いただきましたぁぁあぁ!ご飯3杯ペロリです)




 ベアトリーチェたんはウィンクしたけど『バーン!』と違って反応が無いから心配になったらしい。


 大丈夫です、カイルの隣に陣取っていた同志の話しだと、直撃食らって頬を高揚させていたとの情報がありましたから。因みにその同志は流れ弾を食らって、いっぺん死んだと申していました。



 カイル…ベアトリーチェたんからファンサを受けて、好感度補充。

 好感度120%であわよくば、ずっとヘタレカイルでひたすら結婚式まで弱体化しないかと思ったけど、そんなに甘くは無かったね。




 カイルの前に、止めなければいけないのはベアトリーチェたんだった。


 知能は上がって馬鹿じゃない…寧ろ天才なんだけどドジっ子属性?いや、これはもしかして天然記念物?天然から来る無自覚な煽りだったのか!?ここに来て新たな発見。



 ヴァージョンアップされた体力増し増しメニューを本当にこんな物が必要なのかと、不審な目を向けられながら…更には無自覚な煽り回避をしようと指導しようとしたが……自覚が無い物を治すとかないよね。




 準備万端と言えない状態で迎えたカイルとベアトリーチェたんの婚約打診のお話会当日。


 私は寝不足の目を擦りながら顔を洗い、いつもの身支度をするべく着替えを行った。



 邪魔な癖毛の強い茶色の髪は、降ろしていると肩まである。それをリボンで縛ってうしろで一纏めに。


 シャツにズボンにジャケット。ジャケットの内ポケットに色々仕舞ってあるのはお約束だ。日差しがあって暑い日でも決して脱ぐことは無い。



 本当はジャケットより丈の長いスカートの方が何かを隠すには収納力が良い。


 しかし、私は鞄が大きいと入るだけ荷物が増える性分なので、荷物持ち過ぎを防ぐ為にジャケットの方で落ち着いた。何よりズボンは動きやすい。



 特注のネクタイを締めて。みんなスカーフとかリボンタイとか、後は紐みたいなのに装飾品を施したり色々だがコレは緊急用の拘束具になったり、止血の為の………まぁ、細かく言うのは良そう。余り話すとキリが無いよね。


 カイルは首周りに何かあるのが嫌いで、すぐに解けるリボンタイを好んで使用してたな。

 昔、紐状のを使ってたら引っ掛けて危うく首を痛めるところだったと、皮膚を仕舞う作業の時に話していたな。


 だからゲームのカイルはボタンを2個も3個もはたまた全開?の時が多かったのかと。


 ゲームでも語られていたかも知れないけど、もう細かな事は覚えてないなぁ。



 擦り切れて、色褪せた紙の束。カイルと初めて遭遇した6歳のあの日。数日、数週間は何度も何度も些細な事まで覚えてる事を書き綴った攻略本。


 もう、コレは余り当てにならない。

 

 この先はゲームに無い展開だったから、どうなるか分からない。婚約式なんて無くて準備出来次第結婚式だったから。



「ふぅー……頑張ろう。あとひと息だぞ私。気を抜くな」




 鏡に映った25歳にもうそろそろなる私に言い気がせながら、自室を足早に後にした。



 今日も忙しくなるぞ。



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