ウェデングドレスをこの手で11
今すぐにでもベアトリーチェたんはお母様にお会いしたいだろうが、ベアトリーチェママンはとりあえず一旦保留で。
「無事に生きてる事が分かっただけでも良かった」と言ってくれたベアトリーチェたんに感謝。
ベアトリーチェたんにも説明したが、やはり宰相のやらかしは反省の意味を込めてベアトリーチェママン生存秘匿に必要な措置ではある。
幾ら暗部の庇護が緩んだとは言え、本人が先程暴露した様に国乗っ取りを計画していた家の娘を娶って、無理やり結婚を推し進めた行いは簡単に許されるコトでは無い。
例え本人が何も手を出していなくても、間接的には付け入る隙を与えてしまった事には代わりはない。
暗部と庇護者の行き違いによる宰相の暴挙は、今後の課題でもある。「先に見限られた」と思っていた宰相には難しかったかも知れなかったが…もっと暗部に働きかけて、寄り添って?事前に相談なりしてくれれば穏便に解決出来た事だったと私は思う。
それこそ、新興貴族の中級貴族ホヤホヤであるベアトリーチェママンを何処か上級貴族の養子に出して、実家の魔の手が伸びて来ない所に避難させてから結婚なり婚約なりする運びに持って行けたんじゃ無いかと。
カイルママンもカイルパパンを囲い込んでた経緯もあった訳だし、好きな相手を娶る手順と時間さえ惜しまなければ…可能性はゼロでは無かった。
今更何を言っても過ぎてしまった事はしょうがないけどね。私の考え方も暗部寄りでこちら側の事情込みだし。
そして、カイルは旅立った。
ちょっと待って?え、本当に旅立ったの???展開はやくないですか?????
私に何か確認なり何なり聞いて来ると予想していたが、マジでヘタレたなカイル。
同志の話しだと、カイルパパンに色々言われてベアトリーチェたんを嫁にするのは王侯貴族や暗部の総意だと分かって……速攻国を出たと。凄い行動力。
そっか、カイルパパンに確認しに行ったのか。ウチの家かあちらの家のどちらに先に行くか分からなかったので、両方に事情説明出来る様に整えておいて良かった。
まさかカイルの実家だけ行ってそのまま出て行っちゃうとは思わなかったけど。
そして不審な単語が出た。予想ではきな臭い隣国でちょっと手柄を取って来る為にお掃除の期間を当初3ヶ月〜半年の予定で組んでいたが、カイルは「2年行って来る」と宣言した。
ヤバい。世界統一なんて本当にされたら困るので…忙しくなり過ぎて推し活時間が減るのは耐えられない!
カイルパパンにカイルをいさめてもらう様にお願いしつつ、定時連絡には『やり過ぎ注意。人員確保も忘れずに』などの注意書きのメモを仕込んで貰う様にしてもらった。1国でいいんだぞ〜。
カイルがいないならいないでベアトリーチェたんの平和は保たれているんだけど、ベアトリーチェたんが寂しがっている。推しを悲しませるのは良くない。
「お嬢様様、寂しがる隙がはありません。カイルがいない今、結婚式、新居のご準備に加えてお勉強の追加に何より体力作りに取り組まねばなりません。それと、完璧な悪役令嬢の演技指導などなど。やる事はいっぱいございますます。しかし………少々やっていただきたい事が御座いますが宜しいですか?」
「やってもらいたい事って?」
「ちょっとしたお遊びでございます。それをやる事によって、暗部のモチベーションが今後かなり違います」
「わかった……具体的には?」
具体的と言われたので、中庭に出てベアトリーチェたんに人差し指と親指をたててもらって……ピストルみたいな形にして貰う。
そのまま腕を前に向けて。庭の茂みに標準を合わせる。
私が後ろから補助してるんで、かなりやらされてる感が否めないけど。
「お嬢様『バーン』と言ってみて下さい」
「ばーん?」
ガサガサ…バタリッ
「え?茂みが動いた???」
「お嬢様、人差し指は息で吹き消して下さい」
「?フー。あ、もしかして勇者ごっこ!?敵を倒す時に魔法でこんな動作あったわよね!!」
そう、私が創作したファンタジー小説の中で主人公が似たような事をして、モンスターなどを魔法で倒すモーションだけど………魔法の無いこの世界でベアトリーチェたんに私がやらせた事が、何をさせたいか分かる人は分かると思う。
ファンサービス略して『ファンサ』。
サインや手を振る、握手などが一般的なファンサービス。
ファンサうちわと呼ばれる自作のうちわを使って「〇〇大好き」とか、ひと目で貴方のファンです!いつも応援してます!!と推しに愛を伝える方々がいらっしゃる。
ファンだと伝えると同時にそうする事によって、存在をアピールし推しの目に止まればファンサを受けられる確率も上がる。
アイドルのコンサート会場などで、大きなうちわに書いた『バーンして!』のファンの要求にアイドルが応えて、ハートを撃ち抜いて貰うファンサもあるのだ。
死んだふりや胸を抑えて悶絶するなど撃ち抜かれた人はする、言わば推しとファンのコミニュケーション並びにお遊びである。
他には投げキッス要求に『チューして♡』とかあるが、後でカイルにバレたら惨たらしく殺されると予想されるので、同志達と相談した結果『バーンして!』に落ち着いた。
手を振るでも良かったんだけど、そういえばこんなのもあったな?と伝えたら是非『バーンして!』でとなった訳だ。
多分、茂みの中でハートを撃ち抜かれた同志の誰かは死んだフリをしている。コチラからは見えないけど。
ありがとうございますベアトリーチェたん。コレでカイルの所為で忙しくなりそうな暗部は頑張れます。もうね、自重と言う単語が魔王の辞書に載ってないんだと思う。それか履き違えてるな。後者か。
以前、宰相に隠れてる暗部が話しかけられて、ちょっとだけ存在を認識して貰えた事が嬉しかったと話されていたのでファンサを思いついた。その後の宰相のお言葉は辛辣だったが。
普段は宰相家の庭師C。休日中に推し活していてあの場に居合わせた。
暗部が庇護者と言葉を交わせる場は少ない。
特に暗部の者を暗部として認識して会話をするなど、教育係やそば付きと呼ばれるいわば暗部の中ではエリートでも僅かひと握りだけだ。
それでも、庭師Cはまだ恵まれてる方で家付きと呼ばれる、庇護者の生活を身近で支える役目を担えてる。
少しでも心穏やかにお過ごしいただける様に、庭を整え花々に癒されて欲しいと力を尽くす事を許されている。
コレが末端になって来ると、完全に裏方に回って間接的でしか推しに貢献出来ない。目に触れる事すら一生ない。
私は大切な仕事だと思っているんだけどね。縁の下の力持ち的ポジションだと思ってるけど、そう思えるのは私が恵まれた立ち位置にいるからだろう。
なので、ここに来てのファンサである。ベアトリーチェたんに指示を出しながら………もう少し右です。打ち合わせだと、そこはカイル妹が確か待機予定だった筈。気持ち腕を上げて…そこです!
「バーン!……フー。」
ガサガサガサガサ…バタッ
「次はどこにしよっかなぁ〜」
「その茂みはもう少しだけ…そうです、そこら辺です」
「……ここかな?バーン!あ、ちょっとズレちゃった。ごめんもう1回、バーン!!」
ガッサ…バタリ
「…フー。コレ面白いね!?」
「お気に召してもらえて良かったです。ご協力感謝しますお嬢様」
『バーン』からの人差し指を『フー』のドヤ顔がちょーラブリーな推しが今日も新たな魅力を醸し出している。尊いです。
10回暗部の心臓を撃ち抜いたところで「こんなに居るの?」って驚いていた。自分が思っていたよりも庇護者の扱いを受けてて驚いたらしい。精々2〜3人だと思ってたとか。
ベアトリーチェたんに2〜3人とか、無いよ。因みに何人いるかは秘密です。機密事項ですからね。
あぁ、コレでカイルが起こしそうな隣国同士の戦争で、テンション高めに仕事出来そうです。ご褒美ありがとうございます。頑張ります。
かなり先の後日、ベアトリーチェたんがカイルに『バーン』を教えたところ「じゃあ、今から俺に居場所特定された奴は1日覗くの禁止で」と言ってバンバン打った結果、その場に誰も居なくなった。
私も撃たれて退場しましたとも。
悔し過ぎて、その日のカイルのオヤツの量を減らしたのは内緒だ。
因みに好物のチョコレート生クリームケーキから、煎餅に差し替えたのは我ながら大人気なかったと反省し、夕飯のデザートにケーキを出してあげました。意地悪してごめんなさい。




