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ウェデングドレスをこの手で7



 私の両親はゴリゴリの王様推しだ。利害が一致して結婚したと言っても過言では無い。2人揃って物心ついた時から王様を『庇護者』と定めているので、推し歴の年季が違う。


 しかし、私は前世から推してるんで推し愛はもはや魂に刻まれている。推しを語らせたら負ける気はしない。



 娘の私がベアトリーチェたん推しだと気がついた時に「信じられない」と言われた。もはや王家の枠組みから外れているとも言っては過言では無い。


 両親にとってはそうだろうね。生まれた娘が、まさか推しの不一致を抱えていたなんて。


 私は一応王様を庇護対象者と想定されていたらしいが、任務は雑用が多かったので遠目でしか見た事ない。

 両親揃って王様の近辺警護と言う名の陰ながらの鑑賞会ならびにストーカー行為をしていたので、私の出る幕が無かったとも言える。


 そして、私には双子の兄がいるが王様推しからの王太子推しである。今はメイン王様でサブが王太子だ。王太子が生まれた時にビビっと来たらしい。王太子が最推しになるのも時間の問題かも知れない。

 しかし、王様の庇護者が多過ぎて、やはり私の出る幕どころか隙間がない。



 何故兄が跡取りでは無いのかと言うと、推し活に専念したいからだそうだ。気持ちは分かる。

 実は一族の当主はあまり人気がない。皆んな働く暇があるなら推しを眺めていたいそうだ。


 カイルママンが何故当主の座についたかと言うと、捕獲したカイルパパンを娶る代わりに仕事するから許して欲しいと先代に交渉したとか。


 反対したヤツは殺すと脅したとも言う。現在カイルが総合的に現役最強だが、その前はカイルママンだったらしいとカイル妹が言っていた。

 平和的解決で済んで良かったです。


 さて、何でこんな前振りをしたかと言うと…今、目の前に座ってる人のせいである。




「はじめまして。次代に会うのは始めてだったけど、まさか私の教育係の妹だったとは知らなかったよ」



「お初にお目にかかります。王太子殿下におかれましてはーーー」



「いいよ、そんなに畏まらないで。人払いもしてるし」



「ご配慮感謝致します」



「まだかたいね」



 人払いはしてると言うが、わんさか暗部が隠れてるから実際に不敬を働いたら何をされるか溜まったもんじゃない。校舎裏に呼び出しくらうくらいはされると思う。リンチは怖い。


 兄は王太子の背後に居るしね。本当は正面にいたいだろうに。しかし、後で聞いたら庇護者は頭の形も完璧だから問題ないとかのたまってた。


 確かに、この人なら後頭部だけでも近くで見る価値あるよな。


 室内だと言うのに、輝くばかりの金髪。キラキラと金糸が揺れている様な長い髪はポニーテールにして切り揃えられている。


 色白の肌に長い手足。身長は高いのに小顔。労働を知らない手は、まさに桜色に色付き手入れされた爪の先まで芸術品だ。


 高い鼻は勿論だが、左右対称の配置の顔に鎮座する二対の目が、王家を象徴するに相応しい色合いと輝きを放っている。



 『宝石眼』



 王家には色んな瞳の者がいるが王太子は虹色の宝石眼をお持ちだ。

 王太子殿下が動く度に色彩が揺れ動く様はまさに宝石を嵌め込んだかの様。


 誰が見ても美しいと思わずため息が出てしまう程に見事だ。私はため息は飲み込んだ。こんなところで気は抜けない。


 でも、確かにコレは玉座に据えて着飾らせたくなる気持ちも分かるな。並の宝石では、この美貌には似合わないだろう。


 暗部が汚れ仕事を請け負ってでも、推させていただきたいと許しを乞うビジョンしか見えない。カイルが魔王だとしたら、コレは神だ。全体的に明るくて眩しい御人である。




「君を今日呼んだのはお願いがあるんだ」



「はい」



「ベアトリーチェ嬢が何で王宮に来ないのか聞きたいんだけど、何処か具合でも悪いのかな?」



 私は兄を見た。鬼の形相で。シレッとした顔してるが、コイツ手綱を握れてないな。ベアトリーチェたんに手出しは無用だと徹底されて無いな。縫い付けても駄目だった。

 呼び出しの手紙は丁寧にご辞退と詫びの言葉を添えて返信したのに。

 


「兄から何か言われてると思われますが?」



「ひと目見てみたいだけだよ。一応婚約者候補だし。それも駄目なの?」



 自分から近づけないなら、ベアトリーチェたんを近くに持って来させる算段か。流石、カトラリーより重い物を持った事無いと言われている王族。見積もりが甘かった。くっ…不覚。



「ちなみにベアトリーチェ様の事はどちらでお知りになりましたか?」



「どちらにって、教育係にーーー」



「ゴホンッゴホンッ」



「そうですか。後ろの兄に聞いたんですね。分かりました。それでしたら『ひと目会うのもダメ』としか私からは申し上げる事は御座いません。少々兄をお借りしても良いでしょうか?」



「そうか。残念だけど、諦めるよ。教育係はそしたら今日はもうお休みをあげようかな。最近ずっと王宮に居るみたいだから、偶には家族とゆっくり過ごしたいだろうし」



 王太子の後ろにたたずむ兄は首を横に振っているが、私は退出のご挨拶を丁寧に述べてから兄を引きずって部屋を出た。




 そのまま隠し通路に連行して、奥へ奥へと進んで我が家に到着する。推し活しやすい様に王宮の隠し通路と住まいを繋げちゃうとかもはや天晴れだよね。何代も前の物らしいけど。



 実家の屋敷拷問部屋に兄を放り込んでから、私は兄とゆっくり過ごす事にする。



「話しが違く無い?欲を出したんでしょう。お嬢様と王太子が結婚して子ども生まれたら可愛いだろうなぁ〜って」



「流石俺の半身。よくわかって……うわぁっ!!危ない危ないからそれはやめて、普通のムチでも痛いのにそのトゲトゲ付いてるのはダメ絶対」



「ねぇ、すげ替えてもいいんだよ?王太子フィールドアウトしたらアンタのコト出禁にするよ?ずーーーーーーっと他国に仕事に行って2度と帰って来なくてもいいけど。東方の島国なんてどうかな?それか、そもそも見せしめに本当に王太子殺そうか。よし、そうしよう」



「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい俺が悪かったです。本当すいませんでした。だからどれもヤメテ下さいっっっ!!!?」(ガチ泣)



 推しに会えない、推しが死ぬなんてショックで苦痛で人生の楽しみを奪う所業である。しかし、ちゃんとしないと本当に他も巻き込む形になる。



「もう一回言うね。カイルさん敵に回して王族死に絶えさせるの嫌ならちゃんとして。頼むよ。コッチはカイルの実家が全面的に協力してくれてるから、もうウチと敵対したら双方無事じゃ済まないからね。ベアトリーチェ様の庇護者も増えてるし、カイルさんの庇護者希望者もかなりの数居るんだよ」



 そして、爆発的ヒットをして流行りまくってる悪役令嬢モノの書物。


 リアル悪役令嬢に仕上げるつもりのベアトリーチェたんをひと目見てみたいと同志達が楽しみにしてるのを止めないで欲しい。私も楽しみでなりません!




 orz ダァァァァンッ




「でも、悪役令嬢と王子様が幸せに暮らす未来があってもいいじゃないかーっっっ!?先生そんな作品を書いて下さいよ!!!」(血涙)



 床をダンッダンッと叩きながら本気で悔しがってる兄に私は目を点にした。何だって?



「まさか…兄…」



「そうだよ!お前が書いてる小説の愛読者だよ…数年前に書かれた冒険小説の初版本を手に入れた時から…いや、その前からずっとファンなんだよ!?」



「内緒にしてるのに何でわかったの???」



 規模が大きくなり過ぎてしまったから、持ち込みじゃなくて途中から印刷会社まで立ち上げる羽目になって、作者達の事は守秘義務徹底させてるのになーぜー?



「兄妹だぞ?お前の文章の書き方くらい分かるわ!しかも初版はお前の字だったからな。ひと目でわかるわ!?」



 この世界は現代日本よりかなり技術が遅れてる。本は普通は写本がメインで高価が当たり前だ。そう、初版は全て私の手書き達である。凄く大変だった。


 日本のゲームの話しだから、この国は日本語使ってるんだよね。歴史は古いから、世界の共通語もこの国のものだ。英語じゃないのが悔やまれるよ。ローマ字だったら楽チンだったのに。


 しかし、途中から本の売り上げで人を雇って、更に印刷会社を立ち上げたので…ガリ版印刷と言う物に手を出しました。価格が下がってますます本がばら撒かれた。


 ガリ切りの印刷方法に興味のある人はお調べ下さい。

 カイル妹がスペック高くて助かった。直ぐに他の同志と連携取って、私が簡単に説明しただけで道具があっという間に揃ってしまったよ。


 しかも、ライトノベル風と簡単な言い回しにしたので…と、言うか私に文章力が無くて文章が読みやすいと大変好評。王侯貴族に富豪層、文字が読める商家や平民まで手に取っていただいて大変ありがたい限りです。


 まさか、兄が初期の王道ファンタジーの初版本を手に入れてるとは思わなかった。アレ、今はプレミア価格でかなり高価なのに一体何処から入手したのやら。



「サイン下さい!!そして、是非悪役令嬢と王子様が結ばれる物語を書いて下さい先生!?」



 確かに、ヒロインと王子が結ばれる話は仕込みのために前振りで書いたけど、悪役令嬢と王子をくっつける話は書いて無い。意図的にね。



「だが、断る!私は同業者だから庇護者じゃないから、そう言うのはお断りだし……マジ泣きしないで兄よ。凄いブサイク」



「うぉおぉぉッ…ブサイクって同じ顔だろ…ぎゃあッ!!?」



「知ってた。」



 同じモブ顔だからね。ムチで威嚇したら飛び退いたけど。それにしても、そうか…兄は私が書いた本が好きなのか。コレは使える。



「今、新作の続きの文字修正係まだ決まってないんだよね…誰にしよっかなぁ〜。何処かに良い子で暇してる人いないかなぁ〜」



「はいはいはいはーい!!お願いです妹様!わたくしめに是非!?」



 悪魔の囁きに堕ちた兄は、発売前に作品が読めるとなって王太子の手綱をしっかり握ると約束してくれた。

 いや、そもそもお人形さんに入れ知恵したの兄だけどね。今度やったらもう一生執筆しないし、王太子の首を物理的に飛ばすと脅しておいた。


 本当に飛ばすつもりはないけど、出来なくはない。私の味方は今や王太子の推し達だけではどうこうする事は出来ないからね。敵地で無ければ何とかなる。


 兄は他の王族にも徹底させますと言いながら、原稿を両手で持って、グヘヘへとだらしない顔をしていた。ヤメテ同じ顔。

 私もベアトリーチェたんを陰ながら見守っている時にあんな顔してるんだろうな。少し気をつけよう。



 コレで1番問題だと思った王族関係は大丈夫そう。



 さて、それでは学園入学に向けて追い込みである。頑張るのよ私。



 カイルがベアトリーチェたんに自らあまり近寄れない接近禁止令が出てる今、ベアトリーチェたんには申し訳ないが…少し意識改革をして行きたいと思う。



 ベアトリーチェたんの溢れかえった恋愛小説に紛れ込ませた『イケてるオジ様の落とし方』。コレはカイル妹にすすめてもらった。私が書いたヤツだけどね。


 コレはカイルの取り扱い説明書みたいな物だ。と、言うか親密度調整の為にベアトリーチェたんに取ってもらいたい行動とかの事である。


 何も知らない無垢なベアトリーチェたんはその本を信じて『ソフトなボディタッチ』と書いてあるにも関わらず、疑いもせずにドーンと抱きつきに行ってる。子供っぽさを全面的に押し出した感じだ。

 コレでカイルに庇護者だと分からせたい。汚して良いモノではないと。


 後は簡単な閨の教育も組み込まれてる。1に体力2に体力。3、4が無くて5も体力!ちょっとギリギリ全年齢向けな内容だけど…詳細は伏せるね。何かに引っかかると怖いから。



 それから、たまには違うジャンルの本が読みたいとベアトリーチェたんにお願いされたので………何も説明せずに『暗部のススメ』を手渡した。



 何も知らないベアトリーチェたん。そのままカイルと結婚してもいいけど、未来の旦那様がどんな仕事をしているか少しは知った方が良いと思う。


 そして、覚悟を持って欲しい。カイルの嫁になると言う事は少なからずその国の裏側に、ベアトリーチェたんも足を踏み入れなければならないと言う事を。



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