ウェデングドレスをこの手で3
とりあえず、手始めにカイルパパンに手土産を持って会いに行った。これはカイルママンに合う為でもある。
カイルパパンは入り婿。東方の小さな島国で暗躍してた同業者らしいが、カイルママンに攫わ…見初められて今現在はこの国の裏側の暗部でひっそりと生活してる。多分、元ネタは日本の忍者的な何かかなと。
アレだ。オープンに言うとカイルママンに囲われて生きてると言ってもいい。
物理的な鎖は無いけど、逃げたら祖国滅ぼすぞ位は言われてると思う。
でも、この人を囲いたくなる気持ちも分かるな。だってカイルのパパンだよ。色気がヤバい。明るい陽の元を歩いてはいけない人だこの人は。
外見は中性的でカイル同様色気を醸し出してるが、切長の黒曜石を思わせる瞳で流し目食らっただけで骨抜きにされそうデス。
カイルはそれに野性味が加わってなお悪化したんだな。
カイルの年齢を考えると結構な年だと思うんだけど、年齢不詳?分かりやすく言うと『童顔』だね。カイルのお兄さんやお姉さんって言っても通ると思う。
手製のひと口羊羹をお土産に、最近の近況報告をカイルの代わりに行う。
定期報告をカイルに代わってもらったんだよね。日付をズラしてウチにはカイルが行って貰う事にした。たまには気分変えてみてもいいよねって。
カイルとは別視点からの受け答えも出来るから、稀になら有りだと思う。
現在こちらの家はカイルママンが実働部隊ならカイルパパンは内政特化だ。
いや、一応強けど、多分カイルママンが物理的に強すぎるのもあるから目立たないんだと思う。
さて、それでは試練のお時間。
これから報告がてら、カイルパパンと平常心を保ちながらお茶を一緒にしなければならないと言う高難易度のミッションクリアを目指さなければならない。
「お抹茶羊羹ですか。私の好みを良くご存じで」
「カイルさんに伺いました。小豆のも作りましたが、お口に合えばいいんですが…箸休めでお漬物にしば漬けを持って来たました。良ければご賞味下さい」
「それはそれはわざわざありがとうございます。お茶は緑茶にしましょうかね」
カイルパパン自ら淹れてくれたお茶を……危ない。飲めない。
「あ、すいません。ついうっかりして茶葉を間違えた様です。淹れなおしますね」
ついうっかりで飲み物に無味無臭の変なもの入れないで欲しいカイルパパン。油断も隙もない。
第1関門は突破したが、ちょいちょいカイルパパンが悪戯に仕掛けてくる罠を回避しながら報告と当たり障りのない話を交えながら羊羹を口にする。
甘い筈なのに緊張からか全く味がしないけど、味見した時は美味しかったから多分大丈夫。
カイルパパンも美味しそうに食べてくれてるし。製作陣が力を入れて作ったと言う指先の動きが凄い。胸がいっぱいでもう泣きそうだよ。試練が辛い。
本能的に目で追ってしまうカイルパパンの美しい指を眺めながら、私はその時を待った。
「そんなに見つめて、触ってみますか?」
「イエ、お構いナク。あの、カイルさんのお母さんはご在宅でしょうか?隣国関係で確認したい事がございまして」
「嫁に用事ですか?ちょっとお待ち下さい。呼んで来ます」
「お手数おかけします」
カイルパパンが席を外して部屋を出た瞬間、私は溜め込んでいた息を思いっきり吐いた。
「ふぁー………シンドイ…」
色気はカイルで慣れたと思ったけど、そんな事なかったな。滲み出てはいるが、直接食らった事無いし。
宰相家の使用人がカイルによって速やかに情報を引き出されて排除されてる理由が分かった。アレに抗うのは並大抵の人物では無理だね。普通の拷問も得意だし。
本家本元のカイルパパンがコチラを落としにかかって来る手腕がもう酷すぎる。私は今瀕死です。
画面越しではないリアルな感じが臨場感を醸し出してるよね。混乱し過ぎで良く分かんない事言った。
カイルパパン、実は外伝に出て来るんだ。東方の島国の大奥?後宮?みたいなところの話しなんだけど……アチラはギャルゲー仕様だね。主人公は皇帝。落とす相手は自分の嫁候補達。
カイルパパンは皇帝を籠絡して来るんだけど、娘のバック的な存在として。女装じゃ無い。素でだ。
そう、カイルパパンには娘がいる。カイルの妹だよ。女版カイルが存在すると考えただけで、皇帝は逃走した方がいいのでは無いかと思う。
それとも、義理父親予定に試される皇帝色々諦めてって言った方がいいかな。哀れみしかない。
予備知識無しだったら私は多分、最初のお茶飲んだ時点で詰んでた。
ポイントは指先の動き。こちらもイージーモードが解禁された時に心の声では無いが、キャラの仕草とか僅かなクセに注意を促すような事が追加されてた。良かった現実でも通用して。
「お待たせしたな」
「いえ、こちらこそ予定に無かったのにお時間取って頂いて申し訳ありません」
わぁー。うわぁー。うわぁぁあぁぁ。コレが生のカイルママンか。
手紙や書類のやり取りはした事ある。しかし、言葉を交わしたのは始めてだ。何せレアキャラだからね。
外伝でお助けキャラ的存在として登場するんだけど『俺馬鹿』のストーリーには匂わせ程度で全くと言っていい程出てこない。
見た目はズバリ『猛禽類』。鳶色の髪に金色の目が野生の猛獣を思わせるとても危険な人だ。迫力満点。
性格は男勝りだけど、かなり一途な…ソフトに言うのはやめよう。ヤンデレ属性だ。
椅子に腰掛けてカイルパパンが淹れ直してくれたお茶を……手で押し出してソッと避ける。
「ふっ…なるほど。確かに婿の言うように勘が鋭い」
カイルママンは何が混入されてるか良く分からない謎茶を一気に飲み干した。スゲェなオイ。惚れ惚れするわ。良い子はマネしないでね。
「大変言いにくいのですが、最初は2人っきりでお話ししても良いでしょうか?」
「ああ、構わんよ。下がって」
「はい。お茶だけ淹れて行きます」
カイルパパンが淹れてくれたお茶を…飲む前にまた机の端に置いた。油断も隙もない。怖いなー。
カイルパパンはそんな私を流し目で確認してから部屋を出て行った。やめて、座ってる筈なのに腰が砕けちゃうから。
「ははは。あちらの家の後継者がお嬢さんでこちらも安泰だな。婿に靡かない人など、久しぶりに目にした」
「お褒めに預かり光栄です。早速隣国の話からーーー」
「いや、待て。私から先に提案があるんだが、聞いてくれるかい?」
カイルママンから提案?私の話は長くなりそうなんで、先に聞くのはやぶさかではない。頷くと、かなり予想外の事を言われた。
「お嬢さん、うちの倅を婿に取らないか?」
「………はい???カイルさんですか?」
「そうだ。倅に聞いたら、お嬢さんはかなりズカズカとモノを言うらしいじゃ無いか」
「えっと…ごめんなさい?」
「責めたんじゃない、褒めたんだ。アレに何か言える子は早々いない。大体は言いなりになってしまうからな」
てますよねー。なんて親御さんを目の前にして失礼な軽口は言えないので、沈黙を持って肯定した。
「それに我が家の婿が少々問題児でなー。あの人の毒牙にかからない女がいないんで、カイルの嫁探しが難航してるんだ」
「ご愁傷様です」
思わず本音が出てしまった。すいません。
確かに義理父になる人物もそこに存在してるだけで色気を醸し出してるカイルパパンだからね。
裏設定では、後継者の筈のカイルがいい年して未婚のままだったのは嫁の貰い手が無かったからだと運営さんのインタビュー動画でチラッと聞いた気がする。
カイルを支えつつ、悪戯仕掛けて来るカイルパパンを回避しながら国の裏側で仕事するのはハードモードだよね。過労死案件だと思います。
「どうだろうか?コチラの後継者は娘を呼び戻すので、倅をお嬢さんの婿にするのを前向きに検討して貰いたいんだが」
あれ?何か雲行きが怪しくなって来たな。待てよ。外伝の進行具合ってこの国の時間軸と照らし合わせると……あぁぁあぁぁぁぁっっっ!!!!?
ここに来て、まさかの外伝シナリオの僅かな絡み具合に内心叫び声を上げながら、頭の中で高速で算段をたてる私であった。
話しが広がりすぎて頭パァンしそう。
そうか、東方の国も何とかしないとベアトリーチェたんにウェデングドレスが………国レベルにまで話しが発展してしまった。やはり『俺馬鹿』。そう簡単にはいかないか。
難易度が酷いけど、決して私は諦めない!推しの未来は私が切り開いてみせる。