サブタイトルなんて何でも良いでしょ
白亜の天井を眺めてティグ・マルは自分の将来について考えていた。
「俺はこのまましがない会社員のまま生涯を終えるのだろうか……。」
月給50メル、あまり贅沢な食事は好まず、これといった趣味もないので月の出費はせいぜい20メルちょっと。
病気もなく家具を買い換える予定もないので12ヶ月で360メル。
10年経って3600メルも溜まれば結婚したり、ともすれば子供を育てて家庭を支える男にもなれるだろう。同年代の中でも中々豊かな方だとは思う。
「…………。」
マル(ティグは自分の士族を指す名称だ。)は自分の手のひらを眺めてセンチメンタルな気分になった。
自分が恵まれているのは分かっているのに、心のどこかで満足できない。
かといって、新たな世界を求めて冒険したりするにも恐ろしさを感じて尻込みしてしまう。
「……はぁ。」
マルは自分の外見に似合わない内心にため息を漏らした。
突然、誰かがマルの家のドアをドンドンドン!、と叩いた。
「おーぅい!!マルゥ!!!わた、わたしだぞ!!!」
「はいはい。」
マルはそろそろ来る頃かな、と思った途端に玄関から響いてきた音と声に、思わず笑いながら出迎えに行った!!!
「マル!!酒だ!酒遊びをしよう!!お前が鬼だ!」
ドアを叩いていたのは、腰の辺りまで届く金色の髪に玉の露の様な艶やかな白い肌のエルフ族の女だった。名前はイヤ・リルムという。
「良いよ、酒遊びをしよう。でも酒鬼はしない。」
マルは仕事疲れをアピールした。リルムは既に酔っぱらっている。
酒遊びとはリルムが考えた遊びで、その内容は"互いに同じ量の酒を飲んで先に倒れた方が負け"という遊びで、酒鬼とは"酒を飲んで鬼ごっこをし、捕まったら酒を飲む"という遊びだ。
「いいぞ!!お前のやりたい事をやろう!」
リルムは半分断られたにも関わらず楽しそうに頷いた。
「リルムはさ……やりたい事とかないの……。」
既に酔っぱらっているマルがリルムに尋ねた。
「やりたい事なら今やっている。私は酒を飲みたい。」
これまた出来上がっているリルムが応えた。
マルは親友の変わらない姿に安心感と危機感とがない交ぜになった様な、困った様な気持ちになった。
「そっか。」
「お前はやりたい事をやってないのか?私と酒を飲んでもつまらない訳じゃないだろ、ん?」
「………。」
「おい。」
リルムは、親友のいつもとは違う姿には頓着せず、しかしマルの横腹を小突いた。
「あ、ごめん。」
「私は『お前のやりたい事をやろう』と言ったが、お前自身やりたい事が見つからないなら困ってしまうぞ。」
リルムは形の良い眉を潜めて言った。
「やりたい事かあ……、リルムと酒を飲むのは楽しい、けど………。」
「『けど』?」
「うーん……。」
リルムは話の続きを促したが、アルの反応は芳しくなかった。
今度はリルムから話を始める。
「これからやりたい事、と言われたら確かに困るか。なら趣味とか目標は無いのか?」
「趣味は無いよ。」
「けど」
「目標かあ………。」
リルムは酒を注ぎながら話の続きを待った。
最近は日が沈むのが早くなり、少しずつ寒さが増してきている。
それでもグラスの中の氷は既に解けてしまった頃に、
「あのね。」
「うん?」
アルはようやく出した話は、
「冒険がしたい。」
リルムの知っているアルらしくないものだった。
ちなみに1マル=1円、1メル=1万円。主人公は現代日本ではそこそこ稼いでいる方。