笑い袋の緒消失症候群
「今回の責任はどう取るおつもりですか!? 辞任すべきではないんですか!?」
「私としては事態を大変重く受け止めておりますので、誠心誠意、全力を尽くして国民の皆様の信頼を取り戻すべひっ……ふふっ……取り……戻うふはぁ……あはっ……あはははは!!」
国会の答弁の最中、突然お腹を抱え、涙を流して笑い転がり始めた首相に、騒然となる議事堂。失礼極まりない対応に怒りで顔を真っ赤に染めあげて追及を続けようとした野党党首でしたが……。
「あなたねえ……一体神聖な国会の場を何だと心得へっ……へへっ……ここ……ここひひっ……ふはははは!!」
ミイラ取りがミイラになるかのように、一緒になって肩を震わせる二人。最終的に国会議事堂が爆笑の渦に飲み込まれるまで、そう時間は掛かりませんでした。
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同様の怪事件は全国で発生していました。今もなお原因は解明されていませんが、ウイルス説や集団催眠説などの噂は飛び交っています。当事者達によると「無性に笑いたくなる」というよりも「こみ上げた笑いが堪えられなくなってしまう」とのことで、この症状は「笑い袋の緒消失症候群」と命名されました。
集団の中で誰か一人が笑うだけで、釣られ笑いを我慢できないものたちは次々に抱腹絶倒することになります。一旦落ち着いても油断はできず、思い出し笑いによる二次被害、三次被害は、ほぼ確実に発生しました。
特に笑いがタブーとされている現場への影響は絶大でした。葬儀・告別式については、できるだけ笑いの収束を早めるために近親者のみで行われることが増えましたが、それでも僧侶の読経中に平均3回は式が中断されてしまいます。
コンサートや演劇は、基本的に録画で楽しむものになりました。生で観ることにこだわる少数派もいましたが、必ずと言っていいほど厳かな雰囲気がぶち壊しになってしまうので、公演終了後には大抵考えを改めることになります。
しかし、これだけ日々に甚大な影響が及んだにもかかわらず、現状に不満を漏らすものや治療法を求めるものは殆どいませんでした。人々は、今までどれだけ自分達が笑いをこらえて生活してきたか実感し驚くとともに、誰にも遠慮せず好きな時に腹の底から呵呵大笑できることの爽快さに気付いたのです。
ひょっとすると一連の現象は、歯を食いしばってストレスに耐え、怒りや悲しみをひた隠しにするための能面顔が標準装備になりつつある人類に向けて、神から送られたプレゼントだったのかもひっ……ふへ……かもふひゃ……あはははははっ!!!




