2.変異
数秒の画像の乱れの後、人のような形が浮かびがってきた。
どうやら、その人物は演説をしているようだ。
声が聞こえる。英語で話しているようだ。
その上を日本語で訳す声が聞こえる。
自動翻訳だろうか?
聞き取りにくい声だが、何とか集中して聞いてみた。
「みなさん、落ち着いてください。これは緊急放送です。」
どうやら、話しているのはアメリカ合衆国の大統領のようだ。
「みなさんに、緊急にお伝えしなければならない事態が生じました。
これは世界に向けて発信しています」
「今、世界中を蔓延している新ウイルスですが、変異を開始したようです」
なんのことか事態が吞み込めない。
「その変異は、ウイルスが狂暴になったといえばいいのでしょうか・・・」
大統領は言いよどんでいる
「・・・・変異ウイルスに侵された患者は、思考力が停止し、見境がつかなくなり
狂暴化し、暴動が起こっています」
まったく理解できなかった。
まるで映画だ。ウイルスで狂暴化し、暴動が起こっている?
そんなことが本当に起こっているのか?
「ニューヨーク、ロスアンゼルスでは暴動が起こっており、軍を投入しています。
しかしながら、ウイルス患者の数が異常に多く、鎮圧できていません。」
「患者は時間とともに急速に増えています。今までの比ではないくらいのスピードです」
「感染力が大きく跳ね上がっています」
画像が切り替わった。
大きな道路いっぱいに広がった人の群れ。
何千、いや、何万もの人が集まってできた群れだ。
その正面には戦車、軍隊。こちらも相当な人数がいるが、群れには勝てない。
その人の群れはすべてウイルス患者のようだ。
何という数だ!!
その群れは、戦車と軍に向かい歩いている。
足を引きずるもの、目が血走っているもの、血を吐きながら歩くもの。
一目見て普通ではないとわかる状態だ。
その惨状を見ると、今までのウイルスの症状ではないのは一目瞭然だ。
一体どんな変異があったんだろうか?
呆然と画面を見守る人々。
その時・・・・
どこからともなく、恐ろしいうなり声が聞こえた。
「ウ・・・グ・・ル・・・ル・・・グ・・・」
声とも何とも言えない音だ。
声の出所を探す。あたりを見回す。
自分の立っているところから、真っすぐに5メートル程度だろうか。
奇妙にうずくまっている人が見えた。苦しいのか、体を九の字に折り曲げて横たわっている。
震えながら声を発しているようだ。
次の瞬間、その患者は驚くほどの速さで立ち上がった。
その横にいた男にとびかかったかと思うと、その患者は男の首筋に牙を向け突き刺した。
絶叫がこだまする。周りにいた人たちは一目散に逃げだす。しかし男の絶叫も長くは続かない。男はあっという間に絶命した。
患者はその男を捨てると、逃げ惑う人を襲い始める。血だらけになった服を振り乱しながら、目はらんらんと輝き、次から次に首筋に牙を立てる。
その時私は気づいた。
先ほど牙を突き立てられ、絶命した男。
その男が動いたように感じた。首から血が噴き出し絶命した男。
完全に死んでいる。死んでいないとおかしい状態だ。
その男が、突然、ガバッと上半身だけ起き上がった。目はらんらんと輝く。そして、上唇の歯ぐきから2本の牙が出てくるのが見える。
こいつらは、感染していくんだ。そう直感で感じた。