エリートをフッた幼馴染のその後……(志帆視点)
その後の話です。
「店員さん! もう一杯!」
「志帆、飲みすぎよ」
木下志帆、社会人四年目突入! 現在二十五歳、独身、彼氏なしである。
そんな私は今……美樹ちゃんと一緒に居酒屋でお酒を飲んでいた。
「飲んでなきゃ、やってられないよ」
「そんなに飲んだら、またこの前みたいに酔いつぶれるわよ」
「あーあ、誰かさんが秋人君を振れっていうからかなー」
「……っ!、そ、それはもう言わない約束じゃない!」
意外かもしれないが、私と美樹ちゃんはいまだにこうして交友関係が続いている。
最初は絶縁してやろうと思っていたが、美樹ちゃんはあんなでも責任感が強いらしく、あの後もあきらめずに私と交友関係を保とうとしてくれた。あと、当時の話をすれば、私の言うことを大体聞いてくれるのだ。ほんとにいい友人を持ったものだ。 あはは!
「私、未だに引きづってるんだけどなー、えーんえーん」 チラッ
「もう、ごめんって」
「じゃあ、ここは美樹ちゃんが奢るってことで」
「え、それは――」
「何、文句あるの?」
「うっ、あのおしとやかな志帆はどこへ行ってしまったの、今じゃこんなにやさぐれちゃって」
「誰のせいよ!」
まあ、正直、美樹ちゃんと一緒にいると楽しいっているのが理由なんだけど、癪だから言わないでおこう。
「店員さーん! もう一杯!」
「ああ、もうっ!」
私が失恋した後、秋人君は才神さんと結婚した。どうやら、身内だけの小規模な結婚式を行ったらしい。まあ、その方が私的にも楽だけど。
……ていうか、才神さん、いやもう財前さんか? まあ、遥ちゃんでいいや。
「遥ちゃんは本当にすごすぎるよ、まさか、高校の時はみんなから奇人扱いされていたのに、今では世界で活躍する画家さんになっちゃうなんて、ねえ、美樹ちゃん」
「まあ、私からしたら、志帆も大分、すごいと思うんだけど」
「美樹ちゃんは、ハイって答えるだけでいいの、わかった?」
「横暴過ぎるわよ! 私に発言権はないの!?」
そんな話をしていると……。
「はあ、またかよ志帆姉……」
「えっ、だれ?」
聞き覚えのある声が私を呼んだ。
「あれ、春来君?」
そこにいたのは秋人君の弟である財前春来君でした。
春来君は、私や秋人君よりも四つ下の大学四年生で、なんと春来君も現役東京A大学生なのです。
小さいころはあんなにかわいかったけど、今では秋人君に似て、結構なイケメンです。まあ、今でも全然かわいいと私は思うんだけど……。
社会人になってから久しぶりに会った時は、春来君が大学生デビューしててびっくりしたな……
『ひ、久しぶり、志帆姉」
『え、春来君!? か、髪が金色に変色してるよ!』
『ち、ちげえよ! 染めたんだよ!』
ふふ、こんなことがあったなー。あっ、そういえば、なんで春来君がここに?
「私が呼んだのよ、前回は助けてもらったからね」
どうやら、春来君は美樹ちゃんに呼ばれたらしい、この前私が酔いつぶれたときに、連絡先を交換してようだ。
「なに? 春来君も一緒に飲むの?」
「ちげえよ、俺一応車だし、まあ、この前みたいに志帆姉が暴れないようにするためだよ」
「えー、そんなことするわけないじゃーん」
私がそんなことするわけがないよ、一応これでも乙女なんだよ、失礼しちゃう。
「………………あっ!、志帆、知ってた? 今日秋人君がテレビに出るらしいよ」
「おい、馬鹿!」
「えっ、なにそれ?」
えっ、知らない。なんで誰も教えてくれなかったんだろう?
「何のために隠してきたと思ってるんだよ美樹さん」
「ごめんごめん、どういう反応するかなって思って」
なんかごちゃごちゃ言ってるけど……絶対に見る!
「あっ、始まったよ」
「えっとなになに 『おしどり夫婦の生活に大密着! 夫婦観察TV!』……ほぇ?」
な、に、これ……。
「現在、女性画家として世界的に活躍している遥さんと旦那様の秋人さん夫婦に密着してみましたー」
「なに、これ、美樹ちゃん」
「え、えっと、あいつと遥ちゃんの夫婦生活に密着するって宣伝でやってたの知らない?」
えっ、そうなの、最近仕事ばっか頑張ってたから、テレビなんて見てなかった。というか、最近仕事量がすごい多かったような気がする。なんか同僚やら後輩とか上司からも、なんならみんなの仕事を全部やってた気がする。
というか、これから秋人君と遥ちゃんのラブラブ夫婦生活を見せられるの!? 私、考えるだけでもう……無理。
「あれ、志帆? ……や、やばいよ、春来君! 志帆が壊れかけてるよ」
「だから言わんこっちゃないんですよ! ……店員さーん! 今すぐテレビを消してくださーい!!」
「いやっ、困りますよお客さん、他のお客さんも見てるんですよ」
「これを見て、まだそんなことが言えるんですか!!」
店員さんが見たものは……。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」
「な、なんだこれは!!」
発狂した志帆だった。
店員さんは思わず、大事なお客さんの一人である志帆をこれ呼ばわりするほどに、恐怖を感じ取っていた。
「今すぐテレビを消してください!!」
春来がもう一度店員さんに頼み込むと、店員さんは大きくうなずき、テレビを消した。
「私は……一体?」 バタンッ
「ああ! 志帆が気絶した!」
「はあ、だから俺が来たんだよ」
☆☆☆
鳥のさえずりが聞こえる……。
あれ、朝? 昨日は美樹ちゃんとお酒を飲んで、春来君が来て……それからあんまりおぼえてないや。
私は気が付くと、自宅のベッドの上にいた。時計を確認すると、針は十時を指していた。
「……私、いつ帰ってきたのかな」
その疑問はリビングにあるテーブルの上の置き手紙を見ることですぐに解決した……。
『志帆姉が気絶したので家まで送っておきました。手は出してないので安心してください。居酒屋のお会計は美樹さんが払ってくれました。 PS.おかゆを作っておいたので、温めて食べてください。 春来より』
ああ、私、またお酒を飲みすぎちゃったんだ、今度からは気を付けないと。
と、志帆はなんとも的外れな考察をした。
そして、テーブルの上にある置手紙を手に取りながら……。
「ふふ、やっぱりところどころに優しさが垣間見えるところは春来君らしいや、おかゆは後でいただくよ。美樹ちゃんもお金払ってくれたんだ、やっぱりいい金づる……じゃなかった。友達だな……、
って、そういえば今日は休日だったんだ。どうしようかな……まあ、ゆっくり考えるか」
志帆は今日が休日だったことを思い出していた。
そして、志帆は、春来が作ったおかゆを食べながら、のんびりと今日やることについて考え始めるのであった。
こうして、志帆は失恋の痛みが心に残ったままだが、何気ない幸せを噛みしめて、平凡な生活を手に入れたのであった。
「あれ、春来君から電話だ、なんだろう?」
これから始まる、新たな物語の予感を添えて……。
これで完結とします。応援ありがとうございました!