エリートをフッた幼馴染は結構頑張る(志帆視点)
再投稿しました。
また、この作品は『【短編】フラれたエリートは人をいたわる』を読んでから見ることをお勧めします。
「秋人君はもっと人をいたわるような人になったほうが良いと思うの、じゃあ」
「ちょ、ちょっと待て!」
『ごめん、秋人君』
私はあまりの罪悪感でその場から走り去ってしまった。
高校二年目の春、この私、木下志帆は大好きな幼馴染の財前秋人君に告白されて、フッていた。
☆☆☆
すべての発端は、同じクラス女友達、山手美樹の言葉だった。
「一回財前のこと振ってみれば、あいつの、人を見下す性格も直るんじゃない?」
「えっ……」
私は、秋人君に告白されるかもしれないということで、友達の美樹ちゃんに相談をしていた。そしたら、美樹ちゃんは私にとんでもないことを言ってきた。私は当然、そんなことをする気はなかった。
私は保育園の時から、秋人君のことが好きだった。保育園で馴染めなかった私を助けてくれたのは、意外かもしれないけれど秋人君なのだ。
秋人君は覚えてないかもしれないけれど、私は秋人君と結婚の約束をしたことも覚えている。そのくらい秋人君のことが好きなのだ。
「でも、志帆ならあいつのことを変えられると思うのよ」
えっ……それ、どういうこと?
「多分、志帆が財前のことを振ったら、あいつのことだから 『なんでもするから、付き合ってくれー』的なことになると思うのよ」
「そ、そそ、そんなことにはならないと思うけど」
私は、美樹ちゃんの言っていることにちょっとだけ嬉しさを感じ取ったが、やっぱり信じられなかった。でも……。
「だって、財前が下の名前で言う女子って志帆だけだし、しかもあいつ、志帆に毎日話しかけてるじゃない、だから、一回くらい振って『人をいたわれ』みたいなこと言っといたら、あいつの性格も直ると思うのよ」
えっ、なにそれ、美樹ちゃん、もっと詳しく聞かせて――
私は美樹ちゃんにおだてたれ、最終的にうまいこと乗せられてしまった。
いや、最初はまだやる気はなかったのだけれど……。
「でも考えてみなさいよ、財前のやつが社会に出たとき、あいつの性格がばれたらどうするのよ」
「あ、秋人君の性格が社会に……」
『財前秋人! お前はなんて口の悪い奴なんだ、お前に南極支部への転勤を命ずる!』
『ちくしょーーー!』
ということになりかねない! ……いや、ちょっと過剰な気もするけど。
とにかく、私は心配のあまり顔を青ざめた。
「だから、今のうちに矯正しとけばいいってわけよ!」
「わかったよ美樹ちゃん、私やるよ」
とあれよあれよとああなってしまった。
はぁ~、どうしてこうなったのかな。でも、全部、秋人君のためなの、私は間違ったことなんかしてない……はず。
☆☆☆
すると、次の日から、秋人君に変化が訪れた……。
「ねえ、美樹ちゃん、なんで秋人君が女の子と一緒にいるの?」
「志帆、落ち着いて」
ああ、秋人君が他の女の子とあんなに話をしている、いつもなら一言で切り上げるのに……。
「いや、もしかして、これはあいつなりに『人をいたわって』いるんじゃないの?」
「えっ、美樹ちゃん、ほんと?」
「ええ、あいつはできるだけ相手の話を聞こうとしているのよ、だから志帆、安心して、あいつはあいつなりにがんばってるのよ」
私はその話を聞いて安心した。
「そうだよね、秋人君が頑張ってるんだから、私も我慢しないと……」
こうして、秋人君とその女の子がいくら近くで話していようとも気にならなくなった……うう、やっぱりちょっと気になる。
☆☆☆
美樹ちゃんに聞いてわかったことがある、いつも秋人君と一緒にいる女の子の名前は才神遥さんという子らしい、でも、全校生徒からは奇人と呼ばれている変わった子らしいのです。
それを聞いて、秋人君がその子のことを好きになるはずがないと思い、一安心しました。
しかし……。
今、その安心が崩れ去ろうとしていた……。
「は、はる、遥! これでいいだろう」
「わーい、ありがとー財前君」
「ねえねえ、美樹ちゃん、秋人君が才神さんを下の名前で呼んでるんだけど……。
あれは何?」
「お、落ち着いて、志帆」
「いやでも、秋人君が下の名前で呼ぶ女子って、私だけじゃなかったっけ」
「あれは、多分………………、あいつなりに『人をいたわって』い――」
「美樹ちゃん! それほんと!? 今、すごい間があったけど!!」
私はかなり動揺していたと思う。だって、秋人君が、才神さんを、遥って!
「志帆! 今は我慢の時なのよ! あなたが我慢できなかったら、それは同時に、財前を裏切るということなのよ!」
「はっ! そうだよね、美樹ちゃん、目が覚めたよ」
そうだった、これは全部、『人をいたわって』いるからやってるんだよね、そうなんだよね秋人君!
☆☆☆
そして、数か月が経った……。
私と美樹ちゃんは、ここ数週間秋人君と才神さんが中庭で一緒に昼食をとっているということを知り、偵察をしにきていたのですが……。
「ならば、この僕が直々にお前の家まで飯をつくりに行ってやるよ、それならばいいだろう?」
「えっ、秋人君って、料理とか大丈夫なの?」
「何を言っているんだ、このスーパーエリートの僕にできないことはない!」
「やったー、秋人君がそう言うなら間違いなしだね」
「ねえねえ、美樹ちゃん、秋人君が才神さんの家で手料理をつくるんだってー……
何これ」
「し、志帆、お、落ち着いて!」
「落ち着けるわけないよ! 私でも秋人君の手料理なんて食べたことないのに……」
「私もここまでとは、まさか! あいつ、才神さんのことを……
ん? 志帆? ……
……し、志帆が白目をむいて気絶してる!!」
私は、気がついたら保健室のベッドの上にいました……。
この時にはもう、私はあきらめムードに入っていました。
☆☆☆
「美樹ちゃん、もう私、ダメなのかな」
「なにクヨクヨしてるのよ、しゃんとしなさい!」
いや、八割方こうなったの美樹ちゃんのせいだよね、確かに私が流されちゃったところもあるけど、それを加味しても美樹ちゃんは有罪だよね。
でも、もう頼れる人は美樹ちゃんしかいない。
「ねえ志帆、あなた最近、自分から財前に話しかけに行ったりとかした?」
「ううん、秋人君がいつも才神さんと一緒にいるから、声をかけにくくて」
「じゃあ逆に才神さんがあいつから離れる瞬間っていつだと思う?」
「えっと、トイレとか」
「違うわよ、進路よ!」
ま、まさか美樹ちゃん!
「そうよ、志帆、あんたがあいつと同じ大学に行けばいいのよ」
「で、でも、才神さんが一緒についてくるとか……」
「そこらへんは大丈夫よ、才神さんの進路調査票を見せてもらったら、画家って書いてあったわ、財前が画家になるなんてありえないでしょ」
「そうなんだ! わかったよ美樹ちゃん! 私、秋人君と同じ大学に行くよ!」
「その意気よ!」
私はすぐに秋人君のもとへと向かった……。
「でも、あいつの進路って、多分、東京A大学よね、まあ、いいか」
☆☆☆
私は秋人君に進路のことを聞いていた……。
だけど、その前に……。
「あのね、秋人君って、才神さんと仲がいいけど、……どういう関係なの」
やっぱり、これを聞いておかなくちゃだめだよね……。
私は今世紀一番ドキドキしていたと思う。そして、秋人君の答えは……。
「別に、ただの利害関係みたいなものだが」
「そうなんだ!……よかった」
よかった、これで秋人君との大学ライフを楽しめそうです。あっ、忘れるところだった、秋人君の進路を聞き忘れるところだったよ。
とりあえず聞いてみよっと……。
「僕は、東京A大学に行こうと思っているんだが」
はぁえ? あの東京A大学?
「ええー! やっぱりあの最難関大学に行くんだー、そうだよね」
私はなんとか秋人君に動揺がばれないように取り繕うことができた。でも……。
ど、どうしよう、東京A大学なんて無理だよぉ~、もう半年しかないよ。
でも、ここでもし諦めて、秋人君を才神さんに盗られるなんて絶対ヤダ!!
もうやるしかないんだ!
「……そうなんだ、がんばらないと」
私は決意した……。
☆☆☆
私は猛勉強をしていた……。
「ねえ志帆、あんた、大丈夫?」
「あはっ、美樹ちゃん知ってた? 人間って頑張れば、寝ないで四十八時間以上勉強できるんだよー」
「うう、志帆、どうしてこんなことに……。
あっ、原因私だった」
まあそんなこんなで、東京A大学の受験に向けて、猛勉強をした……。
その間、ママにすごく心配されて病院に連れて行かれそうになったけれど、その時間がもったいないので断っておいた。ママはすごい泣いていた……。
☆☆☆
大学受験を終えて……。
私はママに心配をかけさせないために、合格発表までゆっくりと休むことにした。その時、ママはひどく嬉しそうにしていた。
その後、私は見事に東京A大学を合格することができた。
すると秋人君からすぐに連絡がきた。
「志帆、合格おめでとう」
ああ、久しぶりの秋人君の声だー、最近は勉強とか、ママを安心させるためにしっかりと睡眠をとったりしてたから、全然会えてなかったもんなー。
「うん! ありがとう、秋人君! これで今年も一緒だね」
「あー、実は…「秋人君! はやく、美術館に行こうよ! ほら、急いで!」…うるさいぞ、今電話してるんだからおとなしくしとけ!」
えっ! ちょっと待って、今の声は!?
「今の声、才神さん!? ちょっと、秋人君、今どこにいるの!」
「えっと、志帆には言ってなかったんだが、遥と一緒にフランスに行くことにしたんだ、だから大学試験は受けてないんだ、遥がどうしてもというからな」
……もしかして、今までの努力、全部……無駄?
「……そんな、せっかく勉強、いっぱい頑張ったのに、うわーーん!」
☆☆☆
「どうしよう美樹ちゃん、もうどうしようもないよ」
「なるほど、そんなことがあったのね」
私は美樹ちゃんにあのときのことについて相談していた。
美樹ちゃんも東京の大学に進学していたので、すぐに相談に乗ってもらうことができた。もうあまり期待してないけど……。
というか、私はもうあきらめていた。秋人君が才神さんとフランスに行くなんて、もう恋人のようなものだし……。
「もう手はないのかな」
「ふふふ、志帆、忘れちゃったの?」
あれ、いつになく美樹ちゃんが自信ありげだ。
「財前秋人は財前コーポレーションの跡継ぎよ、そのことを見落とすなんて、らしくないわね」
ま、まさか美樹ちゃん!
「あんたが財前コーポレーションに就職して活躍すればいいのよ、そうすれば、あいつも関わらずにはいられないってわけよ」
「その手があった! で、でも、そんなにうまくいくかな」
「うまくいくに決まってるわ! た、多分ね……そして、そのまま結婚なんてこともありえるわよ」
け、結婚!? なんて甘美な響き……。
「もうこれしかチャンスはないのよ、ラストチャンスよ!」
「わかったよ美樹ちゃん! 今度こそやるよ!」
それから私の勉強漬けの日々が始まった……。
つらいと思う時もあった、でも秋人君に近づいていると考えると不思議と力が沸いた。
寂しいと思う時もあった、でも秋人君のためだと思うと勇気が出た。
様々な分野の勉強に手を出した。外国語も九ヶ国語しゃべられるようになった。それからも色々がんばった。
そしたら、いつも間にか、東京A大学内で最も優れた学生として私は表彰されていた。
☆☆☆
私は大学を卒業して、なんとか財前コーポレーションに就職することができた。
「あ、志帆、就職おめでとー」
「美樹ちゃん、ありがとう。でもこれからだよ、頑張って秋人君に近づくの」
「そうなんだ……、あっ、そういえば、財前に就職したこと言ったの?」
「いや、言わないでおく。秋人君をびっくりさせようと思うから」
「そうかー、私、応援してるよ」
よし、これからが勝負だ、絶対に秋人君と結婚するんだ!
私はどんな仕事でも受けた。とりあえず活躍して、秋人君に近づくために。
同僚の失敗を起点を利かしてカバーすることもあった。上司のとんでもない不正を暴いて、会社の危機を救ったこともあった。これも全部、秋人君に近づくため。
☆☆☆
この日もいつも通り、私は一生懸命仕事をしていた。すると、上司から呼び出しがあった。
「この会社のお偉いさんが、お前に話があるんだとさ、まあ、当たり前か、会社を救ったんだからな……とりあえずそういうことだからな」
「えっ……」
私はとうとう来たと思った。
とうとう、秋人君と会えると……、というか、お偉いさんって秋人君のことだったりして……
そして、秋人君と再会したら……。
『志帆! 本当にありがとう、やっぱり僕が好きなのはお前だけだ、結婚しよう』
『よ、よろしくお願いします、これからよろしくね、秋人君』
絶対これだよ、これしかないよ、私、こんなに頑張ったんだもん、そろそろ報われてもいいよね。
そんなことを考えていると、いつの間にか私の目の前に、黒いスーツを身にまとい、サングラスをかけたガタイの良い男性が立っていた。
「木下様ですか、今からある人があなたに会いたいとおっしゃっているので、最上階のゲストルームに来ていただきます、よろしいですね」
「はい、喜んで!」
ようやく、報われる……。
☆☆☆
私は今、最上階にあるゲストルームの前まで来ていた。
ふぅー、この先に、秋人君が……よし、開けるか!
私はその扉を開けた、そして、そこにいたのは……
「あらー、久しぶりねー、志帆ちゃん」
「えっ」
そこにいたのは、財前コーポレーション社長の妻であり、秋人君のお母さんである、財前冬美さんだった。子供のころに、冬美さんにはよくお世話になったものだ。だけど……。
えっ、秋人君じゃないの? 部屋の中に入って一番最初に思ったのがそれだった。
「い、いつもお世話になっております。財前夫人!」
「あらー、そう堅くならなくてもいいのよ、昔みたいにおばさんでいいわよ」
「でも、流石に……」
「じゃあ、夫人命令よ、従わなかったら、南極支部に転勤だからね」
なに、その夫人命令って!? というか南極支部って本当にあるの!? こわい!
「では、おばさん、今回はどのような用で」
「まだまだ堅苦しいけど、まあいいわ、そんなことより、最近の志帆ちゃん、大活躍らしいじゃない! それで、ご褒美をあげようと思って」
ご褒美? ま、まさか、ご褒美は秋人君との結婚とか!
「今度、お父さんに志帆ちゃんの昇進のこと、推薦しとくわね、今後も財前コーポレーションの社員として頑張って頂戴、うふふ」
え、昇進? 秋人君じゃないの?
私は反射的に秋人君のことについてを聞いてしまった。
「あの、おばさん、秋人君は?」
「確か、秋人は遥ちゃんっていう子とフランスにいるわよ」
え、まだフランスに才神さんと? でも、秋人君は御曹司で。
「まさかあの子、志帆ちゃんに言ってなかったの? 呆れるわ」
「ど、どういうことですか?」
い、嫌な予感がする……。
「秋人はもう財前コーポレーションの跡継ぎじゃないのよ」
「……へぇ?」
えっ……そうなの……。
で、でも、まだ手が……。
「ここだけの話なんだけどね、最近、秋人と遥ちゃんの結婚が決まったのよ!」
「えっ…………………」
私は目の前が真っ白になった……。
☆☆☆
私は、満開に咲き乱れた桜並木を歩いていた。あの後、はっきり言って、何をしていたか覚えてないけれど、何とか持ち前のスペックで仕事は終えられたらしい。
多分、今の私はとてつもなく哀愁を漂わせて、桜並木を歩いていることだろう。……ははっ
すると、電話がかかってきた……。
「やっほー、志帆元気ー? 聞いたわよー、期待のエースって言われてるんでしょう? これであいつの心もゲットできるんじゃない?」
電話の相手は美樹ちゃんだった。どこかから私のうわさを聞きつけたらしい。
「美樹ちゃん、……ダメだったよ」
「えっ、それどういうこと?」
「実は、秋人君、もう、財前コーポレーションの跡継ぎじゃないんだって」
「え、何それ――」
「でね、秋人君、才神さんとフランスに行ったときにはもう、跡継ぎじゃなくなってたんだって……
あと、秋人君と遥ちゃんの結婚も決まったらしいよ」
「……あれ? ……もしかして私、やらかした?」
「……うん、やらかしてる」
「…………ごめん」 ブチッ
「あれ、美樹ちゃん? ねえ美樹ちゃん!? 美樹ちゃーーん!!!」
こうして、社会人二年目の春、私、木下志帆は失恋を経験したのだった。
後半に続く……。




