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第49話/茶々

「ばんざああああああああああああああああああああああいいいいいっっっ!!」

 突如響き渡る絶叫に、二人を取り巻いていた甘い雰囲気は大破した。

「さあご一緒に万歳三唱をっっ」

 斎の白い手を取っていたはずの魔王の手は横から掠め取られ、深紅の瞳をきらきらと輝かせた男がその手を真上に三回放り投げる。

 唐突すぎるちん入。あまりの出来事に切り替えができない魔王は相手にされるがまま、今度はくるくるとその場で喜びの舞を強要されることとなった。高速で回り続ける男二人。それだけでも異様な光景であるのにもかかわらず彼ら二人の表情は全く正反対のものであるからさらに気味が悪い。振り回される男は必死に歯を食いしばり、振り回す側の男はしきりに己の胸の内を垂れ流すのだった。

「やっと、やっとこの日がやって参りました! 長かったです。長すぎでもうだめかと諦めかけました。しかし、これで我が国に明るい未来が約束されました。ああ、我らが魔王様。苦節七十五年、魔王様を信じてお仕えしてきたかいがありました。辛抱強く魔王様に小言をこぼした自分を猛烈に褒めてあげたい気分です。さぁさ、いつまでもこんなところでぼうっとしていないで国に帰りますよ。どうせですからどどーんと派手な婚礼の儀にいたしましょう! あ、やはり大安吉日は気になりますか? そうですか、そうですよねぇ、何事も最初が肝心ですからね。わかりました、ゲンは大いに担ぎましょう。あとですね、ひとつお願いがあるのですが、お子様は最低でも三人。観賞用・保存用・布教用でよろしくお願いいたしま……ぐふっ」

「黙れ」

 話の途中で回ることを止め、魔王の手をきつく手を握りしめて熱っぽく語るその男は、主を称賛しているようで実は自分の都合を押し付け、自分を棚に上げまくっているだけだということにようやく気付いて、主たる魔王はあいさつ代わりの制裁を加えた。

「お前、一体ここで何をしている? レジィの側に居るように言いつけてあったはずだがな」

 滲み出る殺意すら隠さずに魔王は緩みきった顔のルゴを締め上げる。

「何を仰っているんですか魔王様。魔王様の未来が、いいえ、国の未来がかかっているこの一大事に有能なる僕の私が駆けつけぬはずはございません。レジィ様にもちゃんと御赦しを頂き、皆で楽しく拝見させていただきました。まったくこちらははらはらし通しでございましたよ。しかしながら、最後のきめの台詞はなかな……」

 めきょり。

 慈悲も手加減も容赦もない力でルゴの首の骨が簡単に悲鳴を上げる。

「ま、魔王様。少しは手加減していただきませんと死にますが……」

「九割方本気で殺してやろうと思ってるんだがな」

「まぁまぁそんな物騒なこと仰らず、ゆっくりと落ち着いて引き出物の打ち合わせでも致しましょう。最近では財政のほうも潤っておりますので、魔王様の百分の一全身人形とか、魔王様がご幼少のころからおちょくられ続けている様をつづった回顧録など、私の宰相としての権限をいかんなく発揮いたしまして大至急作らせていただきますともっ」

「そんなくだらないことを許可すると本気で思うのか? この頭の中はどうなってるんだか一度でいいから覗いてみたいもんだなぁ。おい。お前のその脳味噌には色とりどりのカビが生えているのは想定内だが、まさか蝶まで群れで飼ってるんじゃあるまい?」

「いやですねぇ魔王様。私の頭の中は色とりどりの花々と蝶と清らかな小川で構成されているのですよ」

 真顔できっぱりと切り返されて魔王はいよいよ頭を抱えた。

 ぐらぐらと視界が揺れているのは気のせいではない。毎度毎度のこととはいえ、こんな一生を左右される場面でさえ茶々を入れられるとは思ってもみなかったのだ。斎の手を取ってにこやかにほほ笑むルゴに殺意を覚えるどころではなく、魔王は額に手を当ててぐったりと項垂れた。

 しかし、そうして力なくうずくまっている場合でないことも彼には分っている。あの邪魔者を速やかに排除し、一刻も早く斎の返事を聞かなければならないのだ。せめて彼女の返事を聞いてから飛び出してくればいいものをと、満面の笑みの部下を忌々しく思わないでもないが、自分の期待する返答がなされなかった場合を想像して魔王は空気をぶち壊したルゴにどこか有難いと思う節もあったことは確かであった。

「ルゴ、とりあえず帰れ」

「なぜです?」

 小首をかしげる仕草は斎がすれば愛らしい姿に映るところだが、生憎と女顔の野郎にされても魔王の胸はまったくときめかない。それどころかこめかみあたりの青筋が主張するのを制して魔王は諭すように、なぜこんな常識的なことを改めて説かなければならないのかと内心では毒づきながら言った。

「個人的なことにこれ以上首を突っ込まれたくないんだ」

 わかるだろう? 普通わかるよな? もういいかげん分かれ。涼しい顔で分からないような素振りをするな気持ち悪い。日ごろの恨みつらみも込めて魔王がギロリと凄めば、ルゴは即座に斎の手を離すと神妙な顔つきで魔王と向き合った。

「魔王様、魔王様の結婚は個人的な問題ではありません。我々の国を左右する公的な問題です。あなた様はその辺に居るいじられ役のおちょくりがいのある成人男性ではないのです。魔国の王なのです。王の結婚は国の一大事。一国民である私たちが心配するのは当然というものです。ですからこうして応援に駆け付けたのではありませんか。それを帰れだなんてあまりにひどすぎます! そうですよね!」

「……おい」

 何が「そうですよね」なのか、魔王にはわからない。いや正確にはわかりたくなかった。ルゴの言葉の端々からだけでなく、その気配さえも先ほどから気付いていたが、できることなら顔を合わせることなくそっと帰って欲しいという願望から魔王は知らぬふりをした。察してくれと、必死に叫びながら。けれど、思いもむなしくルゴの背後からふっと現れた二つの影はルゴが求められた同意に対して微笑むことで肯定の返答をした。

 一つは魔王と同じ真っ黒な髪を束ねた男の姿。もう一つは男の腕にゆったりともたれる女性の姿。彼らは驚愕して固まった弟に申し訳なさそうに、しかし楽しそうに笑いかける。

「ルゴに誘われてな。本当は我慢しようと思ってたんだがつい。なぁ?」

「ごめんなさいね」

「兄貴、……義姉上まで」

 この世に味方はいないのか。魔王を心配し、基本的にはいつでも魔王の味方であるはずの面々をぐるりと見渡し、魔王はゆっくりと長い長いため息をつく。この分で行けばきっとレジィ達もすべてを見ているに違いないことは容易に想像ができ、もっと言えばルシカに居るフロウも何かしらの力を介して見ているかもしれない。魔王がちらりとミンに視線を送ると、彼女はにっこりと笑った。それは間違いなく【魔眼】を使っているという肯定に魔王は目まいを感じた。

「絶賛生中継中ですわ。魔王様」

 義姉ミンがころころと笑い、その語尾にはどこに向けられたものなのか可愛らしい小花が飛んだように魔王の目には映った。

「……結局のところ、心配うんぬんよりただ面白がっているだけにしか見えないんだが気のせいだろうか?」

「気のせいではないぞ、愚息よ。お前をおちょくって遊ぶのは大変に楽しい」

 不意にまた別の人間の声がした。その言いように魔王はそれが誰であるか瞬時に確信する。

「まだ居やがったのか、クソオヤジ」

 えへらと笑い斎を後ろから抱き締める格好で登場したのは元魔王。つまり、魔王の父親であった。

「いるさ。かわいい息子が花嫁を貰うんだ。一緒に喜びを分かち合いたいじゃない?」

「生憎と俺はまだ返事をもらってない。勝手に決めるな。それに彼女には断るという選択だってあるんだ」

 自棄になって魔王が吐き捨てた言葉に反応したのは元魔王ばかりでなない。

「なんですって!?」

 飛びかかる勢いで魔王を睨むルゴの赤い目が据わっている。

「返事が聞けないのはお前たちが乱入してきたせいだというのをこの俺が説明しなければならんのか?」

「いいえ、そういうことではありません! 断られるという場合など想定してはいけません! 魔王様は絶対に斎様と一緒になるのです。万が一断られた時には掻っ攫うくらいの心意気があって当然です!」と、握り拳を突き上げるのはルゴ。

「そうかー、うちの愚息が嫌というのなら、私のところに嫁に来るってのはどうかな? ちょうど私も独り身がさびしい年頃でね。うんと優しくするよ?」と、目じりをとろけさせて笑うのは元魔王。

 彼ら二人の身勝手な言葉を受け、とうとう堪忍袋の緒が切れたのは、今まで散々いじられ倒した魔王だけでなかかった。

 魔王の一撃でルゴは呆気なく張り倒され、斎に張り付いていた元魔王は腕を取られて地面に沈められると、二度と起き上がれないようにと彼女にその肩口を思い切り踏ん付けられた。

「魔王。思うところがあってあんたに加勢するわ。この勝手なことばかりほざく口、封じてもいいわよね?」

「ああ。二度と開かない様にしてやれ」

 魔王が低く唸ると、斎はぱきりと指を鳴らして笑った。

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