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第22話/使者

 「どうなんだよ、コレって?」銀髪の男が鼻で笑えば、

 「まー……、こんなもんだって」と、赤髪の筋肉男。ついでに、

 「ものは相談なんだが、この際、もう、つるっとうっかり、魔王の嫁に来るってのはどうだろう?」などと、主のために大胆な申し入れをしてみたところ、

 「冗談は魔王の馬鹿さ加減だけにしてもらおうか、フロウ」

 嫌そうな顔をして、レイはばっさりと斬り捨てた。

 だよなー……。口の中でつぶやいて力なくしゃがみこんだフロウは、短く刈り込んだ髪をがりがりとかいて、すぐそこで伸びている男たちを見つめた。

 ひとりはうつ伏せに、もうひとりは仰向けになって気絶している。

 荒れた室内の様子はこのふたりの乱闘がいかに凄絶だったのかを物語っているようで、その実、可憐なひとりの女性の仕業であることをレイとフロウは知っている。彼らは、魔王がこの建物に現れてからの一部始終をつぶさに観察していたのだから。闇にこっそり隠れ、魔王と女性の間に甘やかな雰囲気が訪れるとふたりそろってガッツポーズをし、第二の男が乱入した時点で雲行きが怪しくなれば互いに手を取り合いつつはらはらと見守り、ついに最後のやり合いの段階においては呻きながら仲良く頭を抱えていたのだ。

 野郎どもを一蹴した美しいひとが、手早く旅支度を済ませて風のように去ってしまった所までを見届けてから、ふたりは脱力した体を建物の内側にすべりこませたのであった。

 にへらと、気味の悪い笑みを浮かべて倒れている栗色の髪の男の足を持ち、レイがため息をつく。

 反対側に立ち、脇の下に手をさして軽々と男を抱きかかえたフロウはあっという間にベッドまで担ぎ上げ、それからよく日焼けした己の顎に手をやって、しげしげと男を眺めた。

 「これが、東の大国と謳われるマルーン国の王か」

 一瞬肩を震わせたレイに、彼はにやりと笑う。

 「このくらい知ってるって。俺達の情報もあながち穴ばかりじゃないんだぜ?拝顔した覚えはないが、我々の間でも有名だしな。青の炎湛える瞳の若き王。人間くさい噂も多いが、『庶民王』と異名をとるほど国民には慕われているらしいじゃないか。なるほど、王族にみられる高慢ちきさは欠片もないのは確かだな。それに、王が熱を上げているという女性も噂に違わない美貌の持ち主だったなぁ。さすが、美姫と称されることはある。戦場で見えたときには獲物を取り落としそうになったぜ」

 「悪かったな」

 レイがむうっと頬を膨らませてフロウを睨む。成人男子に似つかわしくない子供じみたレイの仕草に首を捻るフロウ。一応だが、小国リオネの第一王女としてレイはフロウの発言をとがめているらしい。

 「私も、貴方の言う高慢ちきな王族なんだがな?」

 「あー、いやッ、彗は別だって!高慢ちきなところもあるけど、概ねイイヤツだよ?」

 弁解しているのか弁明しているのか、はたまた追い打ちをかけているのか。フロウがあたふたと言葉を重ねれば重ねるほど、レイは女性の顔をしてふくれている。

 ツィンクとは違い、婦人におもねる時の言葉に乏しいフロウはついに降参というように両手をあげて、「悪かったって」とおどけて見せ、

 「さっきのお姫様も綺麗かもしれねぇが、俺は彗の月色の髪と星色の瞳の方が好きだぜ?」と、彼にしては上等の文句を口にした。

 世界中でその容姿を絶賛される女性と比べ、主観ながらもそう言われれば嬉しくないはずもなく、彗はようやく機嫌を直して、とりあえずしどろもどろの大男を睨むのを止めた。

 「まぁ、その、なんだ。とりあえず、魔王連れて戻ろうぜ?いつまでもこんなところにいちゃあいつ誰が来るか」

 わかったもんじゃねぇからな。

 続く言葉を飲み込んで、フロウの表情には緊張の色が走った。顎をしゃくって扉の方を示す。するとまもなく、コンコンと、控え目に扉を叩く音が聞こえてきた。総大将エリスの滞在する建物の扉を叩く者が魔王軍の味方であるはずがない。しかし何よりも今は、この部屋の状況を誰かに見られてはまずいのだ。総大将エリスの不在、気絶する魔王と国王、侵入者である魔王軍フロウ大将とその部下。

 「いっそ突破した方が早いか……」

 素早く魔王を背負ったフロウが腰に下げる得物に手をかけたのだが、すっと伸びたレイの白い手がそれを制した。

 「いや、待ってくれ。たぶん、……大丈夫。あいつは俺に用があるんだろう」

 「知り合いか」

 「知り合いというより……」

 腰から手を引いたフロウに早く去れと目配せをした瞬間に扉が開いた。

 現れたのは昼間に声をかけてきた黒ずくめの男ひとり。

 やっぱりおまえか。体がそう語っているレイの姿を認めて、男はゆっくりと扉を閉めてから足音も立てずにすうっと歩み寄った。チラリと、ベッドに横たわる男を一瞥すれば、彼は片方の眉をあげてゆっくりとため息をついたのだった。

 「お連れの方はもどられたようですね?」

 「おまえが用のあるのは俺一人だろう?」

 「またそのような言葉を……。羽を伸ばすのも結構ですが、城での生活に不自由することになりますよ?」

 「生憎と、先の話のことで今を犠牲にする性分は持ち合わせてないんでね」

 にやりと、笑うレイをほっとしたような、咎めるような表情で見つめていた男がまた深いため息をつく。

 「いっそその魔法を解いて差し上げましょうか?元のお姿に戻れば」

 「戻ってもいいが、評判を落とすことになるぜ?リオネの王女と思しき小娘が、あろうことか連合軍をぶちのめしてたってな」

 「脅す気ですか?」

 「どうだか?」

 二人の間にぴりりとした空気が張り詰める。どちらが引くか、お互いの目を見つめること数秒のうち、男の黒い瞳がふっとそらされた。はじめから、彼が主である彗に勝てるはずもなかったのだ。ささやかな抵抗を試みたのち、今度はあきらめにも似た息を漏らして彼は言う。

 「良い知らせと悪い知らせをお持ちしました。どちらからお耳に入れましょうか?」

 漆黒の瞳はまっすぐに彗を捕らえる。魔王と似て非なる強い光を湛えた従者の瞳にふと彗は違和感を覚えた。幼いころより一緒に育ってきたはずの男の瞳とはどこかか違う気がすると思ったのだ。しかし、その違いを指摘するだけの材料を集めることができずに彗はその違和感をあっさりと捨てた。

 蓮を見間違えるはずがない。一瞬でそう決めつけ、

 「では、悪い方から聞かせてもらおうか。少しでも明るい気持ちで眠りにつきたいからな」

 と、彼女は男性の声で答えた。

自分フラグの立て方間違ってると思うッス。

魔王、……ドンマイ。

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