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第18話/再会

 「変わった趣味だな」

 つんと鼻を突く異臭を纏った黒一色の男に、連合軍総大将エリスがにやにやと笑った。

 「仕方ありません。替えの持ち合わせはありませんので」

 「あぁ、ならば一度下がってもいいぞ?どうせあとは時間の問題だしな」

 「そうも参りません」

 「探し物がまだ見つからない?」

 押し黙る長身の男をからかうように、エリスは深緑の双眸をきらきらと輝かせている。

 戦場の埃にまみれながらも輝きを失うことのない孤高の花が一輪。

 噂に違わぬすべらかな白い肌、薄暮時の空色の髪、意志の強そうな目鼻立ちと優美な弧を描く唇。引き締まっているであろうしなやかな肢体に鎧を纏い、凛とした雰囲気を醸すその人に、マオの目も奪われた。

 「蓮、魔王軍の規則を知っているか?」

 唐突に切り出したエリス将軍に、黒い男がゆっくりと頭をふる。

 「どんなことがあっても、女性に暴力をふるうことは厳禁らしいぞ?まぁ、そのおかげで何度か命拾いをしたようなもんだがな。しかし、どうやらあちらもそうそう甘いことを言っていられなくなったらしいな」

 そうだろう?と、問いかけられマオは慌てて視線を外す。

 「ああ、なるほど。女性同士ならいいってわけですか。……って、何するつもりです?エリス」

 さして驚く風でもない蓮の言うとおり、エリスは長い髪をひとまとめにし、こきこきと関節をほぐしていくと、最後にひとつ大きな伸びをした。

 「ちょうど暇だったし、手合わせ願おうかと」

 「え゛……」

 マオがたちまち硬直する。

 いくら今自分が女性の容貌をしているからといえ、異性を、しかも、こんな美貌の持ち主と殴ったりすることができようか。

 「いや、私、そんなつもりじゃあ……」

 「なに言ってるんだ。そのためにここまで吹っ飛ばされてきたんだろう?そろそろ勝っておかないと借金で国が潰れるぞ?」

 敵の将にまでそのような心配をされるとは……。マオはそっと目頭を押さえる。

 「と、いうわけだ。私に勝てたらこの勝負魔王軍に譲ってやってもいいが?」

 にっこり。エリス将軍が微笑めば、どうしてかマオの心臓が大きく波打った。

 自分はこの笑顔を知っている。

 先ほどから胸のあたりがもやもやと深い霧で包まれ、遠い記憶の奥深くで誰かの面影が揺れていた。それが一体誰なのか。

 「どうした?大丈夫か?」

 ぐっ、とマオに顔を近づけるエリス。

 マオは体を引いてばくばくと脈打つ体を己の手で抱きしめた。

 ―どうしたの?だいじょーぶ?

 温かな海の色をしたふたつの瞳、ふわふわと風になびく淡い紫色の髪。転んでしまった自分に小さな手を差し伸べて笑う女の子。その隣には兄シャロムの姿。そして、庭のテーブルでお茶を飲む大人たち。幼い日の幸せな時間。

 「おい、本当に大丈夫か?気分でも悪いのなら少し休むといい。蓮、連れて行……」

 「…………」

 「……!!」

 エリスがマオの腕を取り、彼女の体を蓮へ渡そうとしたその一瞬。

 マオはエリスの耳元で何かを囁き、エリスは弾かれたようにその黒い小さな兵士より飛びのく。

 蓮と護衛兵たちが見守る中、マオの愛おしげな眼差しとエリスの射るような鋭い眼差しが交差する直前に、連合軍本陣に一陣の風が吹いた。

 「てぇぇえええええええええやあああああああッッッ!!」

 巨体が本陣を固めていた兵士たちをなぎ倒し、吹っ飛んで行く兵士たちの頭の上を何者かが超えていく。ひらりと空に舞い上がった影は棒を支える男たちを踏み台にしてさらに跳躍し、その倒すべき棒のてっぺんに拳を叩きこんだ。

 一瞬の後、太い丸太の棒はぱかりと綺麗に真っ二つになって崩れ落ちる。

 未だ空中を舞っていた影はくるりと体をひねってやわらかく地面に着地。その華麗にして見事な身のこなしに、エリス以下連合軍は固唾をのんで見守ることしかできなかった。

 「任務完了。おい、マオ、んなところでぼさっとしてないで帰るぞ」

 傾きつつある日の光を反射する銀髪。

 大男を従えたレイは敵本陣のど真ん中で不敵に笑っている。

 ドラの音が絶え間なく鳴り響く。魔王軍の勝利を知らせる割れんばかりのドラの音が。

 「あなたは……!!」

 呆けるマオとエリスに代わって叫んだのは蓮。彼は今度こそ間違いないという確信を持って、先程マオにぶつけた問いを繰り返すべく駆け寄った。

 「す……」

 しかし、彼はその名を呼ぶことを許されなかった。

 「その名を呼んだら殺す。いやその前になんだか臭いから近寄る、なッ!」

 と、レイのはり手一発で吹き飛んでいく蓮。だが、そんなことには慣れているのか、彼はすぐに立ち上がってレイに迫る。

 「いったいあなたは何をしているんですかッ!だいたい、私の目を盗んで単独行動するなんて、母上様との約束と違うではありませんか!私が一緒だからあなたは外に出ることができたのですよ!?それを、いつのまにやらふらりといなくなったとおもったら、なんですかそのかっこうは!!ふざけるのにも限度というものがあります!!さぁ、今すぐ元にも……ぐぅッ!?」

 まだまだ続きそうな彼の愚痴を己の唇で物理的に攻撃し、レイはにやりと笑う。

 静まり返っていた連合軍の本陣がさらに凍てつき、誰もが息をすることさえためらった。見てはならないものを見た、というようにさっと視線を外す者もいれば、食い入るように見つめる者もいる。しかし、どの体も金縛りにあったかのようにぴくりとも動かない。

 その中にあって、レイとネルだけが時を動かすことができた。

 呆然と立ち尽くすマオを小脇に抱えたレイが走り出せば、ネルもまたレイたちを庇うように先に立って駆けだす。

 時を止めた連合軍本陣を抜け、疲弊しきった兵士たちを幾度となくとび越えて、彼らは久々の勝利に酔いしれる魔王軍の陣へと生還したのだった。

うへへへへ……。さらっと野郎同士で××したったでー。(そろそろ捕まれよ)って、まだセーフですよね?ね?ねぇ!?

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