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第11話/密談

 「うぎいいいいいいいいいいいいいいいいッッッ!!」

 魔族の王様、即ち魔王は今まさにその身を粉砕されようとしていた。

 「兄ちゃんはお前に会いたかったぞぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 血を分けた実の兄のばか力の抱擁によって。

 「シャロム様、魔王様の顔色が優れませんからもう少ししたら放してやってくださいね」

 「今すぐ離せぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 「なに言ってるんですか、兄孝行しておきなさいませ」

 「仲良しでうらやましいですねぇ」

 すでに落ちかけている魔王を横目に、ルゴとツィンクは出された紅茶を優雅にすする。

 

 ここは魔王たち魔族の本国レミアム。

 西の大陸を縦断するゴンド山脈を構成するレド山の裾野に位置する小さな小さな国である。シャロムの居城を中心として楕円形に屈強な壁が張り巡らされ、さらにその周りは【死人の森】と称される不気味な森に包みこまれている。その上、普通の手段ではおよそ外界からの接触が図れないよう結界まで張ってあるこの国は、もちろん世界地図にその名を刻むことはない。

 それが魔族の本国とされるレミアム。

 単一民族で構成され、また、絶対的な存在であった先代魔王の嫡男であるシャロムの統治下で人々は平和で豊かな暮らしを約束されていた。

 年長者を敬い、年少者や力の弱いものを皆で助け合っていく小さな世界。整備された美しい街並みには子供たちの笑い声に溢れ、女たちは畑仕事に精を出し、老人たちが家を守る。外界から隔てられた小さな楽園。

 ただ、ひとつ、この国は男たちの姿が圧倒的に少なかった。


 ひと通りのお約束を終えた魔王とシャロムが席に着き、双方が出された紅茶を一口含んだところで、シャロムの屋敷の侍女たちは一斉に下がって行った。

 「それで?一体何の用なんだい?」

 静まり返った部屋で呑気そうに口火を切ったのはシャロムであった。魔王と同じく濡れそぼったような黒い髪を一つにまとめ、弟よりもごつごつした大きな手で華奢な茶碗を器用に持ち上げて微笑んでいる。

 「まさか、魔王城を誰かさんがぶっ壊しちゃって、直して欲しいとか言いに来たんじゃないよね?」

 ぶふっと、魔王が紅茶を吹き出す。

 「さすがにお見通しですか」

 「奥方のミン様はいい眼をしてらっしゃいますからねぇ」

 ごく一部の者しか知らないことだが、シャロムの妻、ミンは、【魔眼】の持主で、見ようと思えば地の果ての出来事であっても見ることのできる力を持っているのである。

 ツィンクがそれをほのめかすように目を細めて笑うと、魔王は観念したように自分の口を開いた。

 「シャロム、悪いんだが、城の修復を手伝ってもらえないだろうか?」

 「別に構わないが、なぜそんなことをしたのか理由を聞かせてもらえるか?」

 至極当然の質問にルゴとツィンクも興味を示した。

 なぜ彗と正面からぶつかることになったのか。いやそれよりも、魔力を持たないはずの人がなぜあのようなことができたのか。そしてそれを魔王がどう考えているのか。

 「彗という女だ。あの女の力を見てみたくなったんだ」

 楽しげに魔王の口元が歪んだ。

 「彼女はリオネの姫だそうですね?」

 一枚の紙切れに目を落としながらルゴが言う。

 それは、ツィンクが収集してきた、彗に関することの書かれた報告書であった。

 「調べさせたのか?」

 然して驚いてもいない様子で魔王が無表情のルゴを見る。

 「はい」

 「素性の知れないものをお前のそばに置くわけにはいかないだろう。当然のことだ」

 自ら紅茶を足しながらシャロムがさらりとルゴの援護に回り、魔王に紅茶をすすめた。

 しかし魔王はその兄の紅茶を断り、だろうなと、ため息を吐きつつテーブルの上で両手の指を組んだ。

 「知っていたのですか?」

 「知っていた。最初から本人がそう名乗っていたからな。リオネといえば、遥か昔に我々の一族から離れた者たちの国だ。その国の姫が多少魔力を持っていても、まして、単独で魔王城に辿りついたとしてもおかしくない話だ」

 正直な方ですねぇと、ツィンクがひっそりと笑う。

 「今になって【魔女】が接触してきたことをどう思われますか?」

 「女王サンテノーラは関係ないと思う。正確には、リオネも関係ない、彗自身の起こした行動だと思っているのだが。報告にはどう上がってきているんだ?」

 皮肉をこめ、魔王がルゴの手にしている紙を顎で指して見せた。

 「仰る通りです。リオネ国に不穏な動きはありません。彗様については、重いご病気のため静養中ということで公務を控えていらっしゃるそうです」

 「病気、ね。リオネ以外のお姫様だったら、『魔族にさらわれた』だのと騒いでもおかしくはないところだな」

 「やはり、祖先を一緒にしているよしみでしょうかねぇ?」

 シャロムが鼻で笑うのを受けて、ツィンクが首をかしげて魔王を見る。

 「さぁな。そもそも女王サンテノーラは彗が我々のところにいることを知っているのか?あのお姫様が行き先を告げて家出するようにも見えないが」

 「確かに」

 ルゴとツィンクが同時に頷いた。

 「だが、時期が来たら帰ると彗は言っていた」

 「時期?」

 シャロムが眉をひそめて魔王を見つめる。

 その視線を流して、魔王はルゴを見る。どうやら彼は彼女の言ったその意味に思い当るところがなく、ルゴの手の内にある報告書に期待しているらしい。

 「たぶん、結婚のことだと思います。ツィンク、詳細をお願いします」

 「いや、報告書に書いたこと以外は大した情報はないんですがねぇ、彗姫はもうじき結婚するという噂がありましてねぇ。なんでも、魔王の首を取った勇者との結婚だそうですよぅ」

 は?

 一同の動きが止まった。

 「俺の首はまだつながってるんだが」

 魔王は自分の首のあたりに手をやって不思議そうにしている。

 「それがですねぇ、ひとりいるらしいんですよ。破竹の勢いの勇者とやらが。私はまだ見たこともないんですがね、その勇者が、彗姫との結婚を希望しているらしいんですねぇ。リオネ国としても、断り切れなかったというところでしょうかねぇ」

 「なるほど」

 ツィンクの情報を聞き、ルゴはようやく納得がいった様子で手を叩いた。

 「つまり彗様は、その勇者と結婚したくないがために、魔王様のぐうたらぶりを直しに来たわけですね」

 「ああー、なるほどねぇ。なーんだ、それなら、」

 シャロムが変なところで言葉を切ると、その後はルゴとツィンクの声も異口同音に重なった。

 「娶っちゃえばいいじゃん」

 と。

ねぇ?(笑)

しっかし、軽いノリで言っちゃいますねぇ。(汗)

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