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ゾンビに起こされる朝は悩みが尽きないよ。

10,

 ゾンビを作り始めてから稀に悪夢を見る。

 街中がゾンビで溢れかえって俺だけが生き残っている。

 ゾンビ映画の様な光景だ。

 久々に見たのは昨日リリアナをゾンビへと変えた罪悪感からだろうか?

 

「ご主人さま、魘されているようでしたが何か怖い夢を見たのでしょうか?」

 女の声の方に俺は向く。

 何時もは俺は一人で寝る。

 緑色の顔のメイドが主を待つかのように立っている。

「リリアナが、どうしてここに居るんだ?

待機室に置いてきた筈だが」

 リリアナは首を触りながら言う。

「私の意識はハッキリとあります。

処刑され首が締り……」

「止めてくれ、聞きたくない」

 ゾンビが記憶を持っていられるのは一年程だ。

 それが過ぎると急速に記憶が消え初め単調な仕事しか出来なくなる。

 リリアナとして活動が出来るのは一ヶ月に満たないだろう。

 他のゾンビと同じように命令に従うだけの道具と成る。

 

 記憶を残しておくことの危険性を全く考えていなかった。

 ちゃんと動けないように拘束する必要があったのだ。

 迂闊だった事を今になって思った。

 寝ている間に何かされていないか自分の体をみる。

 噛まれた後や傷はない。


「大丈夫です、私は何もしていません。

貴方にお願いがあるのです」

 ゾンビが要求してくるのは初めての経験だ。

「なんだ?」

「家族がひどい目にあっていないか。

様子を知りたいのです」

 彼女にとって家族は大切なのだろう。

 あまり待遇は良くなかったのに気にする辺りが可愛い。

 ゾンビに好意を抱くなんてどうかしている。

「もし殺されていたらどうするつもりなんだ?」

「どんな目に遭っていても私は何も出来ません。

ただ知りたいと思ったのです」

 ゾンビからの願いを聞くことは良いことなのか?

 もし要求を飲んだら何かをして貰う時に、お願いをされるかも知れない。

「ゾンビの願いを聞く事は禁止されている。

俺の命令を聞くだけで他のことを考えるな」

 リリアナは涙を零す。

 初期段階のゾンビには感情表現が出来る事がある。

 感情によって命令に反したことは一度もないが、怒ったりすると怖さを感じる事もあった。

 そう言う時は記憶を消して調整を行うのだ。

 リリアナの記憶を消して人格をなかったことにするのは勿体ない気がした。

 放っておいても記憶は消え人格は消えて無くなるのだ。


「生きているかどうかだけでも知りたいです」

 俺の中で悪魔が囁く、リリアナは俺よりも優れた情報を持っている。

 利用すれば良いと。

 今はミケーレからの情報が主だ。

 彼女に勝つには、それ以外からの情報が不可欠だ。

「そうだな、ミケーレを俺と同じ身分……。

いや、俺よりも低い地位に引きずり落とす方法を考えてくれたら聞いてやっても良い」

「恨みでもあるのですか?」

「いや、彼女と結ばれたい」

 リリアナは口を抑え笑う。

 ゾンビが笑ったところを見たのは初めてだ。

 これ程感情豊かなのは、ゾンビとしては失敗なのだろうな。

「それは止めたほうが良いです。

何故なら貴方より地位が低くなれば、それを利用し他の貴族が支配しようとやってきて奪われるだけです。

けして貴方のものにはなりません」

 確かに身分を失えば残るのは領地と富だ。

 それを狙って結婚しようと争っている最中なのだ。

 最も力のある者が強引に奪うことも可能だろう。

 そうなれば勝ち目がないのは理解できる。


「どうすれば彼女を手に入れられるんだ」

「簡単なことです。

女神に仕えている聖職者を殺すのです。

それでゾンビに変え、皆の前で貴方を神の使いだと認定させるのです」

 リリアナには人としての心は無くなっているのだろう。

 人を殺しても良いと言う発想ができる時点で魔物と変わりない。

「人殺しをしろというのか?」

 人を殺して幸せになれるものか。

 リリアナは笑い言った。

「神の使いが行う事は正しいのです。

命を奪う権限もあり、それを執行して私を殺したのです。

認めさせれば後は逆らう者を権限を行使し排除すれば貴方の望みは叶うはずです」

 権力を持つものは人の命すら奪うことが出来る。

 俺にはそれが出来ないと思い込んでいたから、権力を得ることが出来なかったと言うことなのか?

 もし権力わ手にするために他者を殺し続けたらどうなる。

「そんな事をすれば多くの命が奪われる事になる……」

 あまりにも恐ろしい考えだ。

 ゾンビの言う通りに歯向かうもの全てを殺しゾンビにしたら、夢と同じで俺以外はすべてゾンビの国になる。

 悪夢が現実となり俺には安らぎが無くなる。

「それが嫌なら、彼女を諦め今の地位で満足することです」

「俺を騙そうと……」

 ゾンビは嘘を付かないんだ。

 彼女が感情に惑わされずに考えた正しい結論なのだろう。

 

 貴族達かやっているように、命を奪う事を正当化すれば幾らでも命を奪える。

 命を奪われたくないものは従うだろう。

 力によって認めさせれば、貴族達は黙って見て居ない。

 ゾンビ化によって聖職者を操った事が露見すれば、悪魔の仕業だと証明になる。

 正当な理由によって俺は悪魔として殺されるのだ。


 昔の俺なら、間違いなく安直な答えに納得しゾンビの出した最悪な手段で身を滅ぼしていただろう。

 不正によって手にした成果は不正が発覚すると破滅するということだ。

 ゾンビはどんどん朽ちて骨になる。

 不正を隠す手段がない、承認した聖職者がすぐに死んだら不信がられる。

 破滅が保証されている。


 正当な方法で神の使いだと認めさせれば、この問題点が解消される。

 だがそれはありえない話だ。

 平民から神の使いが現れたとなれば秩序の崩壊となる。

 だから俺は悪魔憑きと成っているのだ。

 聖職者もそれはよく理解している筈、だから絶対に俺の事を認めたりはしないだろう。


 俺は転生と言う他の誰にも経験したことのない……。

 いや待て、本当にそうなのか?

「一つ聞いていいか?

こことは違う世界があると言うことを信じられるか?」

 リリアナは首を傾げて聞き返した。

「天界や魔界があるという話でしょうか?」

 どう説明すれば良いんだろう。

 異世界というものを俺自身も良く解っていない。

 別の次元を越えて移動しているなら、そもそも全く違う物理であっても不思議じゃない。

 世界には端があると言うのも偽りではなく史実なのかも知れない。

「いやそう言う世界じゃなく、宇宙の何処かにある惑星……」

「よく解りません。

神が住む世界と言うのは存在します。

何故なら聖職者様がその声を聞き導いてくれるからです」

 聖職者は罪人に祈りを捧げる為の存在だと思っている。

 神の言葉とか胡散臭いものを言うだけで救いを出したことは一度もない。

 罪人は全員死んでゾンビとなった。

 彼らに神に会えたか?と言う質問をしたことが有るが、ないと答えた。


 聖職者が本当に神の世界へ導いているならゾンビが神に会えた筈だ。

 別の何かになったというのなら、持っていた記憶は何処から来たというのか?

 神というものを感じられない以上、俺は神は存在しないと思う。


「なんて言えばいいんだろう。

こことは違う世界から死んで移動するみたいな。

俺はそう言う体験をしたんだ」

 他の人に話したら寝言や妄想だと思われ変な目で見られただろう。

 リリアナは真剣に考えてくれた。

「その世界にしか無いものを、記して反応を見ては如何でしょうか?

同じ所から来たなら反応があるはずです」

 街の中央広場に掲示板が置いてある。

 色んな人が利用するが、基本的に領主が何かを告知する時に使われており行事や刑の執行などが書かれている。

 俺は柱の部分に落書きを行った事がある。

 転生前の文字で"読めたら返事として好きな文字を下に書いてくれ"と書いたのだ。

 その返事は無い。

 

 そんな場所を見ていない可能性はあるが、情報が発信される場所を調べないような奴には用はない。

「それは既にやっている。

でも反応がないんだ」

「無いものを証明することは不可能ですが、

あるものは証明することが出来るでしょう?

それを提示すればいいだけです。

異世界の行き方を提示して、その世界を見せればよいのです」

「一方通行なのかも知れない。

俺は戻り方を知らないし、この世界から戻ったと言う話を聞いたことがない」

「証明できないということは、存在しないのと同じです」

 リリアナの言うことは理解できる。

 何の解決策も出すことは出来なかった。

「ああっ、こうしている間に時間だけが過ぎて何も出来ずに終わるんだ」

「主様に為に頑張り尽くすことも幸せだと思います。

欲望で手を出すよりも側に居ることだけを望めば良いのです」

「恐怖で従っていんじゃないのか?」

「恐怖はありましたが、それだけでは続きません。

従順で卒なく行動していればそれなりに良い待遇でした。

醜態を晒してしまったことが恥ずかしく思っている所です」

「俺もそうだな。

怖いと思うことは良くあるが基本的には優しい」

 利用価値があるからそれに見合う待遇なのだろう。

 不満をあげればきりが無いが生活に困らない程度の蓄えもある。

 従順にしていれば伴侶まで与えられ寿命を迎えるまでは生きられるだろう。

 ゾンビ使いとしての能力を封じられた先に利用価値がなければ死が待っている事は間違いはない。

 今の地位を奪われることですら怖いと感じるのだ。

 

「婚姻相手の選択にお困りでしたら、私に選ばせてください。

それで貴方が選択を誤ったと後悔せずに済むはずです」

 死んでいる奴に任せて本当に良いのか?

 俺の気は楽になるだろうか、任せたことを後悔する気がする。

 自分で決めたほうがあの時任せるんじゃなかったと悔やむことはない。

 でもどちらが良いのか解らない。

「参考にしたいから選んくれ、後を選んだ理由を聞かせて欲しい」

「はい、ご主人さま」

 リリアナは所有している領地の違いについて語り始めた。

 そして発展性の有る方を選ぶようにと告げた。

 今は収益が少なく貧乏貴族だが、ミケーレの持つ富があれば領地を発展させる事が出来て富を増やすことが出来ると言う事だ。

 もう一人は十分富を持っているが領地は発展し尽くしもう成長の見込みはない。

 性格や人望等については触れることはないようだ。

 俺も話しをメイドから話しを聞く限り悪い印象は受けなかった。

 将来性が有る方を選ぶのが得策と言うのは理解できる話だ。

「気になったんだが最終的に同じ富を持つとしたら、初めから持っている方が良いんじゃないのか?」

「それは違います。

初めから持っていると言うことは保守しなければなりません。

目的が無く生きると言うのは実につまらないことです。

得ると言う楽しみがある方が幸せを感じられるとは思いませんか?」

「そう言うものか?」

「生涯分の給料を始めに貰い、残りはずっと働き続ける事は出来ますか?」

 初めに貰ってしまうと持ち逃げしたく成るな。

 初めは頑張れるかも知れないが面倒になって来るだろうな。

 もう貰うものは無く、ただ労働が続くだけだ。

 定期的に貰っている方がやる気が湧いて来るな。

 自分の成果を感じられて評価されたんだと言う喜びを感じる。


 発展性があるのに財を作り出せないのは不思議な話だ。

「貧しいのには理由があるのだろう?

本当に発展するのか」

「はい、魔物による被害が大きく、それから守る為に人員を割かれています。

この領地では戦力としてゾンビを利用していると聞いています。

労働力がまず回復させられます。

安全が保証されれば人々が集まり発展することは間違いないです」

「それなんだが、ゾンビ処置が始まってから犯罪が激減して治安が良くなっている。

大量のゾンビがいないと魔物を処理出来ないんだ」

 リリアナは微笑むと言った。

「恐らく決定と共に妨害が始まります。

元主様が動くと思われます」

 思い通りに行かないと手段を選ばない貴族だ。

 候補者を消しに掛かり自分の方に転がるように仕向けるのか……。

 それなら初めに富を持っている方が打てる手が多い分守りやすいだろう。

「もし候補者が死んだらどうなるんだ?」

「婚姻前なら別の候補者を選ぶ事になります。

婚姻後だと相手の親族から候補を選ぶ事になります」

「なんだその仕組は……」

 良く解らないがこの世界では当たり前のことらしい。

 権力が集まらないように暗殺が頻繁に行われていた。

 その対策として暗殺で死んでも縁が切れないような仕組みが作られたようなのだ。

 

 魔法が使える世界だ。

 離れた所から誰にも悟られずに殺すぐらいは出来るのだろう。

「いや魔法で候補者を殺したら解るのか?」

「はい、魔法は万能ではなく、具現化するには術者が側にいる必要があります。

それに屋敷の壁は魔法に対して保護する効果もあります」

「どういう事だ?」

「魔法には魔気をエネルギーとしています。

なので力の根源を分散させるように魔気を吸う材質で作られています」

 リリアナは手に風の魔法を纏わせ、屋敷の壁に当てる。

 魔法は効果が消え無くなった。

「壁越しからの魔法は無意味というわけか……」

 俺が使える魔法はゾンビ化ぐらいだ。

 遠く離れても命令さえすれば実行してくれる。

 ミケーレの研究を欲しがる理由も解る気がする。

 競争は激しい、そこへ正当な方法で挑んでいたら勝つのは困難だ。

 俺もなにかズルを考えて出し抜くしか無いのか?

ご愛読ありがとうございます。


お陰様で多くの方に読んで頂き感謝しています。

有難うございます。

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