ゾンビに秘密は無意味、なんでも話してくれるんだよ。
9,
悩んでいるとミケーレがやって来る。
彼女は何時になく微笑んでいる。
「ゲームを楽しんでいるだけだったのか?」
「人の運命を握っているのはどう感じた。
ぞくぞくして優越感を感じないかしら?
これが神に選ばれたものだけの特権よ」
そんな優越感を感じるよりも怖さで手が震えた。
俺が運命を握っていた事を知った今は別の方法があったかも知れないと後悔だけが残っている。
「命を何だと思っているんだ」
よほど質問が可笑しかったのかミケーレは笑いをこらえていた。
それでも笑い声が漏れていた。
そしてミケーレは言う。
「とても大切なものよ」
「じゃあどうしてそんな事が言えるんだ?」
ミケーレは真面目な顔つきに成り語り初めた。
こういう時はちゃんと聞いていないと殺される。
「私は貴方の人生を奪ってしまったわ。
だから貴方に選ぶ機会を与えてあげる。
候補の内どちらが良いか貴方が決めなさい」
何を言っているんだ。
伴侶を決める大切な事を俺に託すのか……。
もし選んだ相手が悪ければ彼女は不幸に成るかも知れない。
「どちらも素敵でとても魅力的だけど、私が決めれば角が立つわ。
選ばれなかった方は不快に思って嫌がらせをしてくるかも知れないの。
でも代理を立てることで、その矛先が誰に向くか」
ミケーレを欲しがるのは美人だからと言う安直なことだけではない。
大都市の領主の娘であり富と権力を持っている。
結ばれれば、それを手に入れる事が出来るのだ。
敵意は間違いなくメイドに向かうだろう。
「大切な事を俺に託して良いのか?
もしそれで不幸になったら……」
ミケーレは微笑む。
「貴方が責任を負うことに成るでしょうね。
よく考えて相手の嘘を見抜きなさい。
私が幸せなら、貴方も幸せに成るわ」
彼女が不幸に成れば、その鬱憤が俺に回ってくるのだ。
だから、彼女が幸せになれる選択をしなければならない。
呑気にメイドと話が出来て幸せだなんて考えた居たのが愚かだった。
……彼女は初めからこうなるように組み立てて行動していたはず。
過去に火の魔法を見せられ、嵌められたことを思い出した。
彼女の言葉では無く真意を見抜かなければ俺は終わる。
メイドはとても優しく可愛い。
魅力的な罠だろう、ついつい手を伸ばしたく成る。
俺が本当に欲しいのはミケーレだ。
「一つ教えて欲しい、俺が貴族になれる方法はないのですか?」
産まれたときから身分は決まっているのがこの世界の真理だ。
「あら、諦めが悪いのね」
ミケーレは微笑むと少し間をおいて言う。
沈黙というのは実に怖いものだ。
「貴方は悪魔憑きよ、生かして貰っているだけ有り難いと思いなさい。
平民から貴族に成るには名誉有る功績を認められた場合だけ。
戦乱の世ならその機会はあったでしょうけど今はほぼ無いわ」
成り上がる機会がある時に成り上がった者達だけで今の秩序を形成しているのだ。
城や要塞と言ったものを築き上げれば、それで攻め入られる心配はない。
仮に攻めても迎え撃つ準備が出来ているからだ。
「魔物を撃退し街を広げるのに貢献したと思う。
それでは駄目なのですか?」
俺が持っている中で最も強いカードを切ったつもりだ。
ゾンビを使役することは他の誰でもない俺だけが行える事だ。
兵士達には成し得ないほどの戦果をあげ魔物の撃破数は過去最高となっている。
「貴方が悪魔憑きで無ければ、とても素晴らしい功績として認められたでしょうね。
全ては私が貴方を使役して行ってことになっているの。
だからその成果は全て私のもの」
生かして貰っている対価に奪われるのが名誉なのか。
なんて理不尽なことだ。
俺の成果で富を得るなんて。
彼女の手を掴み引き寄せる。
唇を奪う。
温かみのある柔らかい感触があった。
「うっ……、力で奪おうなんて野蛮ね。
そんな事をすれば力によって奪われるわ」
彼女は顔を真赤にして怒っていた。
その顔も可愛い。
先に奪ったのは君なんだ。
「俺から何もかも奪っておいて何を言うんだ」
ミケーレは深呼吸し落ち着いてから言った。
「貴方は答えを見つけられなかった。
それが罪なの」
「答え?」
彼女は何を言っているんだ。
「貴方と私の違いをよく考えることね。
それが理解できば、貴方は相応しい地位を手に入れることで幸せをつかめるわ」
貴族と平民の違いは魔法が使えるかどうかという事ではなく、神に祝福されているかである。
俺は魔法を使う素質があるが、神ではなく悪魔が付いているだから危険視されている。
もし俺の力が悪魔ではなく神が与えた力だったすれば……。
だがそれを証明する方法は無い。
いや転生した来た俺には神が居ないことは解る。
居るのかも知れないが俺には神の存在を感じたことがない。
全知全能な神が居たのなら、どうして不完全な物しか作らなかったのだろうか?
存在しない物を証明することを悪魔の証明と言うんだったな。
真似をすることでは信頼が得られない。
俺にしか出来なくて彼女に勝る事など、この世界では必要のないことだけだ。
専門的な知識があれば違っていただろう。
俺には特に何もないのだ。
「君の事が好きだ……、欲しい……、だけど俺には力も権力もない」
「今日の事は忘れてあげるわ。
貴方も忘れなさい。
そして二度とあんな真似をしないで、誰かに見られて居たら貴方を殺さないといけなく成るわ」
「はい……」
俺は悔しくて涙が零れ落ちる。
あの唇が合わさっ時の感触は……、いや忘れないといけない。
こんな事を考えていれば彼女に迷惑がかかるだけだ。
ああ、どうすれば良いんだ?
ゾンビとなったリリアナにミケーレは質問をしていく。
リリアナには特別な処置が施されている。
本来はゾンビの意思は完全に消滅させて従順に従う何も考えない道具にするのだ。
意識を残しつつ従う程度に記憶を調整を施しているのだ。
もし過去の記憶を持ち生前の性格を持っていたら、ゾンビはどう動くだろうか?
ゾンビの大半は罪人だ。
自分の欲の為に動き従うことはなく成る。
それは間違いなく化け物になるだろう。
だから記憶を消さない事はかなり危険な事だが、全てを消すと言葉が理解できずに動かない。
この調整がゾンビ作りの肝である。
基本的には記憶を消すのだが、リリアナには記憶を植え付け書き換えると言うことを行ったのだ。
数々の重大な事が暴露されていく、従順で嘘を言ったり出来ない性格にしたのである。
全て真実を語るのだ。
それを知っているのはゾンビと長く付き合ってきた俺と彼女だけだ。
死者と会話する方法はもう一つある。
それは降霊術で死者の魂を呼び出すものだが、それには意思があり言いたくないことは拒否出来るし嘘も言える。
死んだ後の事はどうでも良いと包み隠さずに話すも居たらしく対策が施されている。
メイドには降霊術と共に魂が消滅する魔法が施されているのだ。
だから機密が保持出来ると信じられていた。
ゾンビ化は降霊ではない、むしろ魂が有ると困る儀式で生者に対して行えない。
魂がない抜け殻に記憶があるのか?と言う疑問を持っていたのはミケーレだけだ。
俺は脳が記憶を残す器官だと学んだ。
魂なんてものは存在しないと言い切れたのだ。
じゃあなんで転生出来たのかと言う謎はその時は忘れていた。
それでゾンビの研究は一気に進んだのだ。
ミケーレは色々な質問を繰り返し情報を引き出すことに成功している。
色々な企みや研究している魔法についても詳しくリリアナは話す。
使用人は魔法を使うことが出来ないと俺は思っていた。
リリアナの話しを聞く内にそれが全くの誤解だと知る。
リリアナは魔法を使ってみせたのだ。
使用人の多くは貴族だった場合が多い。
貴族は財産を最初に産まれた子に継がさせる。
「私は三女として産まれ、いらない子として雑に育てられました。
雑用を押し付けられ使用人として生活する日々でした。
そんな時、ご主人さまと出会い一目惚れしたのです」
「余計なことを話し始めたわ。
もう少し調整が必要なようね」
ミケーレは呪文を唱える。
リリアナがうっすら光る、記憶が消されているのだ。
光に見えるものが記憶らしく、それが放出されていると言うことなのだ。
「えっと、私の主人は?」
「私よ、ミケーレと覚えておきなさい」
「はい、ミケーレ様」
俺はミケーレが恐ろしく感じる時がある。
それと等しくとても愛おしくも感じるのだ。
情報を得るためにゲームを利用し、合法的に機密を持つメイドを殺す理由を作ったのだ。
メイドは主の所有物で、ミケーレが不当に手を出せば報復が待っている。
だから手を出すことは出来ない。
だがメイド自身が罪を犯したらなら話は別だ。
既に承諾されていてる権限を実行するだけで良い。
情報を得ると言う目的の為だけに、リリアナは殺されたのだ。
本当に凄い力だ。
無能なメイドが失態を犯し処刑された悲劇にしか見えない事が実は駆け引きと謀略によって起きたことだったのだ。
俺自身も彼女の駒でしか無いのだろう。
世界と言う盤上で、彼女は勝つために駒を動かしている。
ああ……、なんて魅力的なんだ。
是可否でも手に入れたい。
いや、俺が手に入れた先が見えない。
彼女に言わせれば一時の感情で動けば大局を見失い全てを失う。
農民達が利益を得るために小麦の値段を上げた事にも言えることだ。
高く売れて一時は富を得たが、直ぐに反逆に会い物が高くて買えなくなると言う損を招いたのだ。
皆が得をしようとすれば、皆が損をすると言う滑稽な話だ。
いやあの話は……、ミケーレは得をしているのだ。
あの場面だけを見ると小麦が高くなっただけだ。
物価が高くなると賃金も上がる。
上げないと何も買えなくて仕事をする意味がないからだ。
ミケーレは労働力としてゾンビを貸し出している。
当然、その賃金も高くなる。
税収も上がっているのたが割愛しよう。
一方的に得をする者と、そうではない者が居るということだ。
貴族社会はそう言う仕組みなのだ。
平等な民主主義なら身分も関係ない。
「身分が無ければ……、平等な世界が良いに決まっている」
ミケーレは大笑いする。
「平等は有り得ない事よ。
支配するもの、されるものが居て成り立っている。
それが崩壊すればどうなるか解っているの?」
「身分を気にせずに結ばれることが出来る」
「貴方の従えさせているゾンビが言う事を聞かなくなったら?」
ゾンビが逆らったら俺にはどうしようもない。
「見ているしか出来ない」
「指揮を失えば自由に行動し無秩序な破壊が起きるのよ。
管理することで秩序が保てるわ。
地位が無くなるということは、ゾンビがゾンビを従えさせると言うこと。
それが可能なのかしら?」
ゾンビは命令に従うだけで自分の意思を持たない。
それを人間と同じように考える事が間違っている。
言っていることは解らなくもない立場が同じなら命令すること自体が意味不明だ。
命令に従う理由がないのだ。
上下というのは常に存在する。
それはどの世界でも同じだ。
「出来ない」
「貴方はゾンビの上に立つ特権階級に居るよ。
それを忘れずに物事を考えなさい」
完全にやられた。
その者の立場になって考えないと理解は出来ない。
彼女の立場で考えれば俺の考えは殆どが悪となってしまう。
だから全て潰されてしまう。
ああっ……。
情報の使い方を俺は誤ったんだ。
使っては成らない無いカードをどんどん使い、手元に何も残っていない。
「悩まなくても、直ぐ手に入る幸せを掴むだけでいいのよ」
「俺の気持ちを知っていて……」
「ええ、とても面白かったわ。
メイドと結ばれる際には、悪魔祓いの儀式を行って貴方は無事に人間として扱われるように成るわ」
「悪魔祓い?」
「魔法が使えないように術を施す事よ。
そうなればもう魔気の供給も出来なくなるのが惜しいけど。
別の方法は既に考えてあるの」
それはただの封印である。
生まれ持った能力を失うことに成る。
ソンビ使いとしても終わり俺の価値は更に下がる。
ゾンビしか扱ってこなかった俺には他の芸は何もない。
「……また奪うのか?」
「今は貴方は悪魔憑きで、人間ではないの。
でも悪魔祓いすることによって人間の資格を得るわ。
これは与えている事よ」
物は言いようだ。
そんな事を許していたら、何もかも奪われて無くなってしまう。
このままで良いのか?
奪われ続ける人生で幕を閉じて幸せなのか。
一つの事しか出来ない者にとって、その一つが潰されるということは死を意味する。
彼女は俺を殺すつもりなのだろうか?
利用価値がなくなれば簡単に捨てられる。
もしかすると俺をゾンビに変えて、奴隷以下の扱いを施すかもしれない。
リリアナはゾンビと成っても魔法が使えたのだ。
一時的に封じて、失敗を重ねさせ追い詰め殺すのが彼女の手口だ。
それに屈して良いはずがない。
唇を奪った報復なのだろう。
ああ、あの感触は……。
命を狙っている相手でも、思いは変わらない。
むしろより欲しく奪いたく成ってくるのだ。
なんて愚かなんだろうか。
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