ルールを守らないと死んじゃうよ。
8,
俺は3人に候補を絞っているということをメイド達に教えた。
関係のないメイドは去り近づかなく成った。
寂しいものだ。
あれほどちやほやしてくれたのに、無関係と解ると直ぐに消えるのだ。
今は好意的に接している3人もミケーレの選択によって2人は消えるのか。
ずっと悩んでくれれば、イチャイチャ出来る期間も長くなる。
ゆっくり決めてくれないかな……。
ミケーレが本人と合うのは月に一度だ。
メイドを介して情報のやり取りをする、こんな煩わしい事をするのはどうしてなのだろうか?
そのお陰で俺はメイドと毎日会い話す機会を得た。
客間の花を何時ものように取り替えているとメイドがやってくる。
腰丈の若干黒い茶色髪で目つきが怖いエリザと言うメイドだ。
顔は怖いが随分と親切で何時も贈り物を持ってきてくれる。
「あの、これはミケーレ様への贈り物です。
後これは私から貴方にです」
贈り物は何時も2つある。
一つは主に対して、もう一つは俺にだ。
それで随分と助かっている。
色々な物を貰えて、特に嬉しいのは布だ。
これは高価なもので生活に必要な物だからだ。
その布に包まれたチョコが本来の贈り物なのだろう。
「勘違いしてしまいそうだ。
好きでもない相手と結婚することについてどう思う?」
言ってから気づいたが失礼なことだった。
エリザの顔色が悪くなったのだ。
「運命って信じますか?
私は信じています。
もともと結ばれると決まっていたことですから嬉しいです」
運命と言われても俺にはぴーんと来ない。
決まっていた事と諦めて良いものなのか解らない。
このプレゼントは俺の所に来るべくしてやって来たという事だ。
「そう言うものなのか?」
そして俺に食われるのも運命ということに成る。
とても苦くほんのり甘いチョコだ。
お菓子類は貴族達しか食す機会はない。
砂糖の値段が高く、庶民の手には届かない。
貴族が美味しいものを常に食べているのかというと、そうでもない。
転生前の普通のくらいのほうが断然良いものが食べられた。
肉料理なんてものは特に何かの祝でも無い限り食べない。
贅沢三昧していると思っていた俺は愚かだった。
従者の俺は彼らの残した食べ物を食すことがあるが、余りにも美味しくなくがっかりした。
塩辛いものばかりだ。
食べられるだけましと思い食事は我慢できた。
と言うか残り物を食べないと何も食べられずに飢えて死ぬだけだ。
お菓子を食ってしまうと、あの懐かしい味が愛おしくなってくるのだ。
転生って知識があるから辛く感じるものなんだな。
知らなければ、こんなまずいものを美味しく食べられたんだろうな。
もし料理が出来れば、この世界でも生きていたけのだろうか。
そんな技能は勿論無い。
普通に生活して学校では料理を学ばないからだ。
科学を教えるなら生活にの役に立つ料理を教えたほうが断然役に立っただろう。
生活に直結している分、学ぶ姿勢も変わっただろう。
はぁ、役に立たないことしか教えて貰えなかった為に俺はこの世界ではやくたたずにしか成れなかったんだ。
「俺は運命を信じてない。
与えられたものが必要な物だったら俺は苦労をしていないはずだ。
君は結末が悲惨でも幸せなのか?」
エリザは微笑むと俺の手を握り言う。
「ええ、どんな結末に成っても、
私はそれが一番幸せだと信じています」
物事の考え方次第で幸せなのか不幸なのかが決まるとしたら、幸せに成れないのは自分が原因ということになる。
他人など全く関係のないことなのだろう。
俺が彼女を幸せにしてやろうと言う考え自体が奢りであり高慢な思考だったのだ。
運命として全てを受け入れるなら何が起きても幸せなのだろう。
「そう考えたほうが幸せだな」
「はい、でも運命だからといって何もしなければ、
良い結果をもたらさないですよ。
協力してくださいね」
運命に逆らうのではなく、運命に従いつつもより良い未来を手にするために行動しているんだ。
俺も彼女を見習って何か行動すべきだったんだ。
何も出来ないと諦めていた。
従うしか無いと先入観で決めていた。
それが誤りだったんだ。
「ああ、君みたいな子と一緒になれるのも良いな……」
怖いと感じていた顔も微笑む姿は最高に可愛い。
ミケーレだけが愛おしいと思っていた俺だが、もう少し他の女と話しをしただけで心が揺らいでいた。
考え方が人の魅力に関わっているのだろう。
見た目は興味を引く要因には成るが、性格や物事の考え方を知る事の方が重要度が高い。
ミケーレは俺には靡かないと解っている。
それが自分の物にしたい言う欲望を抑える要因となっていた。
それを自制心と言うのだろうか、手を出せば死が待っている。
人間には上下も無ければ平等で有る筈だ。
この大前提がこの世界では上下がハッキリ決まっている。
それが崩壊すれば秩序が壊れる要因になる。
産まれて来たときから縁がないと思う事は嫌だという気持ちが運命と言う言葉が嫌に思えたのだ。
ただ嫌うだけで、変化をさせようと何かをしたわけでもなく嘆くだけだ。
俺は言い訳をするだけで何もしてなかった。
それをエリザは教えてくれたから好感が持てたんだ。
「ありがとう」
エリザは首をかしげる。
メイドとの会話は基本的にミケーレの質問を伝えることだ。
主の事をよく知っていなければ答えられない質問ばかりで思想や夢に関する事が多い。
メイド直ぐに回答し、俺はそれをメモするのに手間取っていた。
「俺はメモを取っているが、君は全部覚えているのか?」
エリザは胸に手を当て目を閉じている。
物事を考える時は瞑想する事で考えをまとめて話す事が出来るらしい。
「メモは忘れるために有ると思います。
これも主の質問でしょうか?」
基本的には余計な質問をすることは避けていた。
これまでにない変な質問だと感じたのだろう。
「いや、これは俺の疑問だ。
記憶力に自信があるのは素晴らしいな。
俺は忘れぽっくて、はっはは……」
「生まれたときから主様に使え、あらゆる事を共有し見てきました。
よく話を聞き、相談に乗ることもあります。
それぐらい親しい関係なのです。
貴方は違うのですか?」
主従の関係と言うより体の一部となっているのだろうか。
基本的に使用人は一生を主と共に過ごすらしい。
他の貴族に鞍替えすることは珍しいと言える。
交換を要求されることがあるがミケーレは全てを断っている。
だから俺はミケーレの元にいる。
それはゾンビの秘密を知られたくないからだと思っていた。
忠誠心が無ければ情報を持って別の貴族に売り込んで富を得る事は出来るだろう。
それをしないのはやはり信頼関係が有るからなのだろう。
「俺は拾われたんだ。
関係ない話だが、世界は球体で丸いんだ。
空に浮かぶ星々も丸いだろう」
こんな雑学は何の助けにも成らない。
変な目で見られるだけだ。
「何を言うのですか?
世界の端には崖がありそこから先はなにもないのですよ」
「それを見たことが有るのか?」
「私はありませんが、兄が船を持っていまして、
各地を旅して見て来たのです」
エリザは自慢げに言っているが恐らく嘘を教えられているのだろう。
「それは作り話だよ、騙されているだけ」
エリザは顔を真っ赤にして怒った。
「私の事は何を言われても構いません。
ですが兄をほら吹き扱いするのは許しません」
この世界では平で球体ではないのだろうか。
間違った事が一般的になっていると思っている俺の方が間違っているのだろうか。
確かめる方法は俺は知らない。
「ごめんそんなつもりはなかったんだ」
「証拠を持ってきて貴方をギャフンと言わせてあげます」
質問が終われば後は気楽な会話が続き、次の仕事へ移る。
何時ものゾンビのメンテナンス作業だ。
簡単な確認で直ぐに終わることだが、ゾンビの働く場所が広範囲に渡るために移動に時間が取られて一日が終わる。
数日後、ミケーレは候補者を2人に絞る。
それをメイド達に伝えると、落選したメイドが泣き崩れる。
最初に話しかけてきたリリアナだ。
「こんな報告をしたら、殺されてしまいます」
リリアナは抱きつき涙を零す。
可愛そうだが決まったことは仕方ないことだ。
それを覆そうとすれば俺の信用がなくなって立場を危うくするだけだ。
「そんな事を言われても困る。
本人達が決めることだろう?」
リリアナは笑い初め暴露を初めた。
「違います、これはゲームなんです。
どの駒を上手く使いこなせるのか?と言う」
何を言っているんだ?
そんな馬鹿げたゲームがあったりするものか。
俺は背筋が凍る様な違和感に襲われた。
人生を揺るがす行為を平然と行うのが彼女だ。
他人の運命すら握っている立場にいる。
そんな連中が、賭け事をして楽しむのも有り得る話だ。
リリアナの言葉には真実味が有る。
こんな冗談を言うような奴ではないことも知っている。
ゲームで有ることを土壇場で明かしたのは、やはりそれを言っては成らないと言うルールが有った筈だ。
「自分の婚約相手を選ぶのにゲームはありえないだろう?」
俺が気づかないフリをすれば丸く収まる気がした。
「知らないのは貴方だけよ」
突然、衛兵がやってきてリリアナを押さえつけた。
「何をするんだ?」
「約束を破った罪で処刑されます」
「約束?」
「ゲームで有ることを話しては成らない決まりが有りました。
ルールを破れば処刑される事は伝えてあることです」
「彼女は冗談を言っただけだろう?」
リリアナは涙を零しながら笑っている。
「どの道死ぬわ。
貴方が私を殺したのよ、それを自覚して生きていきなさい。
ずっと後悔し続けると良い」
俺は君を助けようとしたのに、それを拒んだのは君だろう。
「黙って受け入れていれば罰によって処刑されることはなかったはずだ。
暴露したのは君の口だ。
俺が言わせたわけじゃない」
「例え生きても辛い八つ当たりが来るのよ。
それはもう恐ろしい程に冷酷な……」
メイド達は主の性格を良く知っている。
主本人は上手く仮面を被り、装ってもメイド達によって暴かれる。
ミケーレが、もし彼女の主を選んでいたら恐ろしい目にあう事は容易に想像できる。
第三者の目を通して考えるというのも中々に良い策なのかも知れない。
リリアナは特に主に怯えていた。
だから危険だと察したのだろう。
運命だとポジティプに考えられるエリザが第一候補になるのだろうな。
運命と受け入れられるほど幸せな事しかなかったからそう言う考えに染まったのだろう。
俺はその後に待っている事に驚愕した。
処刑され者はゾンビにされる。
彼女も例外ではない、吊るされた死体を運ばなければならない。
解っていたことだが知っている人間がゾンビとなっていく光景は余りにも気持ち悪い。
今まで親しかった相手を悍ましいゾンビにして良いのか?
これをしなければ俺の存在価値はない。
それを失えばミケーレは俺を殺し価値の有るゾンビへと変えるだろう。
真実を打ち明けることが罪とは、なんとも気味の悪い世界だ。
嘘を尽き欺き続けるのが良いとする。
こんなのは間違っているのではないのか?
ああ、元いた世界でも、それは変わらないか。
欺いた者が得をして、騙される方が悪いと言う。
……。
ゲームで命を落とすことに成るのが運命と言うものなのか?
罪人が減ってゾンビの生産量が減っていた。
それでゾンビを増やすためにゲームを選んだろのだろう。
そのゲームと言う遊びを教えたのは俺だ。
形を変えこんな殺人に使われる事になった。
ミケーレがリリアナを残したのは、この結末を予知していたからだろう。
だから期待をもたせて罠に嵌めたのだ。
これを証明することは不可能だ。
すべは俺の憶測でしか無いからだ。
そう思えるのは俺が彼女をよく知っているからなのだろう。
俺も彼女の手の平で踊らされ続けている。
俺と彼女に知識の差が無くとも利用の仕方で大きく差が開く。
持っている物が違うだけではないのだろう。
俺はゲームは娯楽で皆が楽しむものだという認識だった。
彼女は自分に利益が出るにはどうすれば良いのかと言う点を考えて行動しているのだ。
消費するだけか、富を作る為かの違いだ。
ずっと俺は消費し続けるだけで富を得るための考えに至っていない。
「ああっ、彼女に毒されて感情も解らなくって来たのか?」
彼女は悪だ。
それが羨ましくて仕方ない。
目の前に寝転がっている死体を見ても、もう悲しみや怒りは湧いてこない。
早くゾンビにしないと俺もゾンビにされてしまうだろう。
手を止めてぼんやり考えている余裕もない。
魔法を使うには精神を落ち着かせ集中する必要がある。
その前に雑念を払う必要があった。
ついついよそ事を考えてしまう習慣が出来ていた。
「済まないがこれも運命だと諦めてくれ」
リリアナの顔を見るだけで、彼女との思い出をどうしても思い出してしまう。
初めにあった時に抱きつかれたこともあった。
枯れてでなく成ったと思っていた涙が頬をつたり落ちる。
「俺には何も出来なかったんだ。
許してくれ」
色々考えると自分が悪い気がしてくる。
彼女がルールを破った事が原因なのに、彼女が言った「貴方が私を殺したのよ」と言う言葉に傷ついているのだ。
色々と理由や言い訳を模索して感がてしまう程に俺は弱い人間なんだ。
だから傷つけようとして言い放ったのだろう。
恨みや悪意は恐ろしいものだ。
それだけで恐怖を感じて何も出来なくなってしまうのだから。
ご愛読有難うございます。