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ゾンビが命令を聞くのは言葉を理解しているからなんだよね。

6,

 数年の月日が流れ、俺は彼女への憧れに心が惹かれていった。

 彼女の振る舞いは以前と変わらない。

 権力を振りかざし民を殺しているのだ。

 

 その一方で街は発展を遂げた。

 ゾンビと言う働き手によって、効率的な生産が行われている。

 ゾンビにも欠点があり、生産から3年程で壊れ始めるのだ。

 肉が腐り落ち骨になってしまう。

 そうなると動きが変わってしまい生産には向かなく成る。

 

 俺はそれをスケルトンと呼んでいる。

 スケルトンを集め森で狩りを行う。

「魔物が出るのは此の辺りのはずだ。

探し出し始末しろ」

 俺はスケルトンに命令している。

 ミケーレに与えられた権限を利用しているだけで、俺の支配下にあるわけではない。

 これを利用して彼女に反乱しようとしても、権限を剥奪されて命令権が彼女に戻るだけだ。


 俺も彼女のように高い身分になりたい。

 そうすれば彼女を従えさせて俺の意のままに……。

 まずは彼女を抱きしめて、俺にして来たことを後悔させてやる。

 ……。

 いや考えるのは止めよう、彼女を思い出すだけで鼓動が高まる。

 ああ、彼女を抱きたい……、あの赤い唇を……。

「何ん考えているんだ俺は、あいつに人生を滅茶苦茶にされたんだぞ」

 

 日に日に美しさが増し、大人びた体つきに成るとより一層愛しく感じるのだ。

 くっ俺ってやつは色気に弱いんだな。

 いや、彼女の考え方にも惚れている、強さと権力も魅力的なのだ。


 基本的には正義を彼女は行っている。

 俺の感覚からはずれているが、この世界では彼女は善なのだ。

 其の証拠に街は発展し、人口も増加している。


 暴君であり民衆を蔑ろにしているのであれば、民は疲弊し人口も減り衰退するだろう。

 俺の知る限り、街は活気づき明るい雰囲気を保っている。

 色々な動力してゾンビが活用され、生活が楽になったはの言うまでもない。

 基本的にゾンビにされるのは罪人である。

 罪を犯すことは死よりも恐ろしいとされ治安は良くなっていた。

 恐怖こそが秩序を保つには不可欠なのである。

 誰もが自由を主張すれば争いが起きる。


 懐かしいエピソードがある。

 彼女に政策を効かれ民主主義に付いて話した。

 大爆笑されたが彼女のが笑った理由を後に知る。

ーー

 彼女は春になると10人を集めた。

 なんでも民主主義をというものを験すらしい。

 領主は国王からある程度の自治を認められている。

 収益の何割かを王に支払う事で忠義を示す事になっているのだ。

 国や王を脅かすことがなければ自由に法やルールを決めてよいのである。


 集まった内訳は、農民が7人、商人が2人、貴族が1人だ。

「皆様に集まって頂いたのは、小麦の価格に付いて決めたいと思っています。

毎年、値段が変動し予測が難しくなっています。

そこで数年先を見据えて値段を決めようと思うのです」

 彼女の演説は長々と続く。

 集まった10人で、値段をそれぞれが言い一番良いものに投票すると言う形になった。

「今の価格が銅貨100枚です、此れを基準に考えてください」

「それなら200枚が良い」

「いや50枚の方が売れる」

「150枚ぐらいは欲しいな」

 色々な値段が候補として上がっていく、最終的に150枚か80枚の二択にするということが議論で決まった。

 投票が行われ150枚に決定された。

 彼女は微笑み、小麦の値段を150枚にしてしまったのだ。

 俺は驚いて言う。

「数人で決めたのは民主主義ではないです。

民全員で投票して決めるべきです」

「彼らは投票で選ばれたそれぞれの代表です。

貴方は選挙で選ばれた代表が国の方針を決めると言ったでしょう。

同じことではないの?」

「方針を決めるのは代表でも、意志の決定は皆が行うものです」

「これはとても愚かな行為よ。

政治について何も知らない素人が物事を決めて良い方向に動くはずか無いもの。

大局を見て考えなければ成らないの」

「素人?」

「貴方は政治に付いてどれぐらいしっているのかしら?」

「何も知らない」

「大半の民衆が政治に関わること無く生活しているわ。

そんな人の意見を真に受けて、国の方針を決めたらどうなる?

船に乗った乗客が、船を動かすようなもので何処へ向かうのかすら決められないわ」

「なるほど……、言われてみれば俺も関心はなかったな。

政治家が勝手にやっているものだと思っていた」

 そもそも選挙権も無かったし……。

 唐突にどれが良いのかを選べと言われても困るしな。

「貴族が国を動かし、民はその中で安心して暮らす。

それが最も良い形よ」

 いや、君は凄く怖がられて皆避けているぞ……。

 民からは嫌われているが彼女をよく知るものは親しく集まり人望もあるようだ。

 それは権力を奮っているからに違いない。

 公平な世の中なら、彼女により付くものは居ない筈だ。

 目的の為なら手段を選ばない冷酷な女だ。

 どれだけの人が彼女によって人生を歪められたかわからない。


 彼女は2枚の投票用紙を手に取り言う。

「小麦の値段を商人は値段を下げるように希望したわ。

それがこの2票、民主主義と言うのは多数決だから、

人口の多い農民の意見が反映されたのよ」

「少数派の商人には辛い国になったってことか、

……どうして貴族は農民側に付いたんだ?」

 俺は貴族は民から摂取するだけだと思っていた。

 商人にゴマすって利益を得るのは悪代官だけのことなのか。

 数の優劣で味方すべきと判断したのか?

「年貢は小麦で支払われるわ。

だから小麦の価値が高いほうが儲かるってわけよ」

「納得できた」

 俺はなんにも解っていなかった。

 ただ小麦の値段が上がっただけと思っていた。

 それは大きな間違いで、大規模な変化が有ったのだ。

 俺の目からそれは見えては居ない。


 秋になり彼女はまた10人を招集する。

「以前決めた、小麦の価格が良い結果だったのか反省をすべきなのか議論したいと思います」

 すると農民達は、値段を戻すように言い始める。

 対して商人は値段を更にあげるように言う。

 投票すれば、8票が入り農民側の意見が採用されたのだ。

「小麦の値段は以前の銅貨100枚にするわ」

 商人達は怒り出す。

「横暴だ、こんな事をしていたら商売に成らない」

「大勢に取って幸せなのが良きことです」

 髭面で明らかに私腹を肥やしているだろうなと言う雰囲気がする太っている男だ。

 それが激怒して言うのだ。

「せめて一年は同じ値段で統一すべきです」

「どうして?」

「私達が仕入れた時は150枚、売るときに100枚に価値を下げられたら50枚の損をするからです」

「貴方達は小麦を180枚で売っているではないですか。

130枚で売れば30枚の儲けになるのでは無いですか?」

「それは幻想です、値段が上がったことで買い控えが起きて在庫がでているのです。

ようやく売れるように成った所で値段を下げられた残った在庫分、損をします」

 小麦は主食であり物の価値基準となるものである。

「では段階を置いて値段を下げることにします。

来年は140枚、次は130枚と、此れでいいがでしょう?」

 農民達は突然意見を変え始めた。

「いや150で継続するのがいい、其の方がお互い困らなくて良いだろう」

「貴方達は値段を下げたいと言っていたでは無いですか?」

「年々利益が減っていくのは勘弁して欲しい」

 農民は余剰の小麦を売って生活用品を買うのだ。

 年々、小麦の価値が下がれば買えなくなって困るのだ。


 最終的に150枚で良いと言う結論に至る。

 

 俺と二人きりに成ると彼女は笑い言う。

「これが民衆の意思よ。

その時の都合によって意見ががらりと変わる」

「どうして変わったんだ。

農民は高く買い取ってほしいと願ったんじゃないのか?」

「あの時は収穫期で小麦が1.5倍の価値になれば、それだけ利益が見込めたの。

50枚分得をできると思ったわけよ」

 確かに持っている小麦が高くなれば、それだけ得する。

 金が1.5倍になるようなものだ。

 得するならもっと値段を上げたい筈だ。

「何が不満だったんですか?」

「小麦の値段が上がれば、それに応じて他の物まで値段が上がったわ。

商人達は小麦を買う為に以前よりも資金が必要になったからそれを補うためにね。

だから小麦を高く売っても利益に繋がらなかったのよ」

 ああ、一方が得をすれば誰かが損をする。

 損をした誰が補おうして他も損をする。

 彼女にはこの結果が解っていたのだろう。

 あえてそうなるように仕向けた可能性もある。

 俺は反論したいが、その糸口が思いつかない。

「政治が物の価値に干渉することが間違っている気がする」

 彼女は笑う。

「商人が物の価値を全て自由に決めていたら、困ることに成るわ。

例えば商人達が集まって値段を統一すれば、どこに行っても其の値段でしか買えないわけよ。

そうなれば高くても其の値段で買うしかなくなるの」

「法で縛れば良いんじゃないのか?

協合して価格を決めるのを禁止にするとか」

「その判断は誰がするの?

隣が値上げしたから、俺もと皆が揃えたら偶然にも値段が一致したことに成る。

それが談合によるものかは私には判断できないわ」

 ルールを決めるのは簡単だがそれを守らせ無ければ意味はない。

 蔑ろにされるルールを作ればそこから秩序は崩壊するのだ。

 誰が見ても解る違反で無ければ罪に問うことが出来ない。

「……」

「民は財産と同じものよ。

それを蔑ろにして乱暴に扱えば減ってしまう」

 彼女にとって民は財産である。

 民を減らさないために常に考え方針を打ち出す必要があるのだ。

 全体にとって得なことを考え無ければ、不幸の連鎖で崩壊する。

 それぞれの主張を聞き折り合いをつけて妥協点を模索する、それが彼女のやり方だ。

 ゾンビを創りたい為に俺を殺そうとした頃よりも随分と優しくになったものだ。

「皆が食べる物だから、皆に行き渡るように調整する必要があるのよ。

あの値段は民の意志で決めたことよ。

自分達が決めた事なのだから良い結果だと言うのが幻想だって事が理解できたかしら?」

「難しくて俺には解らない」

「貴族が民を導く、それは昔も今も変わらないことなの」

 俺が反論出来る事はなにもない。

 素人が舵をとれば危険だという主張は正しいようにも思える。

 何百年と国を存続させてきたのは実績が彼らにはあるのだ。


 この世界では、俺の考えは間違っているのかも知れない。

 何も考えずに民主主義が最高でそれが一番優れていると思っていた俺が恥ずかしい。

ーー

 過去の事につい考え老け込んでしまった。

 

 スケルトン達の成果を見るか。

 戦いは消耗がつきもので、10体いたスケルトンが今は6体に減っている。

「おいおい、4体もやられたのか。

俺が怒られてしまうだろう」

 青猪が6匹、青い毛の猪で人を踏み潰すほどでかい。

 10トントラックぐらいの大きさだろうか、走ってぶつかって来たら死ぬ。

 これは皮を剥いで加工できる。

 鉄鋼虫が3匹、固い金属のような外殻に覆われた人間より大きい甲虫だ。

 外殻を加工して防具としての利用価値がある。

 今までは兵士数十人で囲んで戦って戦死者が出るほどの化物だった。

 数体のスケルトンに持たせた毒剣で斬りつけるだけで簡単に倒せる。

 どれも草食で田畑を荒らす魔物だ。

 肉食の魔物と比べれば遥かに弱い、草食の魔物を狙うのは戦力が弱いからと言う理由だけではない。

 肉食の魔物は草食の魔物を食料としている。

 食料が減れば生きて行けず、戦わずとも減らせるからであった。

 

 ミケーレが愛おしく思えるのはやはり優れた才能があるからだ。

 使い物に成らないスケルトンですらこうして活躍の場を与えられる。

「どうにかして俺のものに出来ないのか……、

いやあの女は悪魔のような冷酷な奴だ」

 平凡な普通の暮らしをしていた俺には何の特別な知識もない。

 ゲームが何の役にも立たないのは、仮想現実は現実の自分を強くしないからだ。


 芸は身を助けるとは言ったもので、ゲームのルールは彼女に興味を持たせる程度にはなった。

 それはそこまでの話だ。

 身分と言う垣根を超えられる様なものではない。

 特に俺は奴隷以下だ。


「この死体をゾンビして支配下に置けないか?

もし出来たら制圧が楽になるんじゃないのか?」

 俺は彼女が行っているゾンビ化の工程を何度も見ている。

 青猪1体を実験に行ってみることにする。


 俺は彼女が言った言葉がわからないと言う意味を理解していなかった。

 実験は成功しゾンビとして動き出す。

「森にいる魔物を狩りつくせ」

「……」

 反応がない。

「どうしたんだ動け」

 青猪は人間の言語を理解していない為にゾンビになっても理解できないのだ。

 もし魔物を自在に操れたなら圧倒的な力で支配することが出来る。

 いやそれは有り得ない事だ。

 魔物を使って街に攻め込めば被害が出る。

 それは間違いなく魔王の所業である。

 そんな力で一時的に支配できたとしても長くは続かないだろう。


 数日後、そのゾンビは居なく成っていた。

 命令をせずに動く事は今まで無かったことだ。

「どういう事だ。

まさか暴走したのか?」

 もし街に被害があれば処刑されるかもしれない。

 足跡のようなものが残っている。

 それは森の奥に続く。

 森の奥は薄暗く、若干の霧が掛かり遠くが見えない。

 行くべきか迷ったが、増殖して街を襲う可能性を考えたら躊躇している場合ではなかった。

 スケルトンを操りくまなく探す。

「迂闊だった。

鎖でも繋ぐか燃やして処分すべきだった」

 今更、放置したのを悔やんでもしかた無い。


 昼間でも暗く松明に火を灯さなければ成らないほどだ。

 それでもあまり視界は広がらない。

 どれぐらい進んだのか、動物の鳴き声が聞こえる。

「不気味だな、こんな場所に住んでいるのは魔物ぐらいだろうし。

出てこないくれよ」

 その声の主を発見した。

 それは青猪の子である。

 ゾンビ化した母の乳を吸っているのだ。

 もうそれはゾンビとなり死んでいる。

 乳は出ないのだが、必死に泣き甘えているのだった。

「済まないがこれも人々を守るためだ」

 スケルトンに命じ、子青猪を始末した。

 そして、火を放ち燃やす。

 森に燃え移って大火事になる可能性もあったが、その時は考えが及ばなかった。

 ゾンビは燃え尽きると朽ち果て消滅する。

「これで隠匿出来たな。

もう二度と魔物をゾンビにしない」

 

 ゾンビには思考が無い機械のように命令を聞くだけと思っていた。

 実際は本能や意思が残ってて判断し動くことが出来るのだろう。

 だから子の事を思い動き巣に戻った。

 偶然とは思えない、思いたくないだけかもしれない。

読んでくださって有難うございます。


ぜひ楽しんでいって下さい。

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