魔法ってなんでも出来るんだね
4,
街の中央にある広場は処刑が行われる場所でも有るようだ。
丸太が組み立てられた台があり、階段を登り歩いていく。
既に人だかりが出来ていて処刑を待ちわびる人々の顔が見える。
台の上に白い布で覆われたテーブルが置いてある。
テーブルの上には座布団みたいなのに乗った水晶球が置いてある。
俺の後ろには三角錐の布を被った全身白の死刑執行人が立っている。
横に他の罪人が2人立っている。
髭面でもう極悪人にしか見えない男だ。
異様に臭い臭いもするし汚い服装でぼろぼろだ。
刑を見ようと野次馬が更にぞろぞろと集まってくる。
何時もは閑散としていた広場が見渡す限り人だらけで埋め尽くされている。
死というものに興味が有るのが人なんだ。
特に他者の死を見たい言う好奇心なのだろうか。
聖職者らしい男が台の上がり台詞を言い始めた。
「では彼らに罪があるか審査を行う。
彼らが無実であれば神は答え示すであろう。
では水晶球に手を乗せなさい」
俺から一番遠い奴から順番に処刑されるらしい。
順番待ちと言うのは怖いものだ。
男が水晶球に手を奥が何も起きない。
聖職者の男が顔を横にふり、目を閉じ祈りを捧げ始めた。
数人の執行人が男を抑え、後ろから引っ張ってきた輪の付いたロープを男の首に掛ける。
手を離すと男は天高く釣り上がる。
ロープの先は棒が付けてあり、それが立てられたのだ。
釣りをするような感覚で持ち上げられるのだ。
吊り上げられ左右に揺れている。
俺もあんな死に方をするんだ。
嫌だ、嫌だ……。
次の男も同様に吊り上げられる。
歓声のようなものが聞こえる。
前の時も歓声がしていたのだろうが、俺には聞こえてなかった。
次は俺だ。
鼓動が高まり足が震え歩けない。
全身が震え抑えることが出来ない。
執行人が両脇に立ち抱え運ぶ。
逃げたいが逃げ場はない。
静寂、人々が俺を見ている。
いや、俺が処刑されるのを楽しみにしているのだ。
彼らにとってはこれが娯楽なのだろう。
人の死ぬ所を見るのが楽しいなんてイカれている。
憎悪しか湧いてこない。
「さあ、手を置きなさい」
これに手を置けば死が確定する。
何度試しても魔法は使えなかった。
餅を食って死んだ時は、苦しかったがそれで意識を失ってしまって長い苦しみはなかった。
首を締められるというのはそれと同じなのだろうか?
いや、縄に力が掛かるから痛いにに決まっている。
ゆっくりと手を上げ水晶に震えた手を置こうとする。
あの少女がやってきて言う。
「貴方は彼らの様な死に方ではないわ。
特別に用意してあげたの」
十字に組まれた磔台を立て始める。
少女は長い金属の杭を手に取り言う。
「此れで体を串刺しにするわ。
先ずは手、そして足と順番に刺していくの」
恐ろしい言葉に俺は周りの反応をみる余裕が生まれた。
こんな恐ろしいものを見たい筈かないと思ったのだ。
絶対に反対するものが現れる。
そんな甘い幻想は直ぐに打ち砕かれた。
串刺し、串刺しと民衆が叫んでいるのだ。
子供だから許されるなんてことはない。
大人も、子供も公平に扱われるのだ。
終わった皆が死を望んでいる。
こんなことって有るのか?
俺は自分の命を守ろうとしただけなのに、それの何がいけないっていうんだ。
嘆いても何も始まらない助かるには魔法が使えると証明すればいい。
もう一度あの光景を思い出すんだ。
魔法はイメージする事だと言っていた、それだけに集中しよう。
俺は水晶球に手を置く。
火とは、熱である燃え上がる炎は丸く赤く激しく、みんな燃え上がれ誰も彼も……。
俺は憎悪に燃え上がり辺り一面が燃え上がる様子を思い描いた。
奴らを全員燃やし尽くす。
すると水晶球の中に炎が形ずくられた。
「やった!」
此れで助かる。
あの罪人のように死ぬことはないんだ。
少女は微笑み告げた。
「おめでとう、貴方は魔に魂を売った異端者よ」
「何を言うんだ。
助かるっていただろう」
「命は助かるわ。
但し……」
少女が微笑み、水晶球を手にする。
水晶球から水が現れ自分と同じ姿を作り出す。
「これが神の祝福よ。
あの恐ろしい炎は悪魔の証!」
俺は完全に嵌められたのだ。
手本を見なければ炎以外の選択もありえたのだ。
俺は悪魔憑きと呼ばれる異端者として扱われた。
平民が魔法が扱えては成らない、貴族が地位を得ているのは神の祝福である魔法があるからだ。
もし誰でも魔法が使えれば平民も貴族の地位を欲しがるだろう。
そうなれば奪い合いが起き秩序が崩壊する。
だから例外は認められないのだ。
初めから助かる方法はなかったのだ。
5,
あの少女は領主の娘らしい。
貴族の中でも上位にいる存在と言える。
俺は犬が付けるような皮の首輪を付けられた。
外そうとすると電撃の様な衝撃が走り力が入らず離してしまう。
静電気でバシッと感じると反射的に離れるあれみたいだ。
死ぬほどではないが痛い。
領主の屋敷の一室にいる。
屋敷は立派な建物で砦としての役目を担っているらしく、兵士や使用人が多く居住している。
不穏な動きをすれば兵士に斬り殺されてしまう。
だから大人しく主である、あの少女に従うしかないのだ。
少女は微笑み言う。
「私はミケーレよ。
貴方の主人たがらよく覚えておきなさい。
後、逃げ出しても其の首輪で位置がすぐに分かるから無駄なことを考えないことね」
「ミケーレ……、俺はどうなるんですか?」
「これから、貴方には魔道士として手伝ってもらうわ。
ゾンビの生産をするのよ」
「俺が?」
生かされた理由はやはり魔法が使えたことなのだろう。
芸は身を助けるとは良く言ったものだ。
現代の知識で何かを成し遂げたのではなく、この世界の法則に従って生き残れたのだ。
これは運というものなのだろうか。
「そう、街を守る兵力としてだけでなく、
田畑を耕し収穫したり鉱山で鉱物を掘ったりと利用価値は無限にあるわ」
それならゾンビよりゴーレムの方がよくないかと思ったが、この世界にゴーレムが有るのか解らない。
下手なことを口走れば何をされるか解らないから安直に口に出さない方が良さそうだ。
「ゾンビって、人を襲って増えたりはしないのか?」
「何言っているの。
制御しているのに人を襲うわけ無いでしょう」
そう言われれば確かに、魔法があるんだし襲われなくする方法があるんだろうな。
「それで貴方には広場に行って貰います」
ミケーレは、刑を執行され遺体となった男をゾンビにするようだ。
死体は、広場に吊るされたままになっている。
「はい、この首輪を付けたまま行くのですか?」
「いいえ、服を用意してあるわ。
外出する時は必ず、その服を着用しなさい」
俺は全身を黒装束で身を固め、鳥のような嘴の付いた仮面を付ける。
何でも聖なる衣らしく、邪悪な力を払いのける効果が有るらしい。
悪魔を封じて人々に害をなさないようにするための物と言う認識らしい。
この服装を脱いだりすれば、兵士に殺される事になる。
着替え終わると彼女は微笑む。
「貴方は私の奴隷よ。
離れず後ろに付いて来なさい」
彼女は見た目が派手な金の装飾を施した赤い服を着ている。
民の服は地味な灰色や黒、茶色ばかりで、直ぐに貴族だと解るようになっている。
着用して良い服の色が決められているのだ。
黒は奴隷階級らしい。
広場に到着すると驚いた。
石を拾って死体に向って投げる人々が居るのだ。
死体蹴りという言葉があるが、この世界では死体に投石なのだろうか。
「あれは何をしているんですか?」
「何って、被害者達が恨みを晴らしているのでしょう」
被害者って俺の場合は彼女なのか?
死んだ後に石を投げつけられるとか酷いことをするんだ。
そんな悍ましい行為が平然と行われるなんて非道すぎる。
元いた世界では裁判を行い大臣が死刑を承認しないと刑は実行されない。
ここでは裁判もなければ貴族の一存で生死が決まるのだ。
「あの男はどんな罪で処刑されたんだ?」
「殺人、強盗よ、商人の通る道で待ち伏せして皆殺しにして金品を奪ったのよ」
取り調べでも有ったのだろうか?
俺の時は何もなかった。
いや皆の証言で俺の居場所が判明したんだ。
「目撃者でも居たのか?」
「ええ、降霊術を行って殺された本人から聞いたわ。
ここでは殺人なんて愚行を行えば直ぐにバレるのにね」
俺は彼女が怖い。
ただ首輪をつけただけで自由に動けるようにしている理由も納得した。
もし彼女を殺したら、俺がやったことは直ぐに解る。
街の中で誰にも気づかれずに隠れて生きるという事も難しい。
誰かの目が常にある。
犯罪が起きるのは殆どが街の外である。
そこで生きていくには街の住人から奪うしかないほどに苦しいのだろう。
それに魔物がうろついていている。
戦う事はできるのか。
そんな環境で生きていけるのか?
従う事が一番生存出来る確率が高い。
彼女の姿を見た民衆は蜘蛛の子を散らすように何処かへ行ってしまった。
関わる事を恐れているのがよく解る。
民の命は彼女の意のままだから、関わって命を取られたら溜まったものじゃない。
「さあ、この縄を切って落としなさい」
俺は置いてあったナタを手に取り縄を切断する。
直ぐ側に死体が降ってくる。
彼女は死体に触れ、小声で何かを言い始めた。
すると死体が起き上がる。
「持って運ぶのはしんどいから歩いてもらうことにしたわ」
こんなに簡単に死体を操れるのか。
死体を運ぶ台車を用意しなかった理由もそれなのか。
「もうゾンビに出来たのか?」
少女は微笑むと教えてくれた。
「まさか、ゾンビ化には多くのプロセスがあるの。
これは死操術で、死体を一時的に操って動かす魔法よ。
貴方が死んだら体験させてあげるわ」
なんか良く解らないが、兎に角彼女に従おう。
死んでも彼女の意のままに成るなんて絶望しか無い。
魔法には必要な物が一つある、それが魔気と呼ばれるエネルギーだ。
人体には魔気を蓄えられる器があり、常に一定量を保持している。
例えるなら充電池だろうか。
許容量を超えるエネルギーを蓄えることは出来ない。
俺はそんな充電池みたいな役割がある。
彼女が使う魔法の魔気を分け与えるのだ。
彼女の手を握るだけで、力が吸い取られていく。
手に指輪が嵌められていて、それが魔気を吸い取るらしい。
彼女の手は温かい。
見た目は美しく可愛く、大人になれば美人に成る事は間違いないだろう。
「どうしたの顔が赤いわ」
嘘を付くと更に嘘を重ねて解らなくなっていく。
正直に言うのが一番楽な方法だ。
「女と手を握ったのは初めてだ」
残念なことに転生する前もだ。
生まれ変わって良かったと言えるのは異性に触れることが出来たことだろだろうか。
「そう、慣れなさい。
一つ忘れないで貴方と私では身分が違う、恋心なんて抱かないことね。
それは夢、もし現実にしたいと思ったら消えて無くなり目が冷めたら地獄を見る事になる」
彼女の言うことは本当なのだろう。
これまで彼女は嘘を言っていない。
すれ違う民は死体が動いていることに何の疑問も持たない。
神の奇跡だと信じているからだ。
やがて屋敷の裏にたどり着く。
そこが研究を行う場所だ。
丸太を組み合わせて作った小屋だ。
中に入ると台があり、そこに死体を寝転がらせる。
「流石に死体を直接触るのは気持ちが悪いでしょう?
そこの杖を使いなさい」
木の棒にしか見えない代物だ。
それを手に取る。
自分の背丈の倍はあり、結構ずっしりとして重い。
「半分ぐらいの長さの物はないのですか?」
「振り回すものではありません。
床を見なさい」
床には赤い線が書かれている。
線は円を描き、その円の中に文字や図形が描かれている。
魔法陣と呼ばれるものなのだろうか?
ゲームとかでもよく出てくる儀式を行う謎の装置だ。
いよいよ魔法使いらしく成ってきたものだ。
「この中に立てば良いのですか?」
「いいえ、外に立ち円の上に杖を置きなさい」
彼女の指示に従い杖を置くと魔法陣が輝き出した。
「それで何をすれば良いんですか?」
「そのまま立ってなさい」
「それだけですか?」
「そうよ。
他に質問はある?」
「いいえ」
「これから私は集中して魔法を操るから、其の邪魔をしないように身動きせずに、
ただジッとしているのです」
「はい、解りました」
彼女は何時になく真剣な眼差しで言う。
「もし集中が途切れれば魔法は暴走して貴方は手足を失うでしょう。
最悪の場合は死にます」
失敗の代償は大きいのが魔法というものらしい。
彼女は集中し詠唱を初めたが、何を言っているのか聞き取れない。
声が小さく早口だからだ。
暫くすると彼女の額に汗が出始める。
黙って立っているのは意外と疲れるもので辛い。
早く終わって欲しいと思いつつ待っていた。
「今日は此れぐらいにしましょう。
そこに有る布を掛けておいて」
「ゾンビが出来たんですか?」
「後数日、繰り返す必要があるわ。
貴方は体調はどうなの?」
気遣ってくれると思っていなくて驚いた。
「えっと疲れました」
「そうゆっくり休みなさい」
物置小屋で寝ることが許されている。
唯一の私物がこの寝る時に使う布だ。
その日はへとへとで、布に包まると直ぐに寝た。
次の日、爆音で俺は目が覚めた。
部屋を出て直ぐに彼女の元へと駆けつける。
「何が有ったんですか?」
「魔法の暴走よ。
小屋が吹っ飛んだわ」
「……失敗したんですか?」
「それはまだなんとも言えないわ」
後の調査で解ることだが、魔法の研究を盗もうとした使用人が誤って魔法を起動させたようだ。
魔法の研究は貴族の間では高く売買されている。
俺はその一部触れるということで監視がきつくなったのだ。
それから俺は、彼女の奴隷になり一生懸命、ゾンビづくりの手伝いを続けた。
生きるためには彼女の命令を忠実にこなす必要があった。
どんなに倫理に反し悍ましくともだ。
生きるためにはそれしか選択はなかったからだ。
魔法って不思議な力で起きる奇跡なので、それが何なのかを説明できるということは、
魔法ではないと言うことになります。
魔法の定義に反していますが、別の言葉にするとややこしくなるので魔法と記すことにしました。