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上手く隠したつもりでも秘密はバレるものですよ

13,

 朝、いつもの日課をこなし手に入れた原石をミケーレに見せる。

 彼女は一つ手に取り笑う。

「この石を加工する技術に高い価値があるよ。

ただカットして形を整えるだけなら普通の職人にも出来る。

それを魔法の媒体とするには専門の知識を持った魔術師の力が必要なの」

「どういうことですか?」

 魔法は貴族にしか使えない特権みたいなものだ。

 魔術師が居るのは不思議な話だ。

「金貨1枚と同じぐらいの費用が掛かるのよ。

つまりこれ自体には殆ど価値はないの」

 魔術師について直接聞くと不審がるかも知れない。

 彼女は常に金儲けを意識している。

 それを上手く利用すればいいだけだ。

「加工する方法は無いのですか?

俺が作れば費用が浮きます」

 ミケーレは呆れた表情で言う。

 こういう時は見下している時だ。

「それは無理ね。

簡単に出来ないから技術料が高いのよ」

 

「やってみないと解らない。

俺にも出来るかも知れない」

「そんなに言うのなら紹介状を書いてあげるわ。

ただという訳には行かないけど……。

成功報酬でその宝石を一割で良いわ」

 これに直ぐに食いつくのは危険だ。

 リスクを回避しないと後で何が有るか解らない。

「失敗したらどうなんです?」

「貴方の評価が下がるだけよ」

 一年給料が無いの方がまだマシかも知れない。

 彼女からの評価が下がれば命が危ない。

 だがチャンスを勝ち取らなければ彼女に認められることもないだろう。

「解りました。

お願いします」

 

「エリザが来ているわ。

少し相手をしてあげなさい。

その間に紹介状を書いておくわ」

 エリザは気を持たせて最後には別れる相手だ。

 余り会いたくない相手でもある。


 何時ものように客間に花を持っていく。

 花瓶の花を取り替える。

 今日は気分が優れないので青い花を選択した。

 飾る花は何でも良い。

 見るのはメイドだからだ。

「この部屋には昨日の黄色い花のほうが素敵だと思います」

「そうかな、どうしてそんな事を思うんですか?」

「あの花はいい香りがしていました。

はい、これは何時ものプレゼントです」

 嬉しい気持ちはあるが、親切をされるほど裏切る事が罪悪感のように感じる。

 どう断れば良いのだろうか?

 あからさまに断れば怪しませれるだろう。

「まだ俺を一人前だと思ってくれないんですね。

対等な関係なら贈り物を一方的に渡すなんてことはない筈だ」

「はい、では私と?」

「違う……」

「男として認められたいと言うのですね?

ですが貴方は……」

 悪魔憑きだということをエリザは知っている。

 貧しく生活するだけでやっとな事は解っているのだ。

 だから施しとしてプレゼントを送ってくれていた。

 チョコを布で包んだりとか、悟られないように気遣ってくれていたのだろう。

 ミケーレの言う通り、エリザに手を出したい程に優しく良い女だ。

「俺にも財産がある。

この原石だ、これを加工して魔法の道具にすれば儲かる。

これを半分、君に託す」

「解りました」

 エリザは原石の入った袋を手に取ると何処かへ行く。


 何やっているんだ。

 あんな物を渡しても、今は全くの無価値だ。

 今までの礼にも成らない。

 技術を磨いて、役に立つ形にしてから渡せば良かった。

 今更後悔しても遅い。

「ああ、今は前に進むことだけを考えないとな。

技術を覚えて富を得るんだ」

 再びエリザが戻って来る。

「どうしたんだ?」

「この原石は貴方が選んだのですか?」

「いや、鉱山のおっさんが適当に選んで入れてくれた」

「粗悪品を掴まされたようですね。

殆ど使い物になりません」

「どういう事だ?」

「コップを宝石で魔気は水と考えて下さい。

魔気を注いでも小さな宝石には少ししか蓄えられないのです」

「それなら魔法陣のように繋げば良いんじゃないのか?」

 電池でも連結すると電気の量が増し電球を強く光らせる。

 魔法も同じように繋げてしまえばいい。

「魔法陣?

それは何なのでしょうか?」

 思わず言いそうに成ったが、それはゾンビを作る時の儀式に使っていた魔法だ。

 うっかりしゃべると首が飛ぶ。

 いや首吊りか……。

「それは、えっと……、秘密です」

 エリザは微笑むと、俺のメモ帳を取り図形を書き始めた。

 魔法陣を知っていたのだ。

「ゾンビの生成には魔法陣が使われているのですね?

だから聞き直した時に秘密だと答えましたね」

「さあな、君はずるい」

「貴方もズルいです」

 エリザはメモ帳を読んでいる。

 彼女には読めないはずだ。

 いや、彼女はそんなに間抜けか?

 直ぐにメモ帳を取り返す。

「これは他人が見て良いものじゃない」

「そう、スーと言う方にプレゼントを送ったのですね?」

「あれは仕事の笛だ。

人見知りが激しく話す事が苦手なんだ。

小声だとゾンビに命令出来ないんだ」

「そうですか、笛で命令をするのですね。

それならその笛があれば誰でも言うことを聞かせることが出来ると言うことなの?」

「そんな間抜けなことは無い。

ゾンビには主を覚えさせている。

その命令しか聞かないように……。

あっ……、今日はやけにゾンビの事を聞くんだな」

「貴方と結ばれる運命かも知れないのに、

貴方の事について何も知らないのは寂しく有りませんか?」

「えっあっ……、それでも秘密は守らないといけない」

 エリザは俺の変化を察しているのだろう。

 よそよそしい感じになってしまったか。

 ああ、やっぱり秘密にできそうにない。

 日に日に、騙す事が辛くなっている。


 エリザは俺の手を握り言う。

「貴方が以前言っていた世界が球だという話し、

私も気になって調べたのです」

「それで……」

「世界には端が有りました。

でもそこから更に先が存在するのです」

「どういう事だ?」

「私達の住む世界は、例えるならこのテーブルの上にある一部でしか無いということです」

 元いた世界は、そんな突起した大地の上に海は無かったが、ここでは有るようだ。

「つまり……、球体の可能性は残っているのか?」

「はい、本当の端を見たものはいません。

ここから降りて戻ってきたものが居ないから先は解らないのです」

 どうしてこんな話を切り出したんだ?

 何か意図があるはずだ。

 まだ情報が少ない様子見するか?

「……」

「私も未知へ挑むことにしました。

それで戻ってこられなく成っても後悔はしません」

「端の先を見に行くのか?」

 エリザは俺の手を引っ張り、引き寄せると抱きしめる。

 なんだこの展開は……。

 まて、こんな所を見られたらまずい。

 咄嗟にエリザを突き放す。

「それが貴方の答えですか?」

「急に抱きつかれたら誰だって驚くだろう」

「好意を持つなら、それぐらいは許すでしょう?

今まで殆ど受け入れてきたのに、拒絶するのは心境の変化が有ったから、

もう決められたのですね?」

「迷っている。

焦っている君は好きじゃない。

運命と受け入れるんじゃなかったのか?」

「ミケーレ様に今日、貴方と約束を取り付けないと終わりだと言われました。

これで最後、もうお別れです」

「そうか……、解った今までありがとう」

 エリザは目に涙を貯めていた。

 主人に怒られるからだろう。

「フラれるのは悲しい。

尽くしたつもりに成っていただけなのですね」

「……君を選びたかった。

運命なんだ」

 思い返しても、エリザとの楽しい会話しか思い出せない。

 もう一人のメイドは名前すら思い出せないほど印象が薄い。

 毎日あって会話していたはずなのに、仕事の話しかしないからだろうか。

 エリザと会えなくなるのは寂しい。

 なんて俺は身勝手なんだろうな。

「貴方は運命を信じていないのでしょう?

私も貴方に心を動かされて、運命に逆らってみたいと思います」

「えっ……」

 再びエリザは抱きつき耳打ちする。

「私と付き合っていると偽りでも良いから告げて下さい。

貴方が文字を書いている所を見ていました。

書いた文字はある程度は私も読めるのですよ」

 未知の言葉であっても、翻訳が出来るのは文字には決まりがあり法則があるからだ。

 目の前でそれを見せていたのだ。

 いろんな質問をして、何を記したかを見ていけば法則は読み解かれる。

 だからあの時手帳を奪って読んだのだ。

 確認だったのだろう。

 スーのプレゼントの話は目撃した訳でもなく、手帳からの情報なのだろう。

 スーの話は彼女に一切していないのだ。

「何処まで知ったんだ?」

「さあ、何を記していたか確認すれば良いでしょう」

 スーに教えるために、ゾンビの事をまとめたりして詳しいことを書いている。

 もしそれを見られていたら、流出させた罪に問われるだろう。

 魔法の技術は財産で、それが漏れるという事はかなりの損失になるからだ。

「……解った。

君と付き合う……」

 ミケーレが決めたことに逆らって良いのか?

 既成事実を作れば仕方ないと言っていた。

 だから良いのか?

 逃げ道を作り、そこに追い込むが彼女のやり方だ。

 なら、これは間違った選択だろう。

 どうしよう……。



14,

 客間の椅子に呆然と座っていた。

 そこにエリザは居ない。

 報告をする為に帰ったのだ。

 

「俺は状況に流されるだけの男なんだ。

もう破滅だ!」

 戸をノックする音が聞こえ、ミケーレが部屋に入ってくる。

「あらとんでもない事をしてくれたわね。

私が選んだ方を無視してどう責任を取るつもり?」

「ゲームは思い通りにならないものだ。

期待した結果に成らないからと言って怒るのは大人げない」

「私の駒が勝手に動いて、意図しないように進めたら、

それは私の手ではないわ」

「だったら処分すればいい。

信用を失うことに成る」

「エリザに入れ知恵されたのね。

まあ良いわ。

もう一人のメイドにも告白しなさい」

「どういう事だ?

二股をかけるのか?」

「エリザは行方不明に成ったわ」

「えっ……、まさか殺したのか?」

「いいえ、取引したの」

「……無かったことにしたのか?」

「ええ、そうよ。

彼女は何処かで優雅に暮らすことになるでしょうね」

「そんな如何様みたいなこと……」

「貧乏貴族と結ばれたら、富が減るだけよ。

だから大きな損をする前に小さな損をして回避しただけのことよ」

 

 結局、運命と言うやつには逆らえないらしい。

 ミケーレが決めた事は絶対で変更不可なのだろう。

 逆らえば損をするのは自分だ。

「解りました……」


 その後メイドに会い告白した。

 どんな事を話したのか解らない。

 ただ命令されたことを伝えただけだ。

 


 気がついたら手紙を持っていた。

 それは紹介状が付いている。

 ミケーレから貰ったものだ。

 内容を見て愕然とした。

「一ヶ月間は屋敷に出入りすることを禁ずる……。

何処に行けば良いんだ?」

 財産は僅かな金と原石の入った袋だけだ。

 これからどうやって生きていけば良いんだ?

 この原石は役に立たない石ころ同然だ。

 今直ぐ稼げる方法を見つけないと野垂れ死ぬことに成る。

 ああ……、なんでメモ帳を直ぐに奪い返さなかったんだ。

 あの時、見られる前に取り返していたら、あんな承諾をする必要も無かった。


 悩んでいるとリリアナが声を掛けてきた。

「早く支度を整えて下さい。

スーが待っています」

「どうしてスーが居るんだ?」

「メンテナンスを行うためです」

 そうだ、メンテを行う準備をしていたんだ。

 色々なことが有りすぎて、真っ白になっていた。

「俺は屋敷を追い出された。

メンテはスーに任せる」

「何を言っているのですか?

仕事はいつものようにこなさないとミケーレ様に殺されますよ」

「俺が居なくてもスーは出来るはずだ。

リリアナがスーについて行ってやってくれ」

 まず明日からの生活について考えないといけない。

 スーに構っている余裕はない。

「私は貴方を監視する役目があります」

 ゾンビのメンテは効率化を行い、移動する手間が少ないように日程を調節して以前よりも短時間で済むようになっている。

 それはスーの体力を考えて余り長距離の移動を行わないように改善したからだ。


 ゾンビのメンテが終わってから宿を探す時間はある筈だ。

「じゃあ行くか」

 終わったことを考えてもしかたない。

 技術を磨いて俺の価値を高める。

 これ以上、信用が無くならないように。


 スーは頷き付いてくる。

「そろそろ慣れんたんじゃないのか?

一人で……」

 スーは泣きそうな顔を横に振る。

「解った、今は一緒に仕事をしよう」

 スーは俺の手を握る。

 まだ知らない人が居ると不安を感じるのだろう。

 人々は勝手に俺を避けて通るから、邪魔されること無く進める。

 リリアナは特に嫌われている為に逃げるように人が消えるのだ。


「そうだ俺と同じ衣装を着るか?

これは神聖な力があって悪魔を遠ざける力がある」

 そんなものは信じては居ない。

 これはただの衣装に過ぎず身分を表す物だからだ。

 スーが頷く。

 リリアナは笑い言う。

「ゾンビの皮でも被ったほうが、身分を示せますよ」

「ゾンビも冗談を言うんだな?」

「いえ、これは本気です。

身だしなみで職業を解るようにする事は良いことです。

仕事を呼び込む宣伝と成るからです」

「そうなのか?」

「あの頭に羽を付けている兵士は伝令です。

魔物が現れた時に伝えれば、直ぐに兵士を集めて対応してくれます」

 周りの人達を観察して見ていなかったが、珍しい格好をしている人が稀にいる。

 それがトレードマークとなって居るのだろう。


 ゾンビ使いと知らせる事にメリットは有るのだろうか?

 ゾンビはミケーレの所有物だ。

 貴族に逆らう事は死を意味する。

 身を守るという点では、悪魔憑きの衣と変わりない。

「余計な考えだった。

自ら嫌われるように目立つのは得策ではないな」

「いいえ、証を持つことは良いことです。

身分を証明できるということは信頼に繋がります」

「なるほど……」

「ミケーレ様に、ゾンビの管理者としての証を作ってもらえるように、

頼んでおきます」

「ありがとう」

 リリアナも割と優秀だよな。

 特別な処置を行ったためか、ほかのゾンビよりも記憶の劣化が少ない。

 まだ意思疎通が出来ているのだ。


 俺もこんなゾンビにされてしまうのだろうか?

 死んでいるのか生きているのか解らない状態。

 今の俺に近い。

 


ご愛読有難うございました。


暫く更新を休ませて頂きます。

ストックができたら再開します。

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