第3話「はじめての冒険:洞窟探検・その4」
なんだかんだんで、様々なお宝や、お宝…と思われる何か、を見つけた冒険部一行でしたが、
人の持つ武器ではなさそうな武器を見つけ、まだ見ぬモンスターへの警戒を強めていたのでした。
「でも、本当にゴブリンなんているんですかね?」
「分からないけど、あんなものがある以上、スライムしか居ないっていうのもおかしいとは思うわよ」
入った時よりも、随分と重装備になった白金君と倉井さんが前で話しています。
倉井さんは背中に大きなリュックサックを、
白金君もリュックサックに加え、大きな金色の剣を背負っています。
一応、私も私で腰のポケットはアクセサリやらでパンパンになりつつありますが…
フリーなのは夏輝さんくらいです。
「キリの良い所か、夏輝の荷物がいっぱいになったら帰るわよ」
「はーい」
洞窟を深くまで探検し、インベントリがいっぱいになったら帰るという、何処かで見たような冒険の仕方をしながら洞窟を進みます。
奥深くに行くにつれ、洞窟の雰囲気は段々変わって来ました。
土が減り、足元は岩のような固い地盤が増えて来て、その岩もゴツゴツとした感じではなく、表面は滑らかに、でも近寄るとザラザラしている、そんな岩が増えてきました。
とはいえ、さっきのような宝箱のようなものは見つけられず、精々地面に放置された、折れた剣や、散らばった小銭程度しか見つけられません。
…でも、
「折れた剣ねぇ…やっぱりスライムとは違う何かが居そうな雰囲気よね」
「やっぱりそう思います?」
なんとなく、戦闘の跡が増えているような気がします。
剣で切り裂かれたような岩の跡、捨てられた紙のクズや割れたビン。
黒く染まった布切れ等…
「あ、ほら。さっき見た小さい剣がここにもあったわよ」
「んー…今度は真っ二つになってるね」
「やっぱバリバリに使われてますね…」
通路の端っこに、先ほど宝箱の裏に落ちていた小さな剣が、また落ちていました。
今度は、真っ二つに折れています。
「やっぱり注意しておいた方が良さそうですね」
私が出来る注意が何のかは置いておいて。
一応、いつでも魔力を出せるよう、胸の奥を意識しながら進む事にはしましょう。
そうして洞窟の奥へと進み続ける一行は、広い空間に出ました。
道中では明る過ぎると評判だったランタンの明かりも、広場の奥の方はあまり照らされていないほどです。
「随分と広い場所に出ましたね」
「中央はそれなりに平坦みたいね」
広場の真ん中の方はあまり凹凸もなく、行動しやすい地形です。
逆に上を見て見ると、鍾乳石が垂れ下がり、刺々しい岩が大量に広がっています。
大きなもの、小さなもの大きさはバラバラですが、どれも一様に鋭く尖っています。
「結構キレイな場所ですね!」
「あれだね、ボス部屋、って感じがするよね!」
「ちょっ、そんなフラグみたいな事言わないでくださいよ!」
そんな怪しい事を夏輝さんが呟いたその時、
「ググーーーーッ!!」
こう、言葉には表せない、呻き声のようなものが洞窟の奥から聞こえました
「「っ!!」」
私たちの声ではない、何なら人間ですらない声に、私達はお互いの顔を見ながらフリーズします。
「…今のって…」
「私じゃないよ!?」
「知ってるわよ‥そうじゃなくて」
「間違いなく…居ますよね…」
「ですね」
そんな事を言いながら声がした方を見ながら、私は後方に、白金君と夏輝さんは前方に位置取り、
戦闘態勢を取ります。
皆が武器を構え、私はその皆に魔力を振りまきます。
そして、いざ踊り始めようと腕を高く上げた時、
「「「グギャアアアーーー!」」」
甲高い叫び声と共に、沢山の何かが奥から飛び出してきました!
「こいつは…!…ゴブリン……?」
「名前とかどうでもいいからやるわよ!」
出てきたのは、私たちの半分くらいの身長で、毛のない土色の肌をした、二足歩行の生物です。
激しく動いているので細かいところはよくわかりませんが、大きな目と口をしていて、皮を適当に繋いだ感じの粗末な衣服のようなものを身に纏っています。
そして、今まで見てきた、縮尺の小さい剣のようなものを持った個体も居ます。
「あ、あの剣は…!」
「やっぱりこいつらの武器だったんだね!」
我先にと飛び出して来たゴブリン(仮称)の群れは、後ろに陣取った私以外の3人に襲い掛かってきます。
小さな剣を振りかぶり、助走の乗った一撃を放ち、白金君はそれを左手の盾で受け止め、広場全体に耳をつんざくような音が響き渡ります。
「っと…!」
「ハル君大丈夫!?」
「やっぱりスライムとは全然威力が違いますね…!」
そう言う白金君の盾には、盾に一線、目に見える傷が付いていました。
「これは生身で受けたら大変な事になりそうね…」
倉井さんも、ゴブリンの攻撃を走って避けながら、氷の銃弾を乱射しています。
どうやら、剣を持っていないゴブリンも、腕に鋭い爪があるらしく、それを使って引っ掻き攻撃をしてきているようです。
「これ、何とかなるのかなぁ!?」
「何とかするしかないのよ」
「そ、そうですね!皆、頑張ってください!」
踊って応援する事しか出来ない私ですが、その応援が重要なのも知っています。
だからこそ、こっちに敵が来ない事を祈りつつ、踊り続けます。
「…スライムなら数匹に囲まれても楽だったんですけど、コイツはそうはいきませんね…」
けれど、その踊りによる強化をもってしても、ゴブリンの集団は強敵の様です。
剣と盾を持つ白金君も、それぞれで一匹ずつを相手にするのが限界で、
倉井さんも、避けるか撃つかのどちらかしか出来ておらず、その銃弾もあまり当たっていません。
夏輝さんはというと…
「さっき編み出した新技を喰らえー!!」
メイスステッキの中心に眩いほどのオレンジ色の光を纏いながら、全力で振りかぶって、ゴブリンに突撃していました。
そんな光景に私を思わずツッコミを入れます。
「それただ光ってるだけじゃありませんでしたっけ!?」
つまりその振りかぶりは、ただ光ってるだけの普通の一撃のハズ…
「大丈夫!なんとなくやり方は分かった!!」
「えぇ…?」
そう言いながら夏輝さんはゴブリンのすぐ近くまでダッシュしていき、その勢いを載せるように、思い切り振り下ろしました。
ドスンッ!
しかし一撃は、ゴブリンの咄嗟のバックステップによって、ギリギリで交わされてしまいました。
「まだまだー!!」
攻撃を躱されて、メイスステッキが地面にめり込んだその瞬間、オレンジ色の光が一気に弾け、
ドォォォォンッッッッ!!
と、大きな音と共に、地面が揺れる程の衝撃が発生し、躱したはずのゴブリンが吹き飛ばされます。
それどころか、その周りにいたゴブリンも巻き添えで吹き飛んでいました。
「…は?」
「え、ちょ、何事ですか?」
「ギャァァギャァァ!!」
皆何が起きたか分からず、戦いを止めて立ち尽くしています。
私は踊るのを止める訳にはいきませんが、それでも幾分かゆっくりな動きになっていたでしょう。
「い…今のは…?」
「へっへっへ」
夏輝さんはドヤ顔でポーズを取りながら答えました。
「必殺!"地面バスター"!!!」
「どうしてあなたは魔法も近接攻撃特化なのよ!!」
しかも名前なんかダサイし…
でも、高威力の範囲攻撃という存在は、ゴブリン相手に中々効果的だったようです。
吹っ飛ばされたゴブリンの内一番近くに居た個体は力尽きたのか、ピクリとも動きません。
その周囲に居た物も、だいぶ弱っているように見えます。
「ふっふっふ、次にぶっ飛ばされたいのは誰かなー?」
「グゥゥ…」
ホームラン宣言のようなポーズでドヤ顔を決める夏輝さんに、ゴブリンたちは明らかに警戒しています。
防戦一方だった戦いに一筋の光明が差したようにも見えます。
「まーこれ、魔力のチャージに時間かかるんだけどね!」
「ってことはやっぱり耐久戦なんですね!」
「まぁ…あんなの連発出来る訳無いですよね…」
「って訳で白金、私とあなたで夏輝と紅葉を守るわよ!」
「了解です!」
そこからは、私達も戦法を切り替えて戦いが続きます。
夏輝さんが地面バスターの魔力を溜め、ぶっ放す。
それを成功させるために白金君が盾になり、その隙を倉井さんの射撃が埋める。
それを実現させるために私が皆を強化する。
そんな役割分担で、この場を切り抜けます。
「っ!!」
「大丈夫ですか!」
「ええ、擦り傷程度よ」
肌の露出の多い衣装を着ている私は攻撃を喰らうとマズイ部位が多い上に、踊っているので満足な回避が出来ないので、接近されると危険なわけですが、
多少の傷を負いながらも、前衛の二人が必死に前線で食い止めてくれています。
そうして、ある程度の時間を稼げば、
「行け―!地面バスターッ!!」
また、洞窟が崩落するんじゃないかと思えるほどの振動が走り、ゴブリンが数匹吹き飛んでいきます。
まだゴブリンは沢山残っていますが、この調子でいけば、何とかなるかもしれません。
そう思った矢先、
「あっ!部長、右です!」
「えっ!?」
白金君の叫び声が耳に届きました。
後ろ…?
踊りを止める訳にはいかず、腕の動きを止めないまま、ステップを踏むように体を回転させて右を向いてみると、
傷を負ったゴブリンが一匹、剣を構え、今にも飛び掛かりそうな体勢で構えています。
「っ!!」
「くっ、いつの間に…!」
白金君は3匹のゴブリンを足止めしている最中で、倉井さんも持っていた銃剣の剣部分でゴブリンを貫いた瞬間で、こちらに銃を向ける余裕は無さそうです。
しまった…!
そう思うよりも早くそのゴブリンは跳躍し、勢いよく剣を振りかざしてきます。
今の私に剣を受け止める術はありません。
一応腕のブレスレットは金属製ですが、それも細くそこで受け止めるのはリスクが大きいです。
「いゃあぁぁ!」
それでも何とかしようと、最後のあがきで、右腕を振り払った瞬間、
ゴゥォッ!!
と、視界が赤い光で埋め尽くされます。
と同時に突風のようなものが巻き起こり、私の髪と服を激しく揺らします。
それは襲い掛かって来たゴブリンも同じ様で飛び掛かって来ていたはずなのに、
今は目の前の地面で、黒い煙を上げながらのたうち回っています。
気が付くと、振り払った右手の先には赤い光が揺らめいていました。
これは…炎…?
何が起きたのかよくわかっていない状況でしたが、なんとか危機は乗り切れたようです。
奇襲に失敗したゴブリンは起き上がろうとしたところを倉井さんに打ち抜かれ、岩に叩きつけられて動かなくなりました。
「紅葉…攻撃できたの?」
「わ、分かりませんけど、出来たみたいですね…どうやったのかは分からないから期待はしないでくださいね!!」
魔法というものがどういうものかはまだ分かりませんが、決して私たちに扱えない代物というわけでは無さそうです。
とはいえ、またすぐに同じ事が出来るかと言えば、答えはノーです。
「分かった。とりあえず今は継続して夏輝を主力として戦うわよ!」
「「「了解!」」」
しかし…
「「グゲェェェ!!」」
ゴブリンたちは、またも咆哮しています。
また聞いたことのない声ですが、何を意味しているのかは分かりません。
それでも私たちがやる事は変わりません。
そう思っていたら…
「「「ギャアアア」」」
「「「グゥゥゥ!!」」」
「え…嘘…」
「なっ…」
洞窟の奥から、今戦っているゴブリンが、次々と走って来たのです。
数はおおよそ…最初に出会った数の3倍…
今いるゴブリンと合わせて4倍ほどの量のゴブリンが、広場に集結しているのです。
「これは流石にヤバくないですかね!?」
「ちょっと予想外だね…」
「奥にこんなに潜んでたって事かしら…!」
最初に出てきたのはただの門番。
今出てきたのが、本当の戦闘部隊、と言った所でしょうか…?
ゴブリン達は奥から出てきているのでまだ距離がありますが、接敵すれば間違いなく勝ち目は無いでしょう。
なので、この広間の入口の方を指しながら必死にアピールします。
「て、撤退しましょう!帰りましょう?」
「…ダメね」
しかし提案は倉井さんに却下されました。
「相手の方が足は速いわ。普通に逃げても追いつかれるでしょうね」
「それは…」
「私や夏輝はともかく、ヒールの紅葉とか鎧を着てる白金は間違いなく無理」
「…」
じゃあ、どうすればいいのでしょう?
周囲にも、私たちとゴブリン以外、何もありません。
「…いや、方法が無い訳では無いわね」
ゴブリンの攻撃をいなしながらも、倉井さんは何かを考えているようです。
倉井さんは、そのゴブリンを銃剣で切り払った後、私の方を向いて、言いました。
「紅葉、あなた踊りながら走れるわよね?」