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第3.5話「魔法と踊りのパワーその1」

激動の洞窟探検を終えて、元の世界に戻ってきた私。


…なんとなく、こちらの世界の変わらぬ日常に、物足りなさを感じてしまっています。

あの頃の刺激が忘れられない、というとちょっとアレな表現ですが、似たような感じです。

身体強化の踊りを体育で使えたら成績上がるのかなぁ、なんて考えたりして、そのトリガーが踊りなので、授業中に踊る必要があるわけですが、クラスメイトの前で踊るなんて恥ずかしいし、何よりそんな暇はない。

そんな事をつらつらと考えてしまうのでした。


『というわけで、日本と中国の外交は…』


目の前で行われている現代社会も、心ここにあらず、

…というわけにはいかないのでちゃんと聞いてはいますけれどね!?


けれど…






「やっぱ来ちゃうよねー」

「あ、あははは…」


目の前に広がるのは、にぎやかな街並みと、そこを行きかう個性的な人々。

放課後に、こっそりと異世界に来ているのでした。


一応、ルールでは最低でも2人で行動するようにと決めたので、夏輝さんを誘って来ています。

夏輝さんも、こっちの世界の方が楽しいらしく、二つ返事で来てくれました。


「早くその衣装着てみようよ!」

「あ、後でね…?」


私の背中には、例の衣装が畳んで背負ってあります。

こっちに行くときに、

「前回忘れちゃったし、せっかくだから試着してみよう?」

と言われ、体の良い断り文句も思いつかず、結局持ってきてしまったのでした。


「でさ、今日はこっちで何しようかな?」

「とりあえず、次の冒険までに魔法の勉強しておきたいなぁって思いましてね」

「あっ、わかるー」


それが今回の目的です。

2人とも、冒険中に自力で編み出すことが出来ましたが、それが正しいものなのかも不明ですし、

出来ればもっと効率的で強力な物を習得したい、と思った魔法職のオタクなのでした。


それについては夏輝さんも協力してくれたようです。


「でも魔法の勉強って、どこでするんだろうね」

「なので、とりあえずギルドに行ってみましょうか」

「迷ったらギルドだね!」


何もわからない私たちにとっては、ギルドは最早インフォメーションセンターなわけです。


いつものリスポーン地点はギルドの裏の路地なので、ギルドまでは30秒もかかりません。

というわけでギルドのある大通りまで出てきた私達。


もう若干、今の衣装で大通りに出る事への抵抗が薄れている私が、少し怖く感じます。

元の世界では、絶対に出来ない恰好ですから、色々な意味で、こちらの格好に慣れるわけにはいかないのです。


大通りはいつも騒がしいですが、今日はギルド前に人だかりが出来ているようです。


「なんかやってるのかな?」

「行ってみましょうか」


夏輝さんも気になっていたようなので、目的地も一緒なので少し様子を見に行くことにしました。

近寄っていくと、何かの声が聞こえます。


「皆さんありがとうー!!」

「「「ワアァァァアァ!!」」」


人ごみの中心部は良く見えませんが、中心にいる誰かを皆が見ていて、それに歓声を送っているようです。

駅前でストリートパフォーマーが何かやっていると、たまに見る光景ですね。


「ううん・・・見えませんね…」


人の輪の外側をウロウロしつつ周囲を見ますが、どうしても中心部が見えません。

すると、人の輪の端っこ、ギルドの壁の辺りから夏輝さんが顔を覗かせて手招きをしています。


「こっち、こっち隙間あるよ!」

「ホント?」

「うん、綺麗な人が踊ってた!」


そう言うのでそちらに行ってみると、確かに人一人分くらいの隙間が空いています。

そこに押されて服が脱げないように、かつヒラヒラの部分がどこかに引っかからないよう注意しながら体をを突っ込んみます。

ギルドの壁と腕や腰が擦れてちょっと痛いですが仕方ありません。

そんな隙間を抜けて、輪の中心を見てみると、


「…あっ」


そこには見覚えのある姿が、

やんわりとした顔つきと、私よりもずっと濃い、濃紅の艶やかな長髪。

それは以前、私が踊り子の職を得た時にギルド前で見た、同じく踊り子と思われるお姉さんでした。

どうやらまたここで踊りを披露していたようですね。


まるでフィギュアスケートのようにその場でクルクルと回転していて、それに合わせて布がはためき、

その周りを火の粉と雪の結晶のようなものが同時に舞い散っています。


煌びやかで美しい衣装と、それを魅せる華麗な動き、そして現実にはあり得ない光景に見とれていると、


「私ももっと見たいー」


と夏輝さんの声が後ろから聞こえてきます。

ですが、ここは1人分の横幅しかないので、なんとか二人、縦で見られるようにと、そこし屈んで、中腰の体勢になりました。

夏輝さんもそれを察して、私の上に覆いかぶさるようにして乗り出して来ましたが、いかんせんここは狭くそれ自体の難易度も高いので、だんだんと背中に背負ってたはずの衣装がずれ上がって行っているのを感じます。具体的には、後頭部に、何か堅いものが押し付けられています。


そえだけならまだ良くて、その下のビキニトップの紐に影響が無いかと考えていた時、


「あっ」

「え?」


バサバササ!

と急に私の視界が何かに覆われて、何か軽いものが下に散らばる音がします。


「うわ、やっちゃった」


膝に手をつく中腰の姿勢ではそれを咄嗟に振り払う事は出来ず、ぶんぶんと頭を振る形でなんとか振り落とすと、

下に落ちていたのは、背中に背負っていた、洞窟で拾った踊り子の衣装でした。

結んでいた紐が解けてしまったのか、光沢のある綺麗な布地が、ばさりと地面に広がっています。


「…あら」


視線を上げると、さっきまで踊っていたお姉さんが、踊りを止めて、地面に落ちている衣装をまじまじと見つめています。

そして、それに伴って、お姉さんを囲んでいる人の輪の視線も、私と、その衣装に集中します。


「あ、えっと、すいませんっ、すぐ何とかするので…」


パフォーマンスを妨害していしまった罪悪感や、視線が刺さりまくる気恥ずかしさで、多分顔を真っ赤にしながら地面に散った衣装をかき集めていると、


「…貴女、新人の踊り子さんね?」


と、お姉さん側から話しかけてきました。


「あっ…えっと、はい。そうですけど…」


急に話しかけられたのもそうですし、そのせいでさらに視線が集まるようになってしまったのもあって、

しどろもどろになりながらなんとか質問に答えると、


「そう!じゃあ、これが終わったらギルドの二階席に来て?ちょっとお話しましょう?」


なんてお誘いをかけてきました。

お姉さんは口調と表情も相まって、とても穏やかな雰囲気を感じます。

なんというか、とても断りにくい雰囲気ですね…とはいえ、今は特に断るだけの予定もないので、受けておくことにします。

同じ踊り子さんであれば、何かいい話を聞けるかもしれません。


「え、えっと…は、はい。わかりました」

「わかった。約束ね」


それだけ言うとお姉さんはカツカツと床のレンガの音を鳴らしながら輪の中央へと戻っていきます。


「お待たせ、私はもうちょっと躍らせて貰うからね!」


とまた踊り始めてしまいました。

逆に私は一連の出来事で、ここに居るのが少し気恥ずかしくなってしまい、人の輪から脱出を試みました。


「もっとあの人の踊り見たかったなぁ」

「見たかったら見に行ってても良いですよ?」


とりあえず先にギルドの二階席へと先に来ておいた私達。

ギルドは吹き抜けになっていて、下にある受付カウンターや、何か演説台のようになっている部分が良く見えます。

そんな4人掛けのテーブルでうなだれる夏輝さんを横目に、とっさに抱えた衣装を綺麗に畳みなおしながら返答します。


「でも、単独行動は禁止なんでしょ?」

「あぁ…そうでしたね」

「でもさ、黑音ちゃん、あの人とお話するんでしょ?私も一緒に居ていい?」

「え?うーん…まぁ…いいんじゃない?」


それを判断するのはあちらですが、決して一人では出歩かないという冒険部の規則上、そこは外せません。もしお願いして、あちらが断るようなことがあれば、近くで見守っていて貰いましょう。


それから大体10分後、私と夏輝さんとで現実世界の方の話で駄弁っていたら、

2階席へ来る為の唯一の階段から、例のお姉さんが登ってきました。


いで立ちはさっきであった時と同じ、鮮やかな色合いの、ちょっと大胆な踊り子の衣装です。


「おまたせ。少し待たせちゃったかな…?」

「あ、いえ!全然大丈夫です!」


柔らかく笑うお姉さんは、スタスタとまっすぐこちらへ向かい、そのまま私たちが座る席の、私の対面へと座りました。

衣装以外は、あまり踊り子という雰囲気は感じません。

…それは私もかもしれませんが。


「そっちは…たしか貴女のすぐ近くに居た…お仲間さんかな?」

「うん、そうです!」

「そっか、じゃあ一緒に話そうか」


お姉さんはあっさりと夏輝さんの付き添いを認め、そのまま話し始めました。


「私はユイル・ベルクロ、って言うの。よろしくね」

「あ、えっと、クロネです…よろしくお願いします」

「ウミです!よろしくお願いします!」


この挨拶の辺りに、二人のコミュ力の違いが出ますね…


「クロネさんに、ウミさんね。よろしく」


にこやかに笑うユイルさんからは、特に悪意は感じられません。

何かよからぬ話をするために近寄って来たわけではなさそうです。

そんなユイルさんは、私たちの目をしっかりと見ながら話を続けます。


「貴女達、新人さんでしょ?」

「え、えぇ、はい」

「やっぱりね。クロネさんが踊り子で、ウミさんが魔法使いか…占い師かな?」

「魔法使いだよ」

「そっかそっか」


ユイルさんは易々と私たちの立ち位置を見抜いて来ます。

まぁ、私達、思い切りあからさまな恰好をしてはいますけれども。

ってそれでちょっと聞きたかったんだけど、貴女達はどうして今の職に就いたの?」

「え?えっとそれは…」

「なんか、検査したら適正があるって言われました。それで魔法使いになったよ」

「そ、そうですね。私もそんな感じです」

「ふーん、適正かぁ」


ユイルさんは何かを思い出しながら話しているような、そんな口調で話しています。

一方でこちらの世界の先輩であるユイルさんに色々と探られて、やや緊張気味の私。


「今の職業、やりたいと思ってやってる?」

「え、ええっと…」


中々ディープにぶっ刺してくる質問に、思わずたじろいでしまいます。

まるで、進路相談のように。


「私は魔法使い、ウェルカム!って感じだった」

「そっかぁ、じゃあウミさんは大丈夫そうだね。適正と希望が一致してる子は伸びるよ」

「えへへへへ」


夏輝さんは褒められてにやついています。


「踊り子のクロネさんは?」

「え、えっと…皆を支援するっていう方向性はとてもいい感じなんですけど…」

「格好が恥ずかしい?」


最初に衣装を渡された時からずっと思ってた事ですし、何なら今もネックになっている要素ですね…

ちょっと豪華にした水着、くらいの衣服で街中の人前でどうこうするのは流石にアレです。

…なんて言えないですよねぇ。目の前のユイルさんだって踊り子で、そういう衣装をまとっている訳ですし。

なので、



「…それは…まぁ…」


なんてごまかし方をするしか無い訳で。


「それはほら、じきに慣れるから」

「ほ、ホントですか…?」

「新人の子はみんなそういうんだけど、踊り子として活動していくと、基本的に皆綺麗になっていくの。元々綺麗に着飾る職業だし、その方が踊り子として強いから」


ユイルさんは饒舌に語り出していしまったので、私は大人しく聞く体制に入ります。


「で、綺麗になっていくと、恥とかそういうものが薄れていくわけ。寧ろ、皆に見て欲しい、って思うようになっていく物なんだよ。綺麗だと、自身が付くからね」

「あっ、わかるー!コスの出来が良いと皆に見せたくなるよね!」

「コス?」

「コスプレ衣装の事だよ!」

「衣装…んまぁ、着飾る感じの衣装なのかな?だったらもしかしたらウミさんも踊り子の才能、あるかもよ」

「どーかなぁ?私は来て楽しむ専門だしなー」


ダメだ!踊り子とコスプレイヤーが意気投合してる!


「踊り子の第一印象として、セクシャルなイメージを持つ人も居るけど、私からしてみれば立派なエンターテイナーの1人だよ?皆を元気づけるお仕事だからね!」

「な、なるほど…」

「んで、実際、クロネさんは実際どうなの?もし、今の衣装に抵抗が無くなったら踊り子としてやっていけそう?」

「…そ、それなら多分」


一々踊る必要があるのは分かってますけど、同時にその強化効果も中々大きい事も既に分かっています。

他の皆が攻撃能力が高い分、バッファーとして活動していく重要性も、分かっているはずです。

そう思いながら、ユイルさんに向かって、しっかりと頷きました。

すると、今まで以上の笑顔をしながら、


「よかったぁ!最近新人の踊り子さんって少なくてね」

「え、あっ、そうなんですか?」

「いやぁ、やっと私にも後輩が出来るよ!」

「あ、あのう…なんで踊り子が少ないんですか…?」

「うーんなんだったかな。前より一人で冒険する人が増えて、援護系はあんまり人気ないんだってさ」

「なるほど…」


元の世界でも最近話題のお一人様ブームの波がこちらにも起きていると思うと、なんだか親近感を感じます。


「まぁ、踊り子でも一人で戦う方法だってあるんだけどね。とはいえ、私にも後輩が出来てうれしいから、何か聞きたいことがあったら何でも聞いてね?」

「は、はい。ありがとうございます」


半強制的に、ユイルさんは私を踊り子の後輩扱いしてきます。

まぁ、実際そうなのでしょうし、聞いた感じ、色々教えてくれそうでありがたくはあるのですが…


「そうそう。私普通の魔法も得意だから、ウミさんのほうも色々教えてあげるからね」

「はーい」

「普通の魔法?」

「うん。踊り子の基本は舞踊魔法って言って、通常体系の魔法とは違うんだけど…って、最初のパンフかなんかに書いてなかった?」

「え、あれ?そ、そうでしたっけ…」


あ、後で見直しておきましょう…

最初に衣装と共に貰ったパンフレット、あれどこに置いたかな…なんて思考がよぎっていた時、

ユイルさんは私の方をしっかりと見つめて、さっきよりやや真剣な声で、話し始めました。


「…さて、ちょっと話は変わるんだけどさ、さっき私がギルド前で踊ってた時、何かぶちまけてたでしょ?」

「あっ、えっとそれは、本当に、」

「「ごめんなさい!」」


あれは完全に私と夏輝さんの過失なので、2人で全力で頭を下げます。

せっかくのショーを妨害してしまったのですから、怒られても仕方ありません。


「ああいや、怒ってるわけじゃないよ?」

「えっ?」

「ただ、ちょっとあの衣装、見せて欲しいなって」

「は、はい、それくらいなら!」


私はまたテンパっているので、慌ててくくってある紐を解き、背負っている衣装をテーブルの上に出しました。

腰布にサンダル、袖のようなものに、ビキニトップ。

一通り、ワンセットであろうグッズを纏めてあります。


「うん。ありがとう。…ふーむ、なるほどね」


テーブルに広げられた衣装一式を眺めながら、ユイルさんは興味深そうに見ています。

ゴブリン達の宝箱から出てきた一品でしたが、もしかして相当な一品だったりするのでしょうか?


「これ、どこで手に入れたの?」

「えぇっと、確か、あっちの方の洞窟の中にあったよ」


夏輝さんは、洞窟のあった方を指さしながらそんなことを言っています。

でも、ギルドの中から指をさしても…と思わなくもありません。


「あぁ、あそこかぁ」


でも、ユイルさんには伝わったようです。


「それでなんだけど、ちょっと聞いてほしい事があるの」

「はい」

「初対面でこんなこと言っても信じて貰えないだろうけど、その衣装、元は私の物だと思うんだよね」

「えっ、そうなんですか!?」

「うん。前に、これと全く同じものを盗まれたことがあるんだよね。」


信じられない、というわけではありませんが、予想していた無いようではありませんでした。

試着はしていませんが、腰布を自分の腰に当ててみた事はあります。その時は私には少し丈が長すぎた感じでしたが、確かにユイルさんであればいい感じに収まりそうではあります。


「だから、できればでいいんだけど、返してほしいなぁ、って思うの。この衣装、思い入れがあって大切な衣装だしね。勿論、タダで頂戴、とは言わないから」

「そっ、それならお返ししますよ!?別に何か対価貰おうとも思ってません!」


両手を合わせて、懇切丁寧にお願いしてくるユイルさんに、私はとんでもないとワタワタと両手を振りながら答えます。

と同時に、お願いのジェスチャーは一緒なんだなぁ、なんてどうでもいい事を思います。


「本当?それはありがたいけど、なんか悪いなぁ」

「いえいえいえ!私達も色々迷惑かけちゃってますし…」


他にも、これが遺留品で無かった安心感とか、これを私が着る事は無くなるんだな、っていう安心感とか、

他にも色々理由はありますけれども…

そんな事を脳裏に思い浮かべつつ、テーブルの上の衣装を一つひとつ手にとって、状態を確認しているユイルさんを眺めています。


「うーん、それだとなんか悪いし、やっぱり後で色々魔法のコツとか教えあげちゃおうかな」

「あ、じゃあ…それでお願いします!」

「わかった。任せておいて!」


倉井さんとかには悪いですけど、部長は私なので、独断でやらせてもらいましょう。

実際、魔法に関する知識が得られるのなら、安いものです。


「でもさ、服を盗まれるって、どういう状況?」


当初の目的をあっさり達成できそうで、安心で胸を撫で下ろそうとしたその途端、夏輝さんがなんとなく余計な一言っぽい事を言い出しました。


「あ、それ聞いちゃう?」

「うん、ちょっと気になって」

「いえいえいえ!変な質問なら答えなくていいですからね!?」

「いや、たいした話じゃないから大丈夫だよ。まぁ、簡単に言うと、昔は装束を着るのは、冒険で町の外に出る時だけだったの」

「そうだったんですか?」

「うん。昔はその衣装で人前に出るの、中々恥ずかしかったからね。今のクロネさんみたいに」

「うっ…」


っていうか、ユイルさんもそういう感情あったんですね!?

この辺り、こんな格好の人もそれなりに見るのでこの世界では衣装の露出度ってそんなに意識されないものだと思って、じゃあまあいいか、と思って着てたんですけど、

別にそうでもないと分かると、今の恰好、結構気になりますよ!?周囲の視線とか。


「だから、町用の服と、外用の服を持ち歩いてたんだけど、ある日冒険を終えて、うっかり寝ちゃったんの。で、起きたら無くなってて…」

「あー、置き引きだね」

「置き引き?」

「置いてある荷物とかをこっそり盗む事…だったかな?」

「なるほど…たしかにそんな感じかもね」


夏輝さんがガンガン元の世界のワードを使うせいで、何かの拍子にばれちゃうのではないかと思う事がちょいちょいありますが、今の所その可能性は薄いようです。


「多分、そこで私の衣装を盗んだ人が、何かしらの事情でその洞窟に隠した、とかなのかな」

「でもその宝箱は…」


そこまで言いかけて、言うのを止めました。

大切な衣装が、ゴブリンの宝箱に入れられていた、なんて情報は多分、余計な情報な気がします。

例えば、大切なバッグを無くして、それが後で見つかった時に「野良犬が咥えてたよ」なんて情報は、聞きたくありませんしね。


「ともかく、ありがとう。クロネさん、ウミさん」

「いえいえ、偶然拾っただけですから…」


ユイルさんは、懐かしむような優しい目をしながら、私たちと、衣装を交互に見ながら言います。

そして、ふと何かを思い出したように、ガタンと席を勢いよく立ちます。


「あ、そうだ。この後時間ある?」

「えぇまぁ、今日は暇ですけど…」

「じゃあ、早速魔法についてのレクチャーとかしちゃおうかな?」

「いいんですか?」

「うん。新人冒険者としても、早い方が良いでしょ?」

「まぁ…確かに…」


これは完全にこちら側の事情ですが、基本的に冒険部は部活動の一環で、こちらの世界に何度も来まくるわけにもいかないので、今回で習得できるなら、それに越したことはありません。


「じゃあ決定!って訳で、ちょっとこの衣装に着替えて来るから、少し待っててね」

「え、ここで着替えるんですか!?」

「いやいや、ギルドの奥の方に着替えスペースがあるの」

「あ、そ、そうだったんですね…」


それを事前に知っていたら、前回の時にそこであの衣装に着替えさせられていたかもしれませんね…

…でもそう考えると、RPGとかでよく見る、いつでもどこでも装備を変えられるシステム、あれ結構中々のビジュアルなのでは…?


「昔は町の外に出てから見つからないようにこっそり着替えてたけどね」

「私もたまにやったことあるなぁ。コス会場の更衣スペースが狭いイベントとか」

「あ、あははは…」


屋外で着替えるなんて、そんなの絶対できないし、普通そんなことしない、

と思いつつ、この場ではそれが少数派らしく、乾いた笑いしか出来ない私なのでした。


結局、正しい装備の変更方法って、どうなのですか!?

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