8、この世界は。
ブックマークが増えていて驚きました。
本当にありがとうございます!
「ど、どうしたんですかぁアイリス様ぁ〜」
屋敷に帰ると、半泣きのセシルが迎えてくれた。
「せ……セシル?何で泣いているのかしら?」
「だってっ……アイリス様、お昼になっても帰って来なくって……ほんとに本当に、心配したんですからぁっ!」
アイリス様のばぁかぁ〜と、いつものセシルからは考えつかない程泣きわめく。
「えと、私は大丈夫だから」
「それ、その青い血、魔物のヤツですよねっ! 怪我は、お怪我はありませんかっ?」
「うん、私に怪我はないわよ」
「よかったでず〜っ」
……大切にされているんだなと、思った。
こんなふうに誰かに泣いてもらうことなんて、こんなにも心配してもらうことなんて、前世では無かったから。
嬉しくて、本当に嬉しくて、ついもらい泣きしてしまう。
「っ!どうしたんですかアイリス様ぁ」
「何でもないのっ、何でもないのよセシルっ」
「何2人して泣いてるんですか」
決して大きくないのによく通る声。
「奥様?」
「ええ、私よ。アイリス、何処へ行っていたの」
鋭い眼差しに、思わず身がすくむ。
「森に、行っていました」
「ほぉ、森に入っていただけでその姿ねぇ」
返り血に塗れた私の姿を見て、顔を歪めるフェリスさん。
「えと、魔法の練習をしていたらゴブリンの群れが襲って来て返り討ちにしたらこうなりました」
「群れ?そんな報告なかった筈だけど」
「100匹を越えるゴブリンの群れが、本当にいたんですっ」
「ほう。アイリスはそのゴブリンの群れを、全部倒したというの?」
「……はい」
「そう。……嘘をついているわけじゃなさそうね」
嘘をつくと、魔力が少し乱れるのよ。
そう続けるフェリスさん。
この人の前で嘘を吐くのは辞めた方が良さそうだ。
「アイリス様が、1人でゴブリンの群れをっ⁉︎」
目を丸くして驚きの表情を浮かべるセシル。
そんなに驚く事なんだろうか?
「ゴブリンって、1匹に対し新米冒険者が2人で互角に戦うことが出来るんですよっ!」
「剣の扱いも、魔法も教えて来たけれど、此処までとは……本当に規格外ね、この子は」
少し、沈黙が続いていたその時
「奥様ぁ〜っ、アイリス様ぁっ」
屋敷の中から、1人のメイドが飛び出て来た。
息を切らしている様子から見ても、かなり焦っているよう。
「今、王宮から通達が来ましたっ、どうやら第二王子がアイリス様に会いたいと言っているらしく、明後日、殿下が来られるそうです」
「第二王子……リドル=アルバータ様、確かアイリスの2つ上だったかしら」
「はい」
「何故そんなお方が?」
「アイリス様の実力に興味があると……」
「アイリスの力が国に知られた⁈……マズイわね。でも、王族を非礼に扱うのは出来ないし……早急に準備を始めるわ」
「はいっ」
大人たちが慌てている中、私の脳内では、“リドル=アルバータ”と言う名前が渦巻いていた。
リドル=アルバータ
その名前には、聞き覚えがあった。
というか、あり過ぎた。
リドルは、前世で私が大好きだった乙女ゲーム、『LOVE &LOVE 』の攻略対象の1人だ。
「私は……」
乙女ゲームの世界に、転生させられた?
うん、きっとそうだ、そうとしか思えない。
ありがとう女神様っ!ありがとうっ
そこで、ふと思ったことが1つ。
私、アイリス=フランドールって誰?
『LOVE &LOVE 』のヒロインは男爵令嬢のカレン。
悪役令嬢は、公爵令嬢のローズ。
リドルを始め、攻略対象が4人程。
そこで、伯爵令嬢アイリス=フランドールって誰っ⁉︎
そんなのいたっけ?
ギュッと目を瞑り、記憶をたどること数分。
「あー、いたなぁ」
僅かながら思い出した。
伯爵令嬢、アイリス=フランドール。
立場的には、悪役令嬢の取り巻きB。
登場人物達が学園に入学し、ゲームが始まってからすぐに死ぬモブキャラでした。
死ぬ理由は、ヒロインがどのルートに進むかによって変わる。
悪役令嬢に濡れ衣を着せされて斬首、ダンジョンに潜った先で悪役令嬢に盾にされて死亡。
などなど、どのルートでもすぐに、そして確実に消える。
学園に入学するのが12歳、今の私は4歳。
私の寿命は、あと8年なのだそうです。
「あー、虚しいなぁ」
刻一刻と迫って来る命日に恐れながら生きる日々なんて虚しすぎる。
それにまだ私は、
「死にたく、ない」
強くなろう、誰にも負けないくらい、強く。
ダンジョンがどうした、斬首がどうした、全て、強さで捩じ伏せればいい。
魔力は、生まれながらにたくさんある。
私は獣人。身体能力は並以上。
まだ、時間もある。人脈を広げればいい。
そして私には、知識がある。
前世の世界で、日本で得た知識が。
「それで」
努力して努力して努力して、生き残ってみせる。
そして、手に入れてみせる。前世からの夢を、叶えてみせる。
「私は、平凡な生活を手に入れるっ!」
アイリスが変な方向に進み始めましたが、温かく見守りください。