7、ゴブリンとの闘い
走る、走る、走る。
地を這うように、けれどスピードは速く。
私はゴブリンの懐に滑り込み、その喉を掻っ切った。
青い血しぶきを上げて、倒れこむゴブリン。
「ヒッ……」
この世界に来て、初めて魔物を殺した。
“怖い……”
これが、正直な感想だった。
最初は怖がっていた魔法も、今はもう怖くない。
そんなふうに殺しに慣れてしまうことが、何より怖かった。
「……」
でも今は、腑抜けたことを言っている暇はない。
生き残るためには、勝たなきゃいけない。
「絶氷っ」
少しでも魔力の消費を抑えるために、魔法名を唱える。
すると、私の周囲にいたゴブリン20匹程が一瞬で凍った。
パリンと音を立てて氷が割れ、ゴブリン達は絶命する。
「っ!」
いつの間にか背後まで迫っていたゴブリンの一撃を、バッグステップでかわす。
「雷電」
電撃に当たったゴブリンは、跡形も無く消え去った。
「ふぅ……」
まだまだ、多くのゴブリンが残っている。
ゴブリン達もこのままでは勝てないと分かったのか、連携を取り始めた。
「此処はひとつ大技を……」
そう思った頃には、ゴブリン達が動き始めていた。
此方に向かって、棍棒を振りかざし駆けてくる。
流石に私も、この量のゴブリンは捌き切れない。
「なら……」
地上で勝てないなら空に行けばいい!
ということで私は空を駆けた。
鳥のように飛んでいる訳では無く、進む先にバリアを作って足場にしているだけだ。
無属性魔法のバリアは透明なので、一見空を飛んでいるように見えるかもしれない。
ゴブリン全体が見渡せる程の高さに留まる。
「爆炎、爆発、爆風。風よ、炎よ、我が意のままに、かの者を喰らい尽くす戒めとなれっ」
私の周りには黒い静電気がパチパチ弾けている。
完全にコントロール出来ず漏れ出た魔力が、おかしな干渉をしているのだろう。
魔法は、イメージ。
ずっと魔法に触れて来た私だから分かったことだ。
何も考えずただ魔法を撃つより、イメージをして撃った方が、威力は格段に上がる。
魔法の威力は魔力量に比例すると考えられているこの世界で、事実を知っているのは私だけだ。
考えるは爆炎。
ゴブリン達を包み込み、うねりを上げて暴れる爆炎。
それと共に渦巻き、炎を撒き散らす爆風。
「エクスプロージョンっ」
ドッカーーーンッ
「……っ!」
此処まで熱風が届く程の爆発。
ゴブリン達はいとも簡単に消え失せた。
残念ながら、まだ撃ち漏らしが数匹残っている。
私は地上に降りると、短剣を構えた。
魔力はもう僅か。
此処からは獣人として戦う。
「はあぁぁっ!」
ゴブリンとすれ違いざまに喉を切り裂く。
投げて来た棍棒を跳んで避け、此方に駆けるゴブリンは飛び越えて後ろから刺した。
あと1匹。
私に怯えたのかゆっくり後ずさり、木々の中に逃げて行く。
残念ながら、森は私のテリトリー。
木から木へと飛び移り、ゴブリンの真上から短剣を投げて絶命させた。
「ふぅ……って、あぁぁぁあっ!」
もう、空は暗くなっている。
昼までに戻るという約束を思いっきり忘れていた。
「あぁぁっ!怒られるっ!」
私にとっては、ゴブリンなんかよりも、フェリスさんやセシルの方が怖い。
私は、夜の森を駆けることになった。