6、襲われました。
私、アイリス=フランドールは4歳になりました。
全属性適正があると分かってからは、怒涛の日々だった。
毎日毎日、朝は魔法についての勉強、昼を過ぎれば魔力コントロールの練習をしている。
魔力コントロールは、文字通り魔力をコントロールする練習のことだ。
身体の奥にある魔力を血液のようにめぐらしていく。
均等に張り巡らすと、詠唱を唱えて魔法を発動させる。
「闇を、全てを喰らい尽くせ」
唱えると同時、周りの空気が一変する。
術者である私以外は息をするのもままならないような、重く、暗いフィールドが出来上がる。
「ダークネスっ」
唱え終えると、私の影から漆黒の触手が伸び、少し離れたところにある的を貫いた。
「ふぅ……こんなもんかな」
私は無詠唱も可能なため、手をかざすだけで発動はできる。
でも、消費する魔力の量が桁違いなので、緊急時以外は詠唱をするようにしている。
「お疲れ様です、アイリス様」
「ありがとセシル」
タオルと水をセシルから受け取る。
4年経った今でも、セシルは私付きの侍女をやっていた。
「セシル、ちょっと散歩に行ってきていいかしら」
「もちろんです。お昼までには戻ってきてくださいね」
「ええ、分かったわ」
セシルに見送られ、私は領地の森に踏み入った。
ゲームの世界に転生した私は、伯爵令嬢になっていた。
我がフランドール家は、王都から離れているものの、自然豊かな土地を支配している。
私が住んでいる屋敷のすぐ隣も、森になっていた。
10分程歩くと、少し異質な場所に出る。
その場所だけ木は生えておらず、唯一ある短い草花も一部が焦げていたり、凍っていたりしていた。
地面には沢山のクレーターが出来ている。
その荒れ果てた地は円形に広がっていて、大きな広場のようになっていた。
「此処だけ天変地異が起こったみたいね……」
まぁ、この異質な空間は私が作り出したのだけど。
自由時間はほとんどをこの場所で過ごし、魔法の練習をしていたら、こうなった。
屋敷の庭で魔力コントロールをする時は、屋敷に被害が及ばないように手加減しているけれど、此処では自重しない。
魔法は少し本気で打つし、無詠唱の練習もする。
「……」
遠く離れた大木を睨み、手をかざす。
私の影から伸びた真っ黒な触手は、真っ直ぐ大木へ向かい、貫いた。大木はいとも簡単に折れてしまう。
その間、0.1秒。
「ふぅ」
次は何の魔法を打とうかと考えていた、その時だった。
「Gooo」
「っ!」
背後から聞こえた、低い唸り声。
ハッとして振り返った時には、もう遅い。
棍棒を構えた魔物が、私に迫っていた。
「っっ!」
一瞬でバリアを張り、攻撃を防ぐ。
「この魔物……」
人型で、緑色の皮膚をした醜い魔物。
「ゴブリンか」
良かった。この程度なら、私でも勝てる。
そう思った矢先のこと、
周囲から、ワラワラと出てくる沢山のゴブリン。
その数、100以上。
「……囲まれた」
気配探知の結界を張っておくべきだった。
「むー、これは本気でやらないとマズイ……かも?」
幸運にも、相手は私を子供だと思って侮っている。
そろりと、腰から短剣を引き抜く。
私は、身体能力の高い獣人だ。
2歳の頃から身体の使い方は教わっている。
決して飛び抜けて素晴らしい訳ではないが、努力はしてきたつもりだ。
「はあぁっ!」
私は、地を蹴った。