3、はじめての魔法
あれから数日後、暖かい日差しにウトウトしていた時、ことは起こった。
「フレイムランスっ」
私が寝転んでいるベビーベッドの隣、丸椅子に座っていたセシルが突然、何かを唱えた。
瞬間、部屋全体が熱気に包まれる。真っ赤な炎が宙に浮かび、次第に槍を形作って行った。
「うぁぁっ」
セシルの情けない叫び声が聞こえたと同時に、炎が四散する。
「あぁー、また失敗かぁ」
項垂れるセシル。
それを見ていた私は、何が何だかわからなかった。
「あ、ああう?」
炎が、宙に浮かんで、槍に……。
まさか、まさかこれって、
「……あおお?」
魔法……なの?
「あー、アイリス様、驚かせてしまってすみませんっ」
「あおー?あおー?」
魔法って言いたいのに……喋れないって辛い。
「あおー?あおー?」
「えっと……魔法って言いたんんですかね?……アイリス様、これは魔法ですよ」
おおっ魔法が実在した!
「えっと、あの、アイリス様は魔法が使えないんです」
「あう?」
私が魔法使えないって、どゆこと?
「アイリス様は……、その、半人半獣……。獣人、なので、魔法は使えないのです」
申し訳なさそうにセシルは言うと、部屋を出て行った。
んー、魔法……、使ってみたかったなぁ。
セシルは、私は魔法が使えないって言ってたけれど。
……物は試し。一回くらいチャレンジしてみてもいいだろう。
確かセシルは、フレイムランスっていってたから……
「うえいうあうう」
うまく発音できない……大丈夫かな?
ゴオオオオッ
私のつぶやきに応じるように、周りの空気が豹変した。
大きな炎が宙に生まれ、うねりを上げながら槍を形作っていく。
「お……」
数瞬後、私の真上には巨大な炎の槍が浮かんでいた。
その大きさは、先程セシルが作った槍の数十倍はある。
「おおぁ……」
なんだ、私も魔法が使えるじゃない。
そんなことを考えていると、
「おぁっ」
クラリと目眩がして、視界が歪んだ。
いつの間にか、炎の槍も消えている。
だんだんと意識が遠のいて……
これ、多分魔力切れってやつだ。
遠のいていく意識の中、私はそう思った。