12、戦闘
「ふぇ?獣人っ?」
「異端が乗ってんのか?」
ザワザワと騒がしくなる馬車。
一体この人は、何がしたいのだろう?
「あなた、だれ?」
“クフフッ……私はぁ、魔人だよぉ”
「ッ!」
他の乗客に聞こえないよう、テレパシーで直接語りかけてきた。
テレパシーは、無属性魔法の高等魔法。
それをいとも簡単にやって見せるのだから、魔人というのは本当なのだろう。
“何で、そう思ったのかしら”
私もテレパシーの魔法を発動させる。
“獣人の匂いがした、それだけだよぉ。君、獣人なのに魔法を使えるっていう噂は本当だったんだねぇ。興味深いなぁ”
“ねぇ、あなたは何でこんな所にいるの?”
魔人は人間と敵対している。
今は停戦しているが、いつ戦争が始まってもおかしくない状況だ。
それなのに、魔人が人間の国にいるなんて。
“私には任務があるんだよ”
紫の瞳を輝かせ、口の端を歪める彼女。
“アイリス=フランドール、獣人のくせに魔法を扱えるイレギュラーを抹殺すること”
「っ! 何でそれを」
知っているのか、と続ける暇は無かった。
「炎の槍」
瞬く間にフレイムランスが飛んでくる。
反射的に身をよじりフレイムランスを躱した。
髪の先が少し燃え、焦げ臭い匂いが漂う。
「……シアン」
『ん?どーしたの、アイリス』
指輪の契約石が淡く光り、シアンが現れた。
「魔人と戦闘になっちゃったから、少し手伝って欲しいの」
この魔人、かなりの手慣れだ。
でも、これまでの私の努力は伊達じゃない。戦えば確実に勝てるだろう。
けれど、此処にいる乗客を守りながらとなると話は変わる。
危険な賭けはしたくない。
見栄を張ったりせず、シアンに協力を求めるのが最良だと考えた。
『おーけーだよ、僕も手伝う』
「……獣人、精霊と契約していたのか」
「結界」
魔人を無視して魔法を発動する。
乗客の周りにバリアを張った。
『この世にある我が眷属よ……』
「……この精霊め……フレイム」
「させると思う?」
魔人の作り出した炎の槍を凍らせる。
「無詠唱っ?……そんな」
『わが意のままに。アクアっ』
魔人の言葉は、シアンの濁流に飲まれて消えた。
「やった!って……あ、」
シアンの生み出した大量の水は、魔人を飲み込むだけでは飽き足らず此方にも向かってくる。
『うわぁっ』
その水は、乗客も私達も、なりふり構わず飲み込んで行った。