11、旅の始まり
「アイリス様、本当に大丈夫ですか⁈」
「大丈夫よ」
「荷物全部持ちましたか⁈ えと、着替えと、ハンカチと、あとっ」
「大丈夫だってセシル。私、もう13歳よ?」
アイリス=フランドールになってから、もう13年が経った。
私の精神年齢は、前世の16年に13を足して、29歳だ。
今は、学園の入学試験で王都へ行くための準備をしていた。
私が受けるのは、王立四つ星学園。
四つ星学園は、共学であり貴族と平民の入り混じった学校だ。
貴族と平民の比率は、2対1くらい。
受験する者の多くが人間で、稀に魔人や獣人が混じっている。
四つ星学園が育成するのは、魔術師、精霊術師、魔物使い、そして魔法陣使いだ。
魔法を使うことの出来る魔術師。
精霊と契約を結んだ精霊術師。
魔物を使役する魔物使い。
魔法陣を扱う魔法陣使い。
比率的には、95パーセントが魔術師、2パーセントが精霊術師。魔物使いは2パーセント、残りの1パーセントが魔法陣使いとなっている。
魔術師は魔力を持つ者なら誰でもなれる職業だが、精霊術師は精霊に好かれた者にしか、魔物使いは魔人にしかなることは出来ない。
魔法陣使いはというと、生まれつき才能のある者にしかなれないので、本当に少数だ。
もちろん、才能のあるだけでは学園には入れない。
才能があり、それをコントロールするだけの実力があり、知識がある。
そんな学生を学園は求めている。
「アイリス様。道中はお気をつけ下さいね」
「ええ、ありがとう」
「全く、セシルは心配し過ぎよ。今回に限って盗賊に襲われたりするなんて、あり得ないわ」
フェリスさん、それフラグです。
「魔物に襲われたり、魔人と戦闘になったりなんて……」
辞めて下さいフェリスさん、それフラグです。
「とにかくっ、行ってきます!」
「「行ってらっしゃい(ませ)」」
笑顔で2人に手を振り、馬車に乗り込む。
今回私が乗ったのは、大型の乗り合い馬車で私を含め、6人の人族が乗っている。
座席は横に3つ並び、2列になっていた。
この世界には、7種の『人族』がいる。
私のように、ネコミミやしっぽなどの動物の特徴を持ち、身体能力が高いかわりに魔力を持たない獣人。
魔力が飛び抜けて多く、魔物を使役できるが、身体能力の低い魔人。頭部にある角が特徴だ。
個体数が少ないものの、精霊と友好関係を築いているエルフ……などなど、様々な人族が存在する。
人間は、獣人の様に身体能力が高いわけでもなく、魔力も普通。特に欠けたところもないけれど、飛び抜けているところもない人族だ。
獣人は魔力を持たず、獣の特徴を持っていることから『異端の人族』と戒められ、人間の奴隷として扱われていた歴史がある。その名残か、奴隷制度が廃止された今でも、厳しい差別が続いている。
因みに、今日は私もベレー帽でネコミミを隠している。魔法を使うことも出来るけれど、出来るだけ魔力を温存しておきたい。
「ふぅ……」
窓側の席を確保して、一息つく。
「平穏な旅になるといいなぁ……」
これが、フラグになったのだろうか。
「こんにちはぁ、そこのお嬢さぁん」
声の方に視線を飛ばすと、そこでは真っ黒のローブを身に付けた女がいた。
「ねぇ君、獣人だよねぇ」
ニヤリと、嫌な笑みを浮かべる女の人。
平穏の2文字は、私の前から過ぎ去ろうとしていた。




