10、第二王子との対面
「うん、バッチリですね。アイリス様っ」
着飾った私を見て、満足したように頷くセシル。
目の前の鏡の中にいるのは、いつもと違い、髪を結い上げた私だ。
フェリスさん譲りの銀髪に、まだ会ったことのないお父さん譲りなのであろう紅い瞳。
トレードマークのネコミミは、魔法を使って隠してある。
世間での獣人の評判は、あまり良くないらしい。
普段は、フェリスさんの一族の銀猫族の伝統衣装である、丈の短い袴のようなドレスを着ているけれど、今日はふわりとした水色のドレスに着飾っている。
「アイリス様、凄く可愛いです」
「あはは……ありがと、セシル」
アイリス=フランドールは、モブキャラの割に顔立ちは可愛かった。
「アイリス様ぁっ!殿下がいらっしゃいましたぁっ!」
大きな音を立てて扉を開け、飛び込んできたのは新人メイドのミィ。
茶髪に茶色の瞳の元気な子だ。
「ええ。今行くわ」
「アイリス様は落ち着いていらっしゃいますね」
「緊張しても、何も変わらないじゃない」
なるべくゲームの主要人物と関わりたくなかったが、今それを嘆いても現実は変わらない。
私がすべきなのは転生者だと悟られないこと、そしてリドルの反感を買わないこと。
秘策も考えてあるし、後は堂々としていればいい。
コンコン
「失礼致します」
扉を開け、客間に入る。
大きな椅子に腰掛けていたのは、第二王子のリドル=アルバータ。
「お初にお目にかかります。アイリス=フランドールと申します」
ふんわりしたドレスの裾を摘み、最大級の礼をする。
「リドル=アルバータだ」
目の覚めるような金髪に同じく金色の瞳。
足を組み、口の橋を上げる仕草はいかにも王族といった様子だった。
「早速だがアイリス、お前、かなりの魔法の使い手だろう?」
「……失礼ですが、何故そう思われたのですか?」
「俺は、魔力を探知する探知魔法に明るい。この魔法は、強力な魔物が現れた際、すぐに分かる優れものだ」
ドヤ顔で続ける王子(笑)
「数年前から、この地域で膨大な魔力を感知するようになった。だが、いくら調べてもそんな魔物は発見できなかった」
この地域で膨大な魔力……。
4年間此処で暮らしてきたけれど、そこまで強い魔物には出会ったことはないけど。
「最終的には、俺が派遣された。そこで俺が見たのは、」
大魔法をいとも簡単に行使する銀髪の少女だったんだ。
ニヤリと嫌な笑みを浮かべるリドル。
「ネコミミとあの衣装からして、銀猫族だろうな。あの子の正体は、アイリス、お前だろう?」
「っ!……」
「図星か。安心しろ、俺は獣人だからと差別はしないぞ」
……隠し通すのはもう無理そうだ。
「そう……ですよ。私の母は獣人です」
「獣人が魔力を持つなんて初めて聞いた。魔法を使ってみてくれないか?」
「えぇ、もちろんです」
リドルに手をかざし、詠唱を行う。
選んだ魔法は、私が作ったオリジナル魔法。
「忘却」
閃光が走り、視界は真っ白な光に包まれる。
オリジナルの魔法、忘却魔法。人の記憶を消すことができる恐ろしい魔法だ。
でも、
「使いようによっては、役に立つ」
この光が止む頃には、リドルは全てを忘れているはず。
「ははっ、あははははっ」
「あ、れ?」
その筈なのに、リドルの様子はいたって普通だった。
「アイリス、お前面白いな」
「なんで、魔法はちゃんと発動したのに……」
「残念だが、俺には強い魔法耐性があるんだ。お前、初対面の王族に術かけようとする人間なんていないぞ?」
魔法耐性……。私の魔法も、全ての人間に効くわけじゃないってわけか。
「申し訳ありません、殿下」
危ない。もしかすると機嫌を損ねたかもしれない。
「リドルだ」
「ふぇ?」
「お前に殿下と呼ばれるのは違和感がある。リドルと呼べ」
「り、リドル様?」
「あぁ。アイリス、また来るからな」
もう来ないでください。
なんて、面と向かっては言えるわけもなく……。
「お待ちしております、リドル様」
ひらりと手を振るリドルを、笑顔で見送ることしかできなかった。




