第六話 影の差す場所でもある。(That place sun shade.)
しばらくベレンの後をついて行くと、だんだんと人気のないほうへ入っていくのがわかる。
すれ違う人が減り、店が減り、住宅街のような風景の中を右へ左へ。だいぶ奥のほうまできた。太郎はその間にも周りの観察を続けていたが、ある一角を曲がったときに、ふとした違和感を覚えた。
町の中は、人気がないところであろうと灯篭が設置されていた。町の入り口ほどではないが、住宅街に点々とともる明かりも風情があるなと、感心していたところだったのだが、その中にひっそりと、一つの明かりもない路地を見つけたのだった。
思わず立ち止まる太郎。
好奇心が沸いた。少し行ってみようか。太郎は日本で目的地への近道を発掘してきたときの感覚のまま、薄闇の中に足を踏み入れた。
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そこは一言でいえばスラム街のようだった。灯篭がないだろうことは足を踏み入れるまでもなく分かったことだが、雰囲気のせいか、この場所は見た目以上に重暗く感じた。
襤褸をまというずくまる者、物乞いをする者、横たわり、生きているか死んでいるかもわからない者。入ってみれば思った以上に人がいた。それらは太郎に一瞬だけ鋭い目線をくれると、興味を失ったように再び視線を下へやった。あまり長くもない路地が、先のない谷底のように思えてくる。
思わずたじろぐ太郎。特に考えもせずこの場へ来てみたが、あまり長居する気にはなれなかった。
「何やってるのよ!なんでそんなところにいるの!!?勝手なことしないで早くこっち来て!!」
気が付くとベレンがすぐ後ろまで走ってきていた。太郎が付いてきていないのに気付いて探していたのだろう、迷子になったこと以上の憤りを感じているようだった。
ベレンはよく怒るなぁ、と太郎は他人事のように考えながら路地を後にし、今度こそきちんとベレンの後をついて行く。
おそらくあれは、貧民、というやつなのだろう。家もなく、職もなく、かといって、町の外で生きる力もない。そんな行く当てのない者たちが最後に行きつく『いきどまり』。勇者ならあそこもどうにかできないものかと思う太郎だった。
また短いのでもう一話投稿します。序盤は一話が短いですが、徐々に長くなっていきますので気長にお付き合いください。