第五話 光のある場所はいつだって(Where the light was always going…)
町へ着いた。さっきの花畑からさほど遠くない場所にあり、大して道も難しくはなかった。再び花畑に行こうとしても、迷うことはないだろう。
それよりも、太郎は町の風景に圧倒されていた。
建物はそれほどのものではない。石造りにところどころレンガの見える、地球で言うなら中世ヨーロッパといったところか。人がにぎわい、馬車が通り、まさに異世界というような喧噪を感じる。
そこに特筆しておくべきところが一つ。
この町にはたくさんの光があふれたていた。家の軒先、街灯のような柱、人の手、店の先。あらゆるところから、色彩あふれるガラスの灯篭がつるされ、置かれ、手持たれていた。
いつの間にやら夕方だ。夕日の照らす色と相まって、その町は全体が輝いて見えた。
「おお……」
絶句もするだろう。それは太郎の想像するよりはるかに美しい光景だったのだ。
ぽかんと太郎が口を開けているうちに、ベレンは門への手続きを済ませてしまう。本来ならば厳重な審査が求められるであろう門番には、ベレンの名、正確には、ベレンの父親のギンタークの名を通し、半ば強引に手続きをした。
「なにボーッとしてんのよ!行くわよ!はい、これ通行証。なくさないこと!」
ベレンはさっさと歩きだす。少し遅れて我を取り戻した太郎もあわてて後を追いかけた。
ベレンを見失わないように努めながら、太郎は町を観察していた。
誰もかれも同じような服装、時折豪華なローブのようなものを着た人間。大人、子供。夕飯時前だからか、市場のようなところでは、値切るような声があちこちから聞こえてきた。
しかし、太郎が探しているものは違った。亜人。そう、亜人である。
ライトノベルで言うドワーフやエルフ、あとは獣人なんかがいたはずだ。異世界の町なのだから、当然いるだろうと思っていたその者たちが、見当たらない。
楽しみにしていたのに、と心の声ではあきらめたようにつぶやくが、太郎の目はあちこちを探っていた。
「なぁ、亜人って、この町にはいないのか?」
呼び止めるように聞いてみた。
「何言ってるの?いるわけないでしょ。亜人はこの町には入れないわよ。あんただって、見た目亜人じゃなさそうだから通してもらえたんだから」
「まじか……」
太郎はがっくりとうなだれた。せっかく異世界に来たのに亜人の一人も見られないとは、お預けもいいところである。なんなら利子付きで返してもらってもいいくらいだ。
ベレンによれば、まず前提としてこの町には亜人が暮らせないようになっているらしい。門番が止めるし、町の人に見つかれば即座に追い出される。かといって、この町では人とかかわらず生きていくのは難しい。そのため、いるわけがない。
どうやらこの町は共同で動かす魔道具のようなものでうごいているらしい。だからその共同作業に参加しないやつは自動的にばれる、と。
よくできたシステムである。
「……。」
太郎のいる場所からは、そのときのベレンの顔は、うかがうことはできなかった。
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