第三話 異世界は貝に非ず、(Different world is not a shellfish,)
にらみ合う両者。片方はそんなつもりはない。が、とりあえず、何者だと聞かれた気がするので答えなければならないだろう。
「どーも、現地人さん。太郎です。多分、勇者としてここに呼ばれました」
少女は、はぁ?と聞こえてきそうな顔だった。
当然か、同じような年代でこのネタが通じることは少ない。というか異世界だ、この手のネタは一切通じないと思ったほうがいい。と、今更ながらに思う太郎だった。
少女はなにいってんだこいつ、と顔に書きながら怒鳴る。
「とにかく!街の人以外はここにいちゃいけないの!不法侵入者は発見者が討伐したっていいんだからね!?」
そういいながらも攻撃を仕掛けてこないことを見るに、その勢いに反して心優しい少女のようだ。
「つまり、お前に俺を討伐する気はない、と。」
思わず漏れた声に顔を真っ赤にして怒り出す少女、さすがにさすがに殴られてはたまらないとなだめ始める太郎。
そんな感じで、異世界の現地人と太郎との、最初の邂逅と相成ったのだった。
*
何とか落ち着いてもらい、話を聞ける体制を整えた太郎は、さっそくとばかりに話を切り出した。
「茶化して悪かった。それで聞きたいんだけど、おまえがおれの召喚者……なわけはないよな、うん。じゃあ、名前を聞いてもいいか?」
「……ええ、いいわよ。私はギンターク・スモウァルベレン。ベレンでいいわ。」
ん?と太郎は首を傾げた。
「後ろの名前に愛称?ってことは、スモ……なんとかのほうが名前ってことか?」
「当たり前でしょう?継承名は親の名前って決まってるじゃない。」
どうやら継承名、とやらが地球でいう苗字に当たるらしい。外国人らしい名前で順序は変わらないなんて、太郎からすればなんとも不思議な感覚だが、そういうものだと思うしかない。
「じゃあベレン、ここでおれ以外に、だれかいたりしたか?」
「いるわけないでしょ。ここは儀式のときくらいにしか使われないし、いたとしても、あなたみたいな不法侵入者がいないか監視する門番くらいしかいないわよ。」
被召喚者の近くには召喚者がいるものだと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
考え込む太郎に今度は少女--ベレンが口を開いた。
「それで?あんたはいったいどうやってここに来たの?門番はいたし、普通はそこで止められるはず」
「まぁ、入り口通ってないしな。というか柵も何もないんだからどこからでもはいれるだろ?」
「はぁ?そんなわけないでしょ、ここは神聖な花畑なの!よほどのことでもない限り、不可侵に決まってるじゃない!」
太郎にはその理屈ははからなかった。神聖だからと物理的に侵入が不可能になるはずもないと思う。しかしまたベレンを怒らせるわけにもいかないので、黙っていることにした。
「話がそれたな。俺がどこから来たかだが、異世界って知ってるか?」
むしろ太郎が話をそらしているのだが、太郎は気づいていない。
「イセカイ?何それ、新種の貝?おいしいの、それ?」
「んんん?!」
この世界でネタを使うのは案外難しくもないらしかった。
17/9/10 副題修正。大ポカでした。