第十八話 選んだ道、そして未来は必然である。(You choose it,it was decided from the origenal time.)
その日の夜。
「うん、わからん!」
頭の後ろに手を組みぽきぽきと鳴らす。凝った頭がほぐれるようだ。
正直言って、手詰まりである。レスタスの授業も大体が終わってしまい、発展形にまで手を伸ばしかかっているが、太郎がしたいことはそこにはなかったのだ。
もっと根本的な、違和感。それを解消したいという思いが日に日に増してゆく。
それさえ解消できれば、おそらくクリエナや路地裏のみんなを救うことにつながるだろう。
(その何かがいまだわかんねぇんだよなぁ……)
と、その時。太郎の部屋のドアがノックされる。
「はーい?」
「あ、あの、タロー君?クリエナです」
クリエナの声。ドア越しだからか、少しぐぐもって聞こえる。
「ちょっと、お話、いいかな?」
*
太郎はドアを開け、クリエナを部屋へ招いた。
「あの、ごめんなさい。忙しかった?」
「いや、べつに。気にすんなって」
確かに考え事はしていたが、むしろいい気分転換になるだろうと判断する。
「そ、そっか…」
クリエナはほっとしたようにそう吐き出すと、それきり黙り込んだ。
そして、意を決したように太郎に目を合わせて切り出した。
「あ、あのね、タロー君には、言っておこうと思って」
そういって、クリエナは懐から小さな花束を出す。手のひらに収まるほどの小さな花瓶はよく小春がほしいといっていたものに似ていて、太郎は内心ほほえましい気持ちになる。
「これがどうかしたのか?」
「えっと、その」
太郎はその花をじっと見つめた。
特に変わったところのない花にしか見えないが、なんとなく太郎はこの花に見覚えがあった。
言いずらそうに口ごもるクリエナに、太郎は視線で問いかける。
やがて意を決したように紡がれたそれに、太郎は驚愕した。
「これ、タロー君が初めて来た日に、ベレンからもらった花なの」
道理で見覚えがあるはずだ。
これは。いや、それはおかしい、だって、太郎が来た日からはもう、数か月の時が経っている。
花畑の花が特別だと言われればそうだろうが、クリエナがわざわざそれを伝えにくるだろうか?
だとすればこれは。
「っ……!」
「……あの、私もなにか、力になればいいと思って。」
「こ、れは、ほかの人には?」
「あ、うん。まだだれにも。お花くらいにしかできないし、これで力法具が使えるわけじゃあないし、その」
「ご、ごめんなさい、今頃になって。迷惑だよね。」
俯き拳を震わせる太郎にクリエナはうろたえる。
「タローくん、頑張ってるから、期待させるといけないと思って、その」
「ごめんなさ「よく言った!」...ふぇ?」
顔をあげれば太郎の顔が至近距離にあった。
クリエナの肩をつかみ、興奮したように揺さぶる太郎は叫ぶ。
「よく言ってくれた!!そうか、そういうことか…...!」
やっぱりそうだよな、そうでなくては。
どこか彼方へ焦点をやり、ブツブツとつぶやく姿はどこか危なかったが、それがクリエナによってもたらされたことだろうことは予想がついた。
やっと、やっと揃った。
太郎にはやっとパズルのピースが揃い、全景(仕組み)が見えた気がしたのだった。
クリエナを見れば、過度な緊張の跡が見て取れた。
とても勇気が要ったのだろう。そして、その行動は真に勇気あるものだった。
なぜならその勇気によって、太郎は糸口を見いだせたのだから。
もう我慢出来ないとばかりに、太郎は廊下を駆け出した。
うおお、難産…!